旅の
船の旅はこのうえなくおもしろかった。なんの
これはたまらなくおもしろくないことであった。そうなればもう
でもそれよりもこれよりもいちばんつらいのは、ミリガン
わたしはある人びとをしたったり、その人びとからかわいがられると、もう一生その人たちといっしょにくらしたいと思う。それがあいにくいつもじきその人たちと
このごろの楽しい生活のあいだに、ただ一つこの
ある日とうとうわたしは思い切って、ミリガン
アーサはわたしが帰って行くという話を聞くと、急にさけびだした。
「帰っちゃいやだ、ルミ。行ってしまってはいやだ」
かれはすすり
わたしはかれに、自分がヴィタリス親方のものになっていること、かれが金を出して両親からわたしを
わたしは両親のことを話した。けれどもそれがほんとうの父親でも母親でもないことは話さなかった。わたしは自分が
「お母さま、ルミはどうしても止めておかなければだめですよ」とアーサは言い
「わたしもルミをここへ止めておくことはたいへんけっこうだと思うけれど」とミリガン
「ああ、それはいますとも、いますとも」とアーサがさけんだ。「ねえルミ、行きたかないねえ、ツールーズへなんか」
「第二には」と、ミリガン
「ルミが先です。ルミが先です」とアーサは言い
ヴィタリスはいい親方であった。かれがわたしにものを教えてくれたことに対しては、わたしはひじょうに
「ルミがわたしたちの所にいても、いいことばかりはないでしょう」とミリガン
「この船にだって遊び半分ではいられません。ルミもやはりあなたと同じようにたくさん勉強をしなければなりません。とても青空の下で旅をして回るような自由な
「ああ、ぼくの思っていることがおわかりでしたら……」とわたしは言いかけた。
「ほらほらね、お母さま」とアーサが口を出した。
「ではわたしたちがこれからしなければならないことは」とミリガン
この
両親に
ああ
まあ自分の父親も母親も知らない子どもが、アーサの友だちであったか。
わたしはミリガン夫人の顔をまともにながめた。なんと言っていいか、わたしはわからなかった。かの女はびっくりしてわたしの顔を見た。わたしがどうしたのか、かの女はたずねようとしたが、わたしはそれに答えもできずにいた。たぶん親方が帰って来るという考えに気が
幸いにじきねむる時間が来たので、アーサからいつまでもふしぎそうな目で見られずにすんだ。やっと心配しながら自分の
たぶん親方はわたしを手放さないであろう。それなればかれらはどうしたってほんとうのことは知らずにいよう。かれらは、わたしの
それから三日たってミリガン
その朝になると、犬たちはなにか
ふとわたしのおさえているひもを前に引くものがあった。わたしはうっかり
親方はわたしを見つけると、手早くカピをどけて、両うでをわたしのからだに投げかけた。
「ああよく
親方はこれまでわたしにつらくはなかったが、こんなふうに
「ルミ、わたしは
それから話の題を
「わたしの所へ手紙を
わたしはここで、どうして白鳥号に乗って
わたしたちはまだ話のすっかりすまないうちに、ミリガン夫人のとまっているホテルに着いた。親方は夫人が手紙でなんと書いて来たか、それは言わなかったから、わたしはかの女の申し出がどんなものであるかなんにも知らなかった。
「そのおくさんはわたしを待っていられるのかな」と、わたしたちがホテルにはいったときにかれは言った。
「ええ、ぼくがいまおくさんの
「それにはおよばないよ」とかれは答えた。「わたしは一人で上がって行く。おまえはここでジョリクールや、犬たちといっしょにわたしを待っておいで」
わたしは、いつでもかれに
どうしてかれはミリガン夫人と話をするのにわたしのいることを
「行っておくさんに、さようならを言っておいで」とかれはことば短に言った。「わたしはここで待っていてやる。あと十分のうちにたつのだから」
わたしはかみなりに打たれたような気がした。
「それ」とかれは言った。「おまえはわたしの言ったことがわからないか。なにを気のぬけた顔をして立っている。早くしないか」
かれはまだこんなふうにあらっぽくものを言ったことがなかった。
「あなたはおくさんになんとお言いに……」二足三足行きかけてわたしは問いかけた。
「わたしはおまえがなくてならないし、おまえにもわたしは
わたしは自分が
ミリガン
「ルミ、きみ行ってはいやだよ。ねえ、ルミ、行かないと言ってくれたまえ」とかれはすすり
わたしはものが言えなかった。ミリガン
「親方さんにお願いしましたが、あなたをこのままわたしたちにくださることを
「あの人は悪い人だ」とアーサがさけんだ。
「いいえ、あの人は悪い人ではありません」とミリガン夫人は言った。「あの人にはあなたがだいじで手放せないわけがあるのです。それにあの人はあなたをかわいがっていられる……あの人はああいう身分の人のようではない、どうしてりっぱな口のきき方をなさいました。お
「でもあの人、ルミの父さんでもないくせに」とアーサはさけんだ。
「それはそうです。でもあの人はルミの主人です。ルミはあの人のものです。さし当たりルミはあの人に
「ああ、いけません。そんなことをしてはいけません」とわたしはさけんだ。
「それはどういうわけです」
「いいえ、どうかよしてください」
「でもそのほかにしかたがないんですもの」
「ああ、どうぞよしてください」
ミリガン
「ご両親たちはシャヴァノンにいるんでしょう」とミリガン夫人はたずねた。
それには答えないで、わたしはアーサのほうへ行って、両うでをかれのからだに回して、しばらくはしっかりだきしめていた。それからかれの弱いうでからのがれて、わたしはふり向いてミリガン
「かわいそうに」と、かの女はわたしの
わたしは戸口へかけて行った。
「アーサ、わたしはいつまでもあなたを
「ルミ、ルミ……」とアーサがさけんだ。その後のことばはもう聞こえなかった。
わたしは手早くドアを
「さあ出かけよう」とかれは言った。
こうしてわたしは
ふぶきとおおかみ
またわたしは親方のあとについて
長い旅のあいだ
これほど深い、しつっこい悲しみの中で、うれしいことには、一つのなぐさめがあった。それは親方がまえよりはずっと優しく、温和になったことであった。
かれのわたしに対する様子はすっかり
わたしがいよいよ村の家を出るじぶんには、ふつうのびんぼうな
そんなときわたしは、ばかな、親方はたかが犬やさるの
だがそう思いながら、よくよく見ると、わたしの目がまちがわないことが
だからもともと向こう見ずでも、乱暴でもなかったわたしは、よけい威勢に打たれて、言いたいことも言い
セットをたってからのち、しばらくわたしたちはミリガン
「おまえは
そのあとでかれはいつも言い足した。
「だがしかたがなかったのだ」
こう言う親方のことばを、
親方がしかたがなかったと言ったとき、こういう考えになっていたのは
でもなぜかれがミリガン
もうこれでは親方も
それにしても、なぜ白鳥号には出会わないのであろう。
それはローヌ川を上って行くはずであった。そうしてわたしたちはその川の岸に
それで歩きながらわたしの目は
わたしたちがアルルとか、タラスコンとか、アヴィニオン、モンテリマール、ヴァランス、ツールノン、ヴィエンヌなど、という町に着いたときに、いちばん先にわたしの行ってみるのは、
でもそれはいつも白鳥号ではなかった。
ときどきわたしは思い切って船頭に聞いてみた。わたしの
このごろでは親方も、わたしをミリガン
わたしたちは何週間もリヨンに
しかしやはりわからなかった。とうとう白鳥号を見つけることはできなかった。
わたしたちはとうとうリヨンを去らなければならなかった。そしてディジョンに向かった。それでわたしはもうミリガン
いよいよいけなくなったことは、冬がいまや
ディジョンをたってから、コートドールの山道をこえたときなどは、雨にぬれて
親方の
道みちの町や村でも、
シャチヨンをたってから、
もういく日かしめっぽい日が
わたしたちがちょっとした大きな村に着くまではまだ雪にもならなかった。でも親方は、なんでもトルアの町へ早く行こうとあせっていた。そこは大きい町だから、ひじょうに悪い天気で五、六
でもかれはすぐにはとこにはいらなかった。台所の
あくる日の朝、わたしは言いつけられたとおり早く起きた。まだ夜が明けてはいなかった。空はまっ暗な雲が
「わたしがあなただったら、きょうは出るどころではありません。いまにひどいふぶきになりますぜ」
「わたしは急いでいるのだ」と親方は答えた。「その大ふぶきの来るまえにトルアまで行きたいと思っている」
「六、七里(約二十四~二十八キロ)もありますよ。一時間やそこらで行けるものですか」
でもかまわずわたしたちは出発した。
親方はジョリクールをしっかりからだにだきしめて、自分の温かみを少しでも分けてやろうとした。犬は
わたしたちは口を開くのがひどくふゆかいだったので、だまりこんで歩きながら、少しでも
もう夜明けの時間をよほど
ふと北の空に青白い
わたしたちが通って行く道は
わたしたちはまた少ししか歩いてはいなかった。雪の
わたしはまだ雪風というものがどんなものだかよく知らなかった。
しかしまもなくそれがほんとうにわかった。しかもわたしにはけっして
雲が東北からむくむく集まって来た。そこの空にかすかな明るみが見えたと思うと、やがて雲のふところが開いて、どんどん大きな雪のかたまりが落ちて来た。もう空中をちょうちょうのようにはまわなかった。ふんぷんとすばらしい
「とてもトルアまではだめだ。なんでもうちを見つけしだい休むことにしよう」と親方が言った。
わたしは親方がそう言うのを聞いてうれしかったけれども、いったいうまく休むうちが見つかるであろうか。まだそこらが白くならないまえにわたしが見ておいたかぎりでは、一けんもうちは見えなかった。そればかりではない。おいおい村に近づいているという気配も見えなかった。
わたしたちの前には
雪はいよいよはげしく
犬たちももう先に立ってかけることができなかった。かれらはわたしたちのかかとについて歩いて、早く休むうちを
道はいっこうにはかどらなかった。わたしたちはとぼとぼ
わたしは親方がなにか
わたしは長い道の向こうばかりまっすぐに見ていた。この森がもうほどなくおしまいになって、人家が
だが目の
わたしはこれまで
でもやはり行くだけは行かなければならなかった。わたしたちの足はだんだん深く雪の中にもぐりこんだ。そのときふと、なにも言わずに親方が左手を指さした。なるほど、わたしはぼんやりと、空き地の中に
わたしたちはその小屋に通う道を
その小屋は
犬たちはうれしがって、元気よく先に立ってかけこんだ、ほえながらたびたびかわいた土の上をほこりを立てて
わたしたちの
「こういう森の中の木を切ったあとには、きこりの小屋があるはずだと思っていた」と親方が言った。「もういくら雪が
「そうですとも。雪なんかいくらでも降れだ」とわたしは大いばりで言った。
わたしは戸口――というよりも小屋に
わたしたちの
なによりも火がいちばんのごちそうだ。
さてまきだが、このうちでそれを見つけることは
わたしたちはただかべや屋根からまきを引きぬいて来ればよかった。それはわけなくできた。
まもなくたき火の赤いほのおがえんえんと立った。むろん小屋はけむりでいっぱいになったが、そんなことはいまの場合かまうことではなかった。わたしたちの
わたしは両手をついて、
ジョリクールはやっと親方の上着の下からのぞくだけの元気が出て、用心深く鼻の頭を外に向けてそこらをながめ回した。安全な場所であることを
親方は用心深い、
わたしはわかったが、しかし犬にはわからなかった。それでかれらはろくろく食べもしないうちにパンが
背嚢はとうとう開かれなかった。犬はあきらめてねむる決心をした。カピは
わたしはどのくらいねむったか知らなかった。目が
何時だろう。
わたしはそれを親方にたずねることができなかった。なぜなら
時計を見ることができないとすれば、日の
なんの物音も聞こえなかった。雪はあらゆる生物の活動をそれなりこおらせてしまったように思われた。
わたしは小屋の入口に立っていると、親方の
「これから出て行けると思うかな」とかれはたずねた。
「わかりません。あなたのいいようにしたいと思います」
「そうか、わたしはここにいるほうがいいと思う。まあまあ屋根はあるし、たき火もあるのだから」
それはほんとうであったが、同時にわたしは食物のないことを思い出した。けれどもわたしはなにも言わなかった。
「どうせまた雪は
そうだ。わたしたちはこの小屋に
親方がナイフをズボンのかくしにしまうと、これは食事のすんだ知らせであったから、カピは立ち上がって、食物を入れたふくろのにおいをかいだ。それから前足をふくろにのせてこれにさわってみた。この二重の
「もうなにもない。ねだってもだめだよ」かれはこれを大きな声で言ったと同様、はっきりと
かれの
雪がまたずんずん
わたしたちはいよいよここへねむるとすれば、なによりいちばんいいことは、できるだけ早くねつくことであった。わたしは昼間火でかわかしておいた毛皮服にくるまってまくらの代わりにした。平ったい石に頭をのせて、たき火の前に横になった。
「おまえはねむるがいい」親方が言った。「わたしのねむる番になればおまえを起こすから。この小屋ではけものもなにも心配なことはないが、二人のうち一人は起きていて、火の消えないように番をしなければならない。用心してかぜをひかないように気をつけなければいけない。雪がやむとひどい寒さになるからな」
わたしはさっそくねむった。親方がまたわたしを起こしたときには、夜はだいぶふけていた。たき火はまだ
「今度はわたしのねむる番だ」と親方が言った。「火が消えたら、ここへこのとおりたくさん
なるほどかれはたき火のわきに小えだをたくさん
たしかにこれはかしこいやり方ではあったけれど、
かれはいまジョリクールを自分の外とうですっかりくるんだまま、たき火の前にからだをのばした。まもなくしだいに高く、しだいに
そのときわたしはそっと立ち上がって、つま先で歩いて、外の様子がどんなだか、入口まで出て見た。
草もやぶも木もみんな雪にうまっていた。日の
「ああ、この森のおくで雪の中にうめられてわたしたちはどうすればいいのだ。この雪と寒さの中で、この小屋でもなかったらどうなったであろう」
わたしはそっと音のしないように出たのであったが、やはり犬たちを起こしてしまった。中でもゼルビノは起き上がってわたしについて来た。夜の
わたしはかれに中にはいるように
わたしは、まっ白な夜をながめながらまだ二、三分そこに立っていた。それは美しい
とうとうわたしはまたたき火のそばへ帰って、二、三本まきをたがいちがいに火の上に組み合わせて、まくらの代わりにした石の上にこしをかけた。
親方はおだやかにねむっていた。犬たちとジョリクールもまたねむっていた。ほのおが火の中から上って、ぴかぴか火花を
長いあいだわたしは火をながめていたけれど、だんだん
ふとはげしいほえ声にわたしは目が覚めて、とび上がった。まっ暗であった。わたしはかなり長いあいだねむったらしく、火はほとんど
カピはけたたましくほえたてていた。けれどふしぎなことにゼルビノの声もドルスの声もしなかった。
「どうした。どうした」と親方が目を
「知りません」
「おまえはねむっていたのだな。火も消えている」
カピは入口までかけ出して行ったが、外へとび出そうとはしなかった。出口でウウ、ウウ、ほえていた。
「どうした。どうしたというんだろう」わたしは今度は自分にたずねた。
カピのほえ声に答えて、二声三声、すごい悲しそうなうなり声が聞こえた。それはドルスの声だとわかった。そのうなり声は小屋の後ろから、しかもごく近い
わたしは外へ出ようとした。けれど親方はわたしの
「まあまきをくべなさい」かれは
言いつけられたとおりにわたしがしていると、かれは火の中から一本小えだを引き出して、火をふき消して、
かれはそのたいまつを手に持った。
「さあ、行って見て来よう」とかれは言った。「わたしのあとについておいで。カピ、先へ行け」
外へ出ようとすると、はげしいほえ声が聞こえた。カピはこわがって、あとじさりをして、わたしたちの間に身をすくめた。
「おおかみだ。ゼルビノとドルスはどこへ行ったろう」
なにをわたしが言えよう。二ひきの犬はわたしのねむっているあいだに出て行ったにちがいない。ゼルビノはわたしがねつくのを待って、ぬけ出して行った。そしてドルスが、そのあとについて行ったのだ。
おおかみがかれらをくわえたのだ。親方が犬のことをたずねたとき、かれの声にはその
「たいまつをお持ち」とかれは言った。「あれらを助けに行かなければならない」
村でわたしはよくおおかみのおそろしい話を開いていた。でもわたしはちゅうちょすることはできなかった。わたしはたいまつを取りにかけて帰って、また親方のあとに
けれども外には犬も見えなければおおかみも見えなかった。雪の上にただ二ひきの犬の足あとがぽつぽつ
「カピ、行って見て来い」と親方は言った。同時にかれはゼルビノとドルスを
けれどこれに答えるほえ声は聞こえなかった。森の中の重苦しい
もう一度親方は
「ああ、かわいそうなドルス」親方はわたしの心配しきっていることをすっぱり言った。
「おおかみがつかまえて行ったのだ。どうしてあれらを放してやったのだ」
そう、どうして――そう言われて、わたしは答えることばがなかった。
「行って
わたしは先に立って行こうとしたけれど、かれはわたしを引き止めた。
「どこへ探しに行くつもりだ」とかれはたずねた。
「わかりません、ほうぼうを」
「この暗がりでは、どこに行ったかわかるものではない。この雪の深い中で……」
それはほんとうであった。雪がわたしたちのひざの上まで
「ふえをふいても答えないとすると、遠方へ行ってしまっているのだ」とかれは言った。
「わたしたちは、むやみに進むことはならない。おおかみはわれわれにまでかかって来るかもしれない。今度は自分を守ることができなくなる」
かわいそうな犬どもを、その
――われわれの二人の友だち、それもとりわけわたしにとっての友だちであった。それになにより
親方は小屋に帰って行った。わたしはそのあとに
雪のほかにはなにも見えなかった。なんの声も聞こえなかった。
こうしてわたしたちが、小屋にはいると、もう一つびっくりすることがわたしたちを待っていた。火の中に投げこんでおいたえだは
親方の言うには、かれの目を
どこかたばねたまきのかげにでもかくれているのではないかと思って、わたしたちはまた小屋へ帰って、しばらく
わたしは親方の
親方はぷりぷりかんしゃくを起こしているようであった。わたしはがっかりしていた。
わたしは親方に、おおかみがかれまでも取って行ったのではないかとたずねた。
「いいや」とかれは言った。「おおかみは小屋の中までははいっては来なかっただろう。ゼルビノとドルスは外へ出たところをくわえられたかと思うが、この中までははいって来られまい。たぶんジョリクールはこわくなって、わたしたちの外に出ているあいだにどこへかかくれたにちがいない。それをわたしは心配するのだ。このひどい寒さでは、きっとかぜをひくであろう。寒さがあれにはなにより
「じゃあどんどん
わたしたちはまたそこらを歩き回った。けれどまるでむだであった。
「夜の明けるまで待たなければならない」と親方が言った。
「どのくらいで明けるでしょう」
「二時間か三時間だろう」
親方は両手で頭をおさえてたき火の前にすわっていた。
わたしはそれをじゃまする
わたしはかれがそんなふうにだまって悲しそうにしていられるよりも、かまわずわたしにおこりつけてくれればいいと思った。
三時間はのろのろ
でも星の光がいつか空からうすれかけていた。空がだんだん明るく、夜が明けかかっていた。けれども明け方に近づくに
これでジョリクールを見つけたとしても、かれは生きているだろうか。
見つけ出す
きょうもまた雪が
でも雪はもう来なかった。そして空にばら色の光がさして、きょうの
すっかり明るくなって、
カピはもうゆうべのようにびくついてはいないようであった。目をしっかり親方にすえたまま、いつでも合図しだいでかけ出す仕度をしていた。
わたしたちが下を向いてジョリクールの足あとを
小屋のわきの大きなかしの木のまたで、わたしたちはなにか黒い小さなもののうごめく
これがかわいそうなジョリクールであった。夜中に犬のほえる声におびえて、かれはわたしたちが出ているまに、小屋の屋根によじ上った。そしてそこから一本のかしの木のてっべんに登って、そこを安全な場所と思って、わたしたちの
かわいそうな弱い動物。かれはこごえてしまったにちがいない。
親方がかれを
数分間親方はかれを
わたしの
わたしはつぐないをしなければならない。
「登ってつかまえて来ましょう」とわたしは言った。
「
「いいえ、だいじょうぶです。わけなくできますよ」
それはほんとうではなかった。それは
わたしはごく小さかったじぶんから木登りをすることを習った。それでこの
わたしは登りながら、
わたしはほとんど手の
わたしはそのえだまでかれを追っかけたけれど、人間の
これでさるの足が雪でぬれていなかったら、とてもかれをつかまえることはできそうもなかった。かれは足のぬれることを
ジョリクールを見つけるのはたいへんなことであったがそれだけではすまなかった。今度は犬を
もうすっかり昼になっていた。わけなくゆうべの出来事のあとをたどることができた。雪の中でわたしたちは犬の死んだことがわかった。
わたしたちは十
それからほかのけものの足あとが見えた。一方にはおおかみどもは犬にとびかかって、はげしく
かわいそうな二ひきの犬は、わたしのねむっているあいだに死にに行ったのであった。
でもわたしたちはできるだけ早く帰って、ジョリクールを温めてやらなければならなかった。わたしたちは小屋へ帰った。親方がさるの足と手を持って、赤んぼうをおさえるようにして、たき火にかざすと、わたしは
親方とわたしはたき火のそばにすわって、だまってまきの
「かわいそうに、ゼルビノは。かわいそうに、ドルスは」
わたしたちは代わりばんこにこんなことばをつぶやいた。
あの犬たちは、楽しいにつけ苦しいにつけ、わたしたちの友だちであり、
わたしがしっかり
どうにかしていっそ親方がひどくわたしをしかってくれればよかった。かれがわたしを打ってくれればよかった。
けれどかれはなにも言わなかった。わたしの顔を見ることすらしなかった。かれは火の上に首をうなだれたまま、おそらく犬がなくなって、これからどうしようか考えているようであった。