![]() ![]() |
||||||||||||
業平文治漂流奇談(なりひらぶんじひょうりゅうきだん)
|
||||||||||||
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/9/7 10:54:35 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||||||
|
||||||||||||
序 一 此の度(たび)お聞きに入れまするは、業平文治漂流奇談と名題(なだい)を置きました古いお馴染(なじみ)のお話でございますが、何卒(なにとぞ)相変らず御贔屓(ごひいき)を願い上げます。頃は安永年中の事で、本所(ほんじょ)業平村(なりひらむら)に浪島文治郎(なみしまぶんじろう)と云う侠客(きょうかく)がありました。此の人は以前下谷(したや)御成街道(おなりかいどう)の堀丹波守(ほりたんばのかみ)様の御家来で、三百八十石頂戴した浪島文吾(なみしまぶんご)と云う人の子で、仔細あって親諸共(もろとも)に浪人して本所業平村に田地(でんじ)を買い、何不足なく有福に暮して居(お)りましたが、父文吾相果てました後(のち)、六十に近い母に孝行を尽し、剣術は真影流(しんかげりゅう)の極意を究め、力は七人力(にんりき)あったと申します。悪人と見れば忽(たちま)ち拳(こぶし)を上げて打って懲らすような事もあり、又貧乏人で生活(くらし)に困ると云えば、どこまでも恵んでやり、弱きを助け強きを挫(くじ)くという気性なれども、至極情(なさけ)深い人で無闇に人を打(ぶ)つような殺伐の人ではございません。只今の世界にはございませんが、その頃は巡査と云う人民の安寧(あんねい)を護(まも)ってくださる職務のものがございませんゆえに、強いもの勝ちで、無理が通れば道理引込(ひっこ)むの譬(たとえ)の通り、乱暴を云い掛けられても、弱い者は黙って居りますから文治のような者が出て、お前の方が悪いと意見を云っても、分らん者は仕方がありませんゆえ、七人力の拳骨(げんこつ)で打って、向うの胆(きも)を挫(ひし)いでおいて、それから意見を加えて悪事を止(や)めさせ善人に仕立るのが極く好(すき)で、一寸(ちょっと)聞くと怖いようでございますが、能(よ)く/\見ると赤子も馴染むような美男(びなん)ですから、綽名(あざな)を業平文治と申しましたのか、但(たゞ)しは業平村に居りましたゆえ業平文治と付けたのか、又は浪島を業平と訛(なま)って呼びましたのか、安永年間の事でございますから私(わたくし)にもとんと調べが付きませんが、文治は年廿四歳で男の好(よろ)しいことは役者で申さば左團次(さだんじ)と宗十郎(そうじゅうろう)を一緒にして、訥升(とつしょう)の品があって、可愛らしい処が家橘(かきつ)と小團治(こだんじ)で、我童(がどう)兄弟と福助(ふくすけ)の愛敬を衣に振り掛けて、気の利いた所が菊五郎(きくごろう)で、確(しっか)りした処が團十郎(だんじゅうろう)で、その上芝翫(しかん)の物覚えのよいときているから実に申分(もうしぶん)はございません。文治が通りますと近所の娘さんたちがぞろ/\付いて参りまして、 二 男達(おとこだて)と云うものは寛永(かんえい)年間の頃から貞享(ていきょう)元禄(げんろく)あたりまではチラ/\ありました。それに町奴(まちやっこ)とか云いまして幡隨院長兵衞(ばんずいいんちょうべえ)、又は花川戸(はなかわど)の戸澤助六(とざわすけろく)、夢(ゆめ)の市郎兵衞(いちろべえ)、唐犬權兵衞(とうけんごんべえ)などと云う者がありまして、其の町内々々を持って居て、喧嘩(けんか)があれば直(すぐ)に出て裁判を致し、非常の時には出て人を助けるようなものがございましたが、安永年間には左様なものはございません。引続きお話申します業平文治は町奴親分と云うのではありません、浪人で田地(でんじ)も多く持って居りますから活計(くらし)に困りませんで、人を助けるのが極く好きです。尤(もっと)も仁を為せば富まず、富を為せば仁ならずと云って、慈悲も施し身代(しんだい)も善くするというは中々むずかしいことでありますが、文治は身代もよく、人も助け、其の上老母へ孝行を尽します。兎角(とかく)男達に孝子と云うは稀(まれ)なもので、成程男達では親孝行は出来ないだろう、自分の身を捨(すて)ても人を助けるというのであるから、親に対しては不孝になるだろうと仰しゃった方がありましたが、文治は人に頼まれる時は白刃(しらは)の中へも飛び込んで双方を和(なだ)め、黒白(こくびゃく)を付けて穏便(おんびん)の計(はから)いを致しまする勇気のある者ですが、母に心配をさせぬため喧嘩のけの字も申しませず、孝行を尽して優しくする処は娘子(むすめっこ)の岡惚れをするような美男でございますが、怒(いか)ると鬼をも挫(ひし)ぐという剛勇で、突然(いきなり)まかな[#「まかな」に傍点]の國藏の胸ぐらをとりまして奥の小間に引摺り込み、襖(ふすま)をピッタリと建(た)って國藏の胸ぐらを逆に捻(ねじ)って動かさず、
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] ... 下一页 >> 尾页
|
||||||||||||
![]() ![]() |