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大空魔艦(たいくうまかん)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/25 6:23:12 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   戦争の噂


 それは、まだごはんにはすこし早いという或る冬の日だった。
 丁坊は非番でホテルへはいかず、自分の部屋で、飛行機づくりに夢中になっていた。
 そのとき遠くの方で、ピピーという口笛が鳴った。
「ああ、口笛が鳴った。きよちゃんだね。そうだ今日はユンカース機を見せてやろう」
 そういって彼は、長い竹をとりあげて、天井にってあったユンカースの重爆機じゅうばくきの模型をたたみの上におろした。
 ばさーっ。
 玄関に、夕刊の投げこまれる音がした。
「おーい清ちゃん。こっちの窓へお廻りよ」
「ああ、いまいかあ。――」
 とんとんと土をふんで、林檎りんごのように赤くて丸い顔をした鉢巻はちまきすがたの少年が、にっこりと窓の外から顔を出した。
「やあ丁坊。早く見せておくれよ。今日は本社の配達がたいへん遅れちゃったんで、これからいそがなきゃならないんだよ」
 吉岡清君よしおかきよしくんは、動物園のお猿のように、窓の鉄格子てつごうしにつかまってのぞきこんでいる。
「じゃ、早く見なよ。これがほら、この前いったユンカースの重爆機だよ。七十四型というのだ。どうだすごいだろう。ドイツでは、今から十年も前に、これを旅客機として作ったんだ。そのころのドイツは、軍用機を一つもつくることができなかったんだが、いざという場合には、この旅客機を重爆機として、祖国を苦しめる敵軍を爆撃するつもりだったんだ。ほら、よくごらんよ。このつばさの形は、どうだい。操縦席そうじゅうせきのところも、ずいぶん凄いだろう」
「うん、凄いや凄いや」
 と、清君はしきりに頭をふっている。
「もう一台つくったら、君にもあげるよ」
「うふん」と清君は遠慮ぶかいみをうかべたが、
「ねえ丁坊、本社で聞いたんだけど、そのうち北の方で大戦争が起るんだってさ」
「へえ、北の方で大戦争が……」
 と、丁坊は眼をまるくした。
「北の方って、どこだい」
「北の方って、よくは分らないけれど、つまり北極に近い方をいうのだろうさ」
「こんな寒いときにも、北極で戦争をするのかい」
「あんなことをいってらあ、北極の附近なら、年がら年中、氷が張っているじゃないか」
「それはそうだけれど、あの辺だって、夏になると、すこしは氷が溶けるのだよ、氷山なんか割れるしね」
「そうだ。――」と清君は首をひねって、
「いまの大戦争は北極を中心として、シベリヤ、アラスカ、カムチャツカなどという、日本の樺太からふとや北海道よりもずっと北の方へひろがるだろうといってたぜ」
「どうしてそんなところに戦争が起るんだい」
 と、丁坊がたずねると、清君は新聞記者気どりで、
「そりゃ分っているよ。北の方で、世界の国々が、自分のために力をひろげておかねばならぬと喧嘩けんかをはじめるんだとさ。ソ連、米国、英国なんて国がさわいでいるんだよ。日本も呑気のんきに見ていられないだろうといっていた」
「ふーむ、日本もね」
 そういっているところへ、丁坊のお母さまが飴玉あめだまを紙につつんで、清君にあげましょうともってきた。
「清ちゃんはえらいのねえ。新聞配達をして小さい弟や妹をやしなっているんだから……」
 清君はあたまを下げた。
「まだお父さんもお母さんも、御病気がよくならないのかい」
「ええ、まだなんです」


   変な怪我けが


 一家のために、けなげにも新聞配達をして、くらしのしにと、わずかながらもお金を稼いでいる清君は、丁坊のように活発ではないが、おとなしい感心な少年だった。
 それから三日ばかりった日の夜のこと、丁坊はその日も休みで家にいたが、なんとなく、そわそわしていた。
「どうしたんだろう。今日は清ちゃんの夕刊配達が、ばかに遅いけれど、どうかしたのじゃないかしら」
 仲よしの清君の身の上をおもって、丁坊はさすがに心配のあまり、好きな模型づくりもやめてしまった。
 時計はもう七時だ。
 するとピピーと口笛の音が、表口の方にした。
「ああ、清ちゃんが来た」
 丁坊は、そのままとび上るようにして、自分の部屋の窓をあけた。
「おーい。清ちゃん。早くこっちへおいでよ。ばかに今日は遅いじゃないか」
 夕刊をばさっと投げいれる音がした。
 それからばたばたと、窓下へかけてくる小さい足音がした。赤いベレー帽がみえた。その下で白い顔が笑っている。
「おや、――」
 と、丁坊は叫んだ。
「おや、ユリちゃんじゃないか。兄さんはどうしたの」
 意外にも、新聞の入った大きな袋を肩からかけて、窓下に立ったのは清君ではなくて、その妹のユリ子だった。
「丁ちゃん。兄ちゃんは、きょう怪我けがをしたから、配達ができないのよ」
「えっ、兄ちゃんが怪我をしたって。どうして怪我をしたの、そしてどんな怪我なんだい」
 お母さんもとんで出てきて、けなげなユリ子の手を窓ごしに握って、涙をこぼした。
「――さっき、兄ちゃんが沢山の夕刊を持って、この向うの雑木林ぞうきばやしをぬけようとしていると、そのとき、あっという間もなく、頭の上からなんか大きな硬いものが落ちてきて、兄ちゃんの左脚ひだりあしにあたったのよ。それで左脚がひきさいたようにけて、歩けなくなったの。折よくそばを自転車にのった酒屋さんが通りかかったから、うちへ知らせてもらったんだけれど、ずいぶんびっくりしたわ。そんなわけで、あたしが兄さんの代りに配達しているのよ。でも夕刊が遅れるといけないでしょう」
 ユリ子は、けなげにもそういった。丁坊はこのユリちゃんが大好きである。実に、はきはきしている子だったから。
「その大きい硬いものって、何だったの」
「それが分らないのよ。土中どちゅうに深く入っていて、中々掘りだせないんですって」
 ユリ子は悲しそうに首をたれた。
「なんだろうね、そいつは。清ちゃんを怪我させて、黙って地面の下にもぐっているなんて」
 丁坊は大へん腹を立てた。
「よし、僕が一ついって見てきてやろう」
 そういって、お母さんやユリ子のめるのもきかずに、暗いおもてに飛びだした。

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