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大宇宙遠征隊(だいうちゅうえんせいたい)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-25 6:20:48 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



   甲虫かぶとむしか鳥か


「クマちゃん、あそこに誰かいるよ」
「誰かがいるって、誰がさ」
 木曾は問いかえした。
「ほらあそこだ。この丘の下の、大砲みたいに先のとがった岩の下だよ。かげになってくらいから、はっきりわからないが、ほら、丸い頭がうごいているじゃないか」
「丸い頭が……」
「ほら、日なたへ出てきた、先頭の一人が……。おやッ」
 そこで三郎は、おどろきのこえをあげた。その拍子に、触角がはなれて、三郎のこえは木曾にきこえなくなった。木曾は、あわてて、触角を三郎の方へ近づけた。三郎のこえが、再びきこえだした。
「……あれは何者だろう。人間じゃない……」
「え、人間じゃないって」
 木曾はおどろいて、さっき三郎のゆびさした方をみた。
「あ、あれは……」
 木曾は、その場にふるえあがった。
 怪物がいるのだ。
 大砲岩の下から、日なたへよじのぼってきた四つ五つばかりの影――それは後から見ると、ござをかぶった人間のような形に見えたが、正面を向いたところを見ると人間ではなかった。ちょうど、甲虫とペンギン鳥の合いの子をお化けにしたような異様な姿の生物であった。
「あれは何だろう」
「すごい化け物だ。月世界の生物だ」
「月世界には、生物はいないはずだが……」
「だって、あの怪物は、ちゃんとぼくたちの眼に見えているんだぜ。夢をみているわけじゃない。あれは鳥の化け物だろうか、それとも甲虫の化け物だろうか」
「どっちだか、わからない。おや、あの怪物は、手に缶詰をもっているじゃないか」
 三郎が、また重大発見をした。
 なるほど、化け鳥か化け甲虫かのその怪物は、ゴムでこしらえたむちのような手に、赤い缶を持っているのだった。見ているうちに、その怪物は日なたに出ると、並んで岩の上にこしをおろした。穴からはい出して日なたぼっこをはじめたようにみうけられた。
「おやおや、あれをごらんよ」
 三郎が、さけんだ。
 ふしぎなことを、その怪物ははじめた。手にもっていた缶詰を頭の上にのせるのであった。しばらくすると、その缶詰を頭からおろす。そして怪物は缶詰の中をのぞきこむのであった。そのときは、缶詰は、いつの間にか穴があいて中がからになっていた。怪物はその空缶を、ぽいと捨てた。そしてこんどは別の缶詰をひょいと頭の上にのせた。そして同じ動作がくりかえされたのであった。
「ふしぎ、ふしぎ」
「三ぶちゃん、あれは何をやっているのだろうね」
「あれは、缶詰をたべているのさ」
「缶詰をたべているって、頭で缶詰をたべるのかい。おかしいじゃないか。なぜ口でたべないで、頭でたべているのだろうか」
「さあ、そんなこと、ぼくにはわからないよ」
 頭で缶詰をたべる怪物なんて、きいたことがない。そのくせその怪物は、くちばしのような形をした長い口吻こうふんをもっていた。
 あまりふしぎな光景に、われをわすれて見とれていた風間三郎は、やがてのことに、はっとわれにかえり、
「クマちゃん。早くひきかえして、辻中佐たちにしらせようじゃないか」
「ああ、そうだったね。ぼくたちは、おもいがけなく斥候隊せっこうたいになっちまったね」
 そういって二人は、いつしか中ごしになっていたこしをのばした。そして岩の上をとんで、うしろへ引きかえそうとした。
 そのときだった。とつぜん、不幸なことが起った。
 三郎のすぐうしろにいた木曾が、どうしたはずみか、するっと、岩かどから足をふみはずしたのであった。
「あっ、しまった!」
 とさけんで、木曾は自分の身体をささえようとして、前にいた何にもしらない三郎の背中にしていたタンクにしがみついたのであった。空気があれば、いちはやく、そのけはいが、三郎にわかって、彼はうしろをふりむいて、応急処置ができたのであるが、なにしろ音というもののない世界だけに、三郎は木曾にしがみつかれるまで、何にも知らなかったのである。そして、
「あ、あぶない」
 と気がついたときには、もうおそかった。三郎の身体はすっかり重心をうしなっていた。そして次の瞬間には、二人は宇宙服を着たまま、丘のうえから、ごろんごろん下へころげおちはじめた。下には、例の怪物団が日なたぼっこしているのだった。二人はその前へ……。


   怪物の訊問じんもん


 ゆるやかに、ごろんごろんと落ちていったので、二人はべつにけがをするようなこともなかった。そして三分の二ばかりころげおちた途中で気がついて、三郎は岩かどにつかまって、おちていく自分の身体を支えたのであった。
「おい、クマちゃん。岩にしがみつけ」
 とさけんだが、この三郎のこえは、もちろん木曾にとどくはずがなかった。そして木曾は、あいかわらずごろんごろんところがって、御丁寧ごていねいにも、怪物団の足もとまでころげおちて、やっとそこへからだは停まった。
「ちぇっ、まずいことをやったなあ」
 怪物団の方では、気がついて、さわぎはじめた。木曾は、たちまち彼等のためにとりおさえられるし、三郎も、木曾をたすけようか、それとも報告のためにこのまま引きかえそうかと考えているうちに、いつのまにか彼等のため、とりかこまれてしまった。
 二人は、やがて怪物団の前に、引きすえられた。さあ、つつき殺されるか、生き血をすわれるのか。三郎は、もう死を観念して、どうでもなれと、大きな眼をむいて、相手をにらみつけていた。
 怪物たちは、岩かどにこしをおろし、二人を見すえながら、頭をよせて何か話をしている様子であったが、もちろん怪物たちのこえは一向いっこうにきこえない。
 三郎は、この間に、怪物のすがたを、くわしく見ることができた。
 とおくから見ると、この怪物は、甲虫かぶとむしかペンギン鳥のように思われたが、そば近く見ると、かならずしもそうではなかった。甲虫やペンギン鳥よりもずっと高等な動物のように見えた。というのは、まず第一に彼等は触角みたいなものをふりながら、おたがいに話をしている様子である。しかも、話をしながら、いろいろと、こまかく身ぶりをするところを見ても、猿なんかよりも高等な智慧ちえをもった動物のように見えた。
 全くふしぎな、気持のわるい生物である。
 その怪物は、くるくるうごく、大きな顔をもっていた。顔のまん中には、蜻蛉とんぼの眼玉のようにたいへん大きな眼があった。そしてその下に、黄いろいくちばしがつきでていた。頭の上は白く禿げているところがあり、頭の上には、りっぱな角のような触角が二本、にゅっと出ていた。頭の、その他のところは河馬かばのように妙にうす赤い色をおび、てらてらと光っていた。
 それから胴は、鳥のようにふくれていた。しかし腹のところは、鎧をきたようになっていて鳥とはちがう。背中には、甲虫のはねと同じような翅が畳みこまれているようであった。その翅のつけ根の横には、触角とはちがい、もっとぐにゃぐにゃしたゴム製の管のようなものがついていた。それはたいへん長くて、地上に達していたが、うごいているうちに、急に短くちぢんでしまうこともあった。これは手の代用物であろう。触手というものかもしれない。とにかく、いまだきいたこともないふしぎな生物であった。
 もう一つ、ふしぎなのは、その怪物の足であった。足は、その怪物の下腹のところから二本にゅっと出ていた。その足はちょっと見ると、鶴のあしに似ていた。しかしよく見ると、関節が二つもあり、大地をふまえるところには、五本の指があって、水かきのようなものがついていた。しかもこの奇妙な足は、どこから見ても丈夫に見えた。何だか、金属を組合わせて足の形にしたもののようにも見えた。
(一体、何だろう。この高等怪物は……)
 三郎は、そばへぴったりすりよってくる、木曾九万一の身体をかかえながら、眼をみはった。
 その怪物の中に、どうやら大将らしい怪物があった。その怪物は他の怪物と、しきりに連絡をしていたようであったが、やがて連絡がすんだのか顔を二人の方に向けた。
「おい、君たちは、日本人だろう」
 その怪物が、いきなり日本語で話しかけてきた。それには三郎は、びっくり仰天ぎょうてんした。
「ええっ!」と、三郎はいったきり、全身から、汗がふきだしてたらたらと流れた。
 ふしぎだ。なぜその怪物は、日本語をはなすのであろうか。第一空気もないのに、なぜその怪物のはなしが、三郎の耳にきこえるのであろうか。
 三郎はわが耳をうたがった。
「これこれ、べつに君たちの生命をおびやかすつもりはないから、安心して、われわれの問いにこたえなさい。君たちは日本人だろうね。今、かおいろをかえたじゃないか」
 怪物の首領は、にくいほど、はっきりした口調で、三郎たちに話しかけてくるのであった。
 三郎は、こたえたものかどうかと、考えているうちに、木曾が前にのりだした。そして手をあげて、何かものをいうような恰好かっこうをした。
 すると怪物の首領は、大きな頭をふって、うなずき、
「おお、そうか。君は、なかなか勇気があってえらいぞ。そうか、君たちはやっぱり日本人だったか」
 木曾が何かいったのが、怪物の首領に通じたものと見える。空気もないのに、なぜこっちのことばが向こうに通じたものであろうかと、三郎はふしぎに思った。が、それよりも、木曾に勝手なおしゃべりさせてはならないと思ったので、彼は木曾に注意をするつもりで自分の触角を木曾の方によせた。
「おい、君たち同志、勝手に話をしてはいけない」
 首領は、早くも三郎の心をみぬいて、しかりつけた。
 ああ、一体この智慧のすぐれた怪物は、一体何者なのであろうか。

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