打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口

大宇宙遠征隊(だいうちゅうえんせいたい)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-25 6:20:48 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   十五年の行程こうてい


「おい、三郎。いつまで、ねているんだい。もういいかげんに、目をさましたらどうだい」
 その声は、ひびの入った竹ぼらをふくと出てくる音に似ていた。そこで三郎は、ようやく釣床つりどこの中で、眼をさましたのだった。すこぶるやかまし屋の艇夫長ていふちょう松下梅造まつしたうめぞうの声だと分ったから目をさまさないわけにいかなかった。ぐずぐずしていれば、足をもって、逆さまに釣り下げられ、裸にされてしまうおそれがあった。そんな眼にあっては、また大ぜいのものわらいである。
「はい。今おきますよ」
「おきますよ? そのがいけない。はい、おきます――だけでいいんだ。よけいなをつけるない」
(これはいけない!)
 三郎は、あわてて釣床から下に落ちるようにして、おきたのだった。
 はたして、前には、艇夫長松下梅造が、西郷さいごうさんの銅像のような胸をはって、釣床ごしに彼の顔をにらみつけていた。
「艇夫長、お早う。もう朝になったのですかい」
「知れたことだ。あと三十分で、お前の交替時間だぞ。時計は、七時半をさしていらあ」
 艇夫長は、そういって、拳固げんこのせなかで、赤い団子鼻だんごばなをごしごしとこすった。
 ぷう、ぷう、ぷう。
 知らない人がきいたら、このとき豚のがないたのかと思うだろう。しかしそのぷうぷうは豚の仔がないたのではなくて、艇夫長の鼻が鳴ったのであった。鼻をこすると、この奇妙な音がするのであった。
(これは、たいへん。艇夫長のごきげんが、きょうはたいへん悪いぞ!)
 三郎は、あわてて、パンツの中へ足をつきこんだ。あまりあわてたので、パンツの片方へ、足を二本ともつきこんだので、彼は身体の中心をうしなって、どすんとゆかにたおれた。たおれる拍子ひょうしに、そこにあった気密塗料きみつとりょうの缶をけとばしてしまった。缶は、横とびにとんで、艇夫長のこうずねに、ごつんといやな音をたてて、ぶつかった。
「こらっ、なにをする」
 艇夫長は、顔をたちまち仁王におうさまのように、真ッ赤にして、缶をけりかえそうとした。が、とたんに足をとどめて、床から缶をひろいあげた。
「ああ、もったいないことをやるところだった。この一缶が、おれたちの生命いのちをすくうこともあるかもしれないのだからなあ。やい、三郎、気をつけろい。ここは、地球の上じゃない。まるで何もない大宇宙の砂漠なんだから……」
 艇夫長は、缶をそっと床の上において、しずかに、もとすみへおしやった。大宇宙の長旅にある噴行艇の中では、一滴の塗料、一条の糸も、人命にかかわりのある貴重な物質であった。
「おい、三郎。早く飯を食って、交替時間におくれるな。いいかい、小僧」
「へーい」
 艇夫長は、ようやく腹の虫を自分でおさえて、艇夫寝室を出ていった。
 三郎は、ほっとため息をつきながら、すばやく身じたくをし、それから釣床の中を片づけて交替の艇夫がすぐさまねられるように用意をした。そして急ぎ足で、小食堂の方へ階段をのぼっていったのだった。
 小食堂には、先におきた艇夫たちと、それから非番の艇夫たちが、卓をかこんで、さかんにぱくついたり、茶をがぶがぶのんだり、それから煙草たばこをぷかぷかふかしたり、まるで場末の小食堂とかわらない風景だった。
 三郎が入っていくと、艇夫たちは、にんまりと眼で笑って、そのまま話をつづけるのだった。三郎は、並べられた朝食に手を出しながら、彼らのいうことを、聞くとはなしに耳をかたむけた。
「……というわけなんだが、なんかいい名前を考えてくれよ」
「そうさなあ。そんなことはわけなしだい。チュウイチてえのはどうだ」
「チュウイチ? どんな字を書くのかね」
「宇宙の宙と、一二三の一よ。つまり宙一というわけだ。お前は、はじめて噴行艇にのって宇宙へのりだしたんだろう。だから、その留守るすに生れた子供に宙一とつけるのは、いいじゃないか」
「なるほど、宙一か。よい、いい名前だ。昨夜からおちつかなかったが、これでやっと、気がおちついたぞ」
 と、その艇夫は立ち上る。
「お前、どこへいくんだい」
「知れたことよ。これから無電室へいって、今すぐ家内かないのやつを、無電で呼びだしてもらって宙一という名をおしえてやるのさ。説明してやらなくちゃ、うちの家内は、あたまが悪いと来ているから、通じないよ」
「まあ、なんとでもするがいい。ついでに、うちの家内にことづけをして、お前の家内のところへ、子供の誕生の祝物をとどけるようにいってくれ」
「ばかなことをいうな。こっちから、さいそくをする――それではおかしいよ」
「遠慮するようながらでもあるまいに、あははは」
「あははは。とにかくいって来よう」
 艇夫の一人は出ていった。
 あとで仲間の艇夫たちは、顔を見合わせ、
「ああはいったが、すこしは里心さとごころがついているのじゃないかな。つまり、この噴行艇がこんど地球に戻るのは十五年後だから、昨夜生れたあの男の子供が、十五六歳にならなきゃ、わがの手がにぎれないんだからなあ」
「うむ、まあ、そうだ。だが、そんな話はよそうや。こっちまでが、里心がつくからな」
 十五年後だと、艇夫たちが話をしているところをみると、この噴行艇は、これからずいぶん長い行程をとびつづけるものらしい。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]  ...  下一页 >>  尾页




打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口