![]() ![]() |
||||||||||
権三と助十(ごんざとすけじゅう)
|
||||||||||
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/27 9:22:10 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||||
|
||||||||||
登場人物 神田橋本町の裏長屋。壁一重を境にして、 (けふは長屋の井戸がへにて、相長屋の願人坊主、雲哲、願哲の二人も手傳ひに出てゐる 雲哲 やれ、やれ、暑いことだぞ。
願哲 まさか笠をかぶつて井戸がへにも出られず、この
雲哲 まつたく今日の井戸がへは
おかん お前さん達もあたしのやうに手拭でつつんでゐれば好いぢやありませんか。
願哲 かういふ時には女は格別、男は鉢卷でないと
助八 はゝ、笑はせるぜ。鉢卷をしたつて、すつとこ
おかん 與助さん。おまへさんもお飮みでないかえ。(茶碗を出す。)
與助 (進みよりて丁寧に會釋する。)はい、はい。いや、これはありがたい。實はさつきから
助八 いくらおめえの商賣でも、長屋の井戸がへにえて公を
與助 それがね。(猿をみかへる。)なにしろ
おかん 畜生でも可愛いもんだねえ。
與助 可愛いもんですよ。
助八 ぢやあ、おれも可愛がつて
おかん おまへさんが
與助 こいつは何うも氣が
助八 痛てえ、痛てえ。(手の甲を撫でながら。)氣が
おかん 猿に江戸前も旅もあるものかね。うなぎと間違へてゐるんだよ。(笑ふ。)
雲哲 山の芋が鰻になつても、山猿がうなぎになつたと云ふ話は聞かないな。
願哲 はゝ、こいつは大笑ひだ。
助八 おい、與助。その山猿をおれに貸してくれ。
與助 え、どうするのだね。
助八 おれ一人が引つかゝれた上に、みんなのお笑ひ草になつちやあ割に合はねえ、そいつをこゝへ追つ放して、片っ端から引つ掻かして遣るのだ。
おかん (おどろく。)あれ、馬鹿なことをお云ひでないよ。
雲哲
(助八は猿を取らうとする。與助は遣るまいとする。この爭ひのあひだに助八は又引つかゝれる。)
助八 あ、こん畜生め、又遣りやあがつたな。もういよ/\
與助 えゝ、人の商賣物をどうするのだ。
(助八と與助は爭つてゐるところへ、上のかたより助八の兄助十、三十歳前後、これも鉢卷、刺青のある肌ぬぎ、
助十 やい、やい。なにを騷いでゐるのだ。煙草休みも好い加減にしろ。いつまでもこんな泥仕事をしちやあゐられねえ。日の暮れねえうちに早く濟して仕舞はなけりやあならねえのだ。みんなも精出して遣つてくれ。大屋さんに叱られるぞ。
與助 大屋さんに叱られては大變だ。さあ、行きませう。
雲哲 さうだ、さうだ。
願哲 やれ、やれ、又一と汗かくかな、
(與助と雲哲、願哲は上のかたに去る。)
助十 (おかんに。)おい、かみさん。おめえの
おかん 奧に寢てゐますよ。
助十 冗談ぢやあねえ。一年に一度の井戸がへだから、長屋中の者がみんな商賣を休んで、かうして泥だらけになつて働いてゐるんぢやねえか。その最中に自分ひとり
おかん (むつとして。)何もそんなに
助十 えゝ、おめえのやうな
助八 今までおれも氣が
おかん おまへさん達は人聞きが惡い。二口目にはぬす人のひる寢なんぞと、大きな聲で云つてお
助十 それを云へば、おれだつて同じ商賣で片棒をかついでゐるのぢやあねえか。そのおれが斯うして働いてゐるのに、相棒の權三が寢てゐるといふ法があるものか。
おかん 相棒と云つても、内の人は先棒だよ。ちつとは遠慮をするものさ。
助十 先棒でも後棒でも、斯ういふときに遠慮が出來るものか。
助八 先棒を
おかん 兄弟が相棒で
助十 (すこし詰まつて。)なに、駕籠なんぞは何處からでも拾つて來る。なあ、八。
助八 むゝ、大川へ行つてみろ。そんな駕籠なんぞは
おかん 下駄の古いのと一緒になるものかね。ばか/\しい。詰らない無駄口をおききでないよ。
助十 手前の方がよつぽど無駄口を
(奧の障子をあけて權三、これも三十歳前後の刺青のある男、浴衣の片褄を取りながら出づ。)
權三 やい、やい。さつきから奧で聞いてゐりやあ、手前たちは兄弟揃つて、よくも口から出放題の
おかん ほんたうに近所迷惑とはこつちで云ふことさ。よるも晝も兄弟喧嘩を商賣のやうにしてゐて、その仲裁に行くのはいつでもあたしの役ぢやあないか。
助八 えゝ、手前たちこそ毎日毎晩、犬も食はねえ夫婦喧嘩ばかりしてゐやあがつて、その
助十 まあ、まあ、だまつてゐろ。こんなすべた女郎を相手にしたつて始まらねえ。やい、權三。(縁に腰をかける。)手前も
權三 それだからおれの
助十 女なんぞは頭數ばかりで役にやあ立たねえ。おれの家ぢやあ斯うして大の男が兄弟揃つて出てゐるのだ。
權三 そりやあ手前たちの物ずきで勝手に騷いでゐるのよ。だれも頼んだわけぢやあねえ。折角よく寢てゐるところを、無暗にがあ/\呶鳴りやあがつて、たうとう起してしまやあがつた。(眼をこする。)おい、おかん。茶を一杯くれ。
おかん あい、あい。
(おかんは茶を汲んでやれぱ、權三は飮む、この時、上のかたにて大勢の聲きこゆ。)
大勢 さあ、さあ、引いた、引いた。
助八 あにい、又始まつたぜ。早く行かう。
助十 むゝ、こんな奴等にかゝり合つてゐると、日が暮れらあ。
大勢 引いた、引いた。
助十 おうい。待つてくれ。
助八 待つてくれ。
(助十と助八は鉢卷をしめ直して、急いで上のかたへ行く。)
おかん ほんたうに憎らしい奴だねえ。あたしももう行くまいかしら。 權三 かまふものか。打つちやつて置け。(
おかん 暑い暑いと云つても、もう秋だとみえて、
(おかんも澁團扇をとつて權三を
權三 おや、おや、手前けふは
|
||||||||||
![]() ![]() |