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業平文治漂流奇談(なりひらぶんじひょうりゅうきだん)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/9/7 10:54:35 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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三 浪島文治が本所(ほんじょう)業平橋に居りましたゆえに人綽名(あだな)して業平文治と申しましたとも云い、又男が好(よ)いから業平文治と申したとも仰しゃる方があります。尤(もっと)も業平朝臣(あそん)と云うお方は美男と見えまして、男の好いのは業平のようだといい女で器量の好いのを小町(こまち)のようだと申しますが、業平朝臣は東国(あずま)へお下りあって、暫(しばら)く本所業平村に居りまして、業平橋の名もそれゆえに起りましたそうでございますが、都へお帰りの時船が覆(くつがえ)って溺死(できし)されましたにより、里人(さとびと)愍(あわ)れと思って業平村に塚(つか)を建てゝ祭りました、それゆえに前には船の形を致しました石塚でありましたそうで、其の頃は毎月(まいげつ)廿五日は御縁日で大分(だいぶ)賑(にぎわ)いました由にございます。其の天神前で文治は計らずも助けました娘は、親父(おやじ)が眼病ゆえ毎夜親の寝付くを待って家(うち)を抜け出して来て、天神様へ心願を掛けましたと云う事を聞いて、文治が不憫(ふびん)と思って四十両の金を遣(や)りましたけれども、娘は堅いからとんと受けませんで、親父に手渡しにしてくれと云うから、文治も感心し、介抱して松倉町の角まで送って来ると、前(ぜん)申しました剣術遣いの内弟子でございましょう、荒々しい士(さむらい)が無法にも商人(あきんど)を斬ろうとする所ですから、文治が中へ入って和(やわ)らかに詫をすると、付けあがり、容赦はしない、打(ぶ)ち斬って仕舞うと云いながら長柄(ながつか)へ手を掛けたから、文治もプツリッと親指で鯉口を切り、一方(かた/\)の手には蛇の目の傘を持ち、高足駄(たかあしだ)を穿(は)いた儘両人の中へ割込むと、 四 偖(さて)本所松倉町なる小野庄左衞門の浪宅へ、大伴蟠龍軒(おおともばんりゅうけん)と申しまする一刀流の剣術遣いの門弟和田原八十兵衞と、秋田穗庵という医者が参り、娘お町をくれろとの掛合(かけあい)になりましたが、庄左衞門は堅いから向うで金を出したのを立腹して、一言二言(ひとことふたこと)の争(あらそい)より遂にぴかつくものを引抜き、狭い路地の中で白昼に白刃(はくじん)を閃(ひらめ)かし、斬合うという騒ぎに相成りましたから、裏長屋の者は恟(びっく)り致し、跣足(はだし)で逃げ出す者もあり、洗濯婆(ばあ)さんは腰を抜かし、文字焼(もんじやき)の爺(じい)さんは溝(どぶ)へ転げ落るなどという騒ぎでございます。文治郎は短かいのを一本差し日和下駄を穿き、樺茶色(かばちゃいろ)の無地の頭巾を眉深(まぶか)に被(かぶ)って面部を隠し、和田原八十兵衞の利腕(きゝうで)を後(うしろ)からむずと押え、片手に秋田穗庵が鉈のような恰好(かっこう)で真赤に錆びたる刀を振り上げた右の手を押えながら、 五 引続きまする業平文治のお話は些(ち)と流行遅れでございまして、只今とは何かと模様が違います。当今は鉄道汽車が出来、人力車があり、馬車があり、又近頃は大川筋へ川蒸気が出来て何もかも至極便利でありますが、前には左様なものがありませんから、急ぐ時は陸(おか)では駕籠(かご)に乗り川では船に乗ることでありましたが、お安くないから大抵の者は皆歩きました。只意気な人は多く船で往来致しましたから、舟が盛んに行われました。扨(さて)友之助は乗りつけの船宿から乗っては人に知られると思うから、知らない船宿から船に乗って来て桐屋河岸に着けて船首(みよし)の方を明けて、今に来るかと思って煙草を呑みながら時々亀の子のように首を出して待ちあぐんでいると、お村は固(もと)より死ぬ覚悟でございますから、鳥渡(ちょっと)お参りの姿(なり)で桐屋河岸へ来て、船があるかと覗(のぞ)いて見ると、一艘(いっそう)繋(つな)いであって、船首の方が明いていて、友之助が手招ぎをするから、お村はヤレ嬉しと桟橋(さんばし)から船首の方へズーッと這入(はい)ると、直(すぐ)に船頭さん上流(うわて)へ遣っておくれと云うので河岸を突いて船がズーッと右舷(おもかじ)を取って中流へ出ます。そうするとお村は何(なんに)も言わずに友之助の膝(ひざ)に取付き、声を揚げて泣きますから、友之助は一向何事とも分らぬから、兎も角も早く様子が聞きたいと云うので、向島(むこうじま)の牛屋(うしや)の雁木(がんぎ)から上り、船を帰して、是から二人で其の頃流行(はや)りました武藏屋(むさしや)と云う家(うち)がありました、其の家は麦斗(ばくと)と云って麦飯に蜆汁(しゞみじる)で一猪口(ちょく)出来ます。其の頃馴染(なじみ)でございますから人に知れないように一番奥の六畳の小間を借りまして、様子を聞こうと思うと、お村は云う事もあとやさきで只泣く計りでございますから、 上一页 [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] ... 下一页 >> 尾页
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