第四の男は語る。
「わたくしは『宣室志』のお話をいたします。この作者は
この書も早く渡来しましたので、わが国の小説や伝説に少なからざる影響をあたえているようでございます」
七聖画
唐の
この殿堂が初めて落成したときに、寺の僧が画工をまねいて、それに
「われわれは画を善く描く者です。このお寺で画工を求めているということを聞いて参りました。画料は頂戴するに及びませんから、われわれに描かせて下さいませんか」
「それではお前さん達の描いた物を見せてください」と、僧は言った。
「われわれの兄弟は七人ありますが、まだ長安では一度も描いたことがありませんから、どこの画を見てくれというわけには行きません」
そうなると、やや不安心にもなるので、僧は少しく
「しかし、われわれは画料を一文も頂戴しないのですから、もしお気に入らなかったならば、壁を塗り換えるだけのことで、さしたる御損もありますまい」
なにしろ
「これから七日のあいだ、決してこの殿堂の戸をあけて下さるな。食い物などの御心配に及びません。
こう言って、かれらは殿堂のなかに閉じ籠ったが、それから六日のあいだ、堂内はひっそりしてなんの物音もきこえないので、寺の僧等も不審をいだいた。
「あの七人はほんとうに画を描いているのかしら」
「なんだかおかしいな。なにかの化け物がおれ達をだまして、とうに消えてしまったのではないかな」
評議まちまちの結果、ついにその殿堂の戸をあけて見ることになった。幾人の僧が忍び寄って、そっと戸をあけると、果たして堂内に人の影はみえなかった。七羽の
さてこそと堂内へはいって調べると、壁画は色彩うるわしく描かれてあったが、約束の期日よりも一日早かったために、西北の窓ぎわだけがまだ描き上げられずに残っていた。その後に幾人の画工がそれを見せられて、みな驚嘆した。
「これは実に霊妙の筆である」
誰も進んで描き足そうという者がないので、堂の西北の隅だけは、いつまでも白いままで残されている。