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金の目銀の目(きんのめぎんのめ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/10/13 6:50:39 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

 

      手品使(てじなつか)いの少年

 太郎は、チロといっしょに、蒙古(もうこ)まで行ってみようとほんとに決心しました。
 そのことを聞くと、松本さん夫婦は、心配しました。けれど、太郎のおじいさんはかえって太郎の勇気をほめ、立派なことをしてくるようにと元気づけ、なお薬を一缶(ひとかん)くれました。神主をしているおじいさんの家に、昔から伝わってる薬で、どんな病気にも、きずにも、疲れにもきく薬だそうです。
 松本さん夫婦、チヨ子とキシさん、太郎とチロ、それだけの人数でした。太郎は立派な服を作ってもらいました。
 門司(もじ)に行き、それから船で、大連(だいれん)へ行くのです。
 船は正午(しょうご)に門司を出ました。風のない春の日で、海はおだやかでした。船はすべるように進みました。青い山々がしだいに遠ざかるのを見送って、太郎はちょっとさびしくなりましたが、蒙古のこと、玄王(げんおう)のこと、金銀廟(きんぎんびょう)のことなど、いろいろ想像しますと、身うちに元気が満ち満ちてきました。
 沖(おき)に出ると、船は少し揺れてきましたが、太郎は元気でした。松本さんが船長と懇意(こんい)なので、船の中をあちこち見せてもらいました。
 そのあくる日の夕方、太郎はもうたいくつして、デッキに上がって暮れかけた海原をながめていました。冷たい風が吹いて、デッキには誰もいませんでした。ただ……。
 太郎は気がついて、目を見張りました。向こうに、みすぼらしいみなりの十五―六歳の少年が、ぴかぴか光る輪をいくつも持って、それを投げたり受けとめたりして、ひとりで遊んでいました。いや、遊んでるのではありません。一生懸命になって、なにか練習してるのです。輪を一つ受けそこなって、とり落とすと、自分で額(ひたい)をたたいて、歯ぎしりをしています……。
 太郎はその方にやって行きました。
「何をしているの?」と、太郎はたずねました。
 少年は悲しそうな目付きで答えました。
「練習してるんだよ」
「なんの練習だい」
「輪投げだよ」
「そして、何になるの」
「ぼくの商売だよ。手品(てじな)をつかうのさ」
「ほう、きみは手品使いかい」
「うん。だけど、まだうまくいかないんだ」
 少年はいくつもの輪をがちゃがちゃいわせながら、そこの手すりによりかかって、海をながめました。それから、ふいにたずねました。
「きみは満州(まんしゅう)に初めて行くのかい」
「うん」
「なにしに行くんだい」
 太郎は黙っていました。
「行ったっておもしろいことはないよ。ぼくは小さい時、おじさんに連れられてきて、ほうぼうをまわったが、つまらなかった。いやになって、またちょっと、日本に戻ったけれど、日本でも、あまりおもしろいことはなかった。それに、おじさんが病気をして、手足がよくきかなくなって、手品(てじな)がうまくつかえないんだ。それで、また満州(まんしゅう)に行くところだよ」
「そして、これから、何をするつもりだい」
「やっぱり、手品使いさ。ああ、ぼくが早くじょうずになるといいんだがなあ」
「毎日、練習をするのかい」
「そうだよ」
 そして彼は、なにか急に思い出したらしく、駆け出して行こうとしました。
「ねえきみ」と、太郎は後から呼びかけました。
「大連(だいれん)に行ったら、ぼくんとこに遊びにこないか」
「ああ行くよ、行くよ」
 そそっかしい少年で、それきり向こうに駆けて行きました。太郎はしばらく待ってみましたが、彼はもう出てきませんでした。太郎は船室に戻っていきました。名前もわからず、ところもわかりませんでしたが、その少年のことを、なつかしく考えました。
 あくる日、船は大連につきました。太郎は手品使いの少年を探しましたが、見つかりませんでした。

 松本さんの店は、大連(だいれん)の賑(にぎ)やかな所にありましたが、別に、住居(すまい)が山手の方の静かな所にありました。一同は、そちらに落ち着きました。
 ところが、大連でも、蒙古(もうこ)の玄王(げんおう)のことは、よくわかりませんでした。興安嶺(こうあんれい)の奥の山の中で、汽車も自動車も通わず、道もはっきりしないし、いく十日かかって行けるかわからないところです。松本さんとキシさんとは、いろんな方面について、はっきりした事情をしらべにかかりました。
 チヨ子は、家の中でチロと遊んでばかりいて、少しも外に出ませんでした。それで、太郎はひとりでよく出かけました。
 大連には、いろいろな国の人が多く、いろいろ立派な家が並んでるので、太郎には珍しくおもしろく思われました。
 ある日も太郎は、ひとりでぶらぶら歩いていました。すると、港近くの広場におおぜい人だかりがしているので、行ってみました。
 広場のまん中にござをしいて、三角の帽子をかぶり、汚い服をつけた少年が手品(てじな)をつかって見せていました。
「おや、あれは……」
 太郎はつぶやいて、なおよく見ますと、確かに船の中で知りあった少年です。
「だいぶ練習したらしいな。うまくなってるよ」
 太郎はひとりごとを言って、人の後から見ていました。
 少年は、いつかの輪投げの芸を見せていました。今日は、五色にぬった輪を五つ持ち出して、高く宙に投げあげては受けとめ、両手でくるくる使い分けをして見せました。それがすむと、長い竹の先で、皿まわしをして見せました。次には一枚の銀貨を、からだのあちこちに隠したり、あちこちから出したりして見せました。その合間には、しゃちほこ立ちをしたり、とんぼ返りをしたりしました。
 だけど、群衆はただぼんやり見てるきりで、喝采(かっさい)する者もなく、お金を放ってやる者もあまりありませんでした。少年は悲しそうでした。
 次に少年は、ひと抱えほどある大きな毬(まり)を取り出し、玉乗りの芸を始めました。
 毬の上に乗って、足でそれを転がしていくのです。それを少しやっているうちに、彼の顔は赤くなり、額(ひたい)に汗が出てきました。危ない! と太郎が思ったとたん、少年は毬から転がり落ち、毬は見物人のひざにはねかえりました。人々はどっと笑いました。少年は起きあがると、夢中で毬をひろいとり、いきおいこんで、再びやり始めました。また、しくじりました。毬は人々の膝や胸にはねかえりました。
「ばか!」
と、叫ぶ者がありました。
 少年はいらだって、やり続けました。
「やめろ、へたくそ! やめちまえ」
と、叫ぶ者がありました。
 少年はなおさらいらだって、夢中にやり続けようとしました。
「やめろ。ばか、へたくそ!」
 人々はどなり出しました。少年はなおいきりたちました。喧嘩(けんか)ごしで、毬の上に乗ろうとしました。群衆の方もおこりました。どなりつけ、おどかし、石を投げる者までありました。
「やめちまえ。もらった金を返せ」
「こんな奴(やつ)、追いはらっちまえ」
 群衆は騒ぎだしました。少年は毬(まり)をかかえ、歯を喰いしばって、ぶるぶる震えていました。石がいくつも飛んできました。
「待ってください、待ってください」
と、するどい声がひびきました。
 太郎が、そこに飛び出して、子供ながらも、少年を後にかばって両手を広げて、つっ立ったのです。
 太郎はなお大きな声で言いました。
「待ってください、この人はぼくがよく知っています。手品(てじな)はとてもうまいんです。世界で一番上手です。ただ、きょうはからだのぐあいがよくないんです。きょうは病気なんです。それで、うまくいかなかったんです」
 群衆は少し静かになりました。太郎はなお言いました。
「あすはすばらしい芸を見せてあげます。ここで、この場所で、すばらしい芸を見せてあげます。うそだと思ったら、この手品の道具をあずかっておいてください。あすやって来て芸を見せます。逃げも隠れもしません。うそだと思う人は、この手品の道具をあずかってください」
 こんな手品の道具なんか、誰もあずかろうという者はありませんでした。太郎は得意気に微笑(ほほえ)んで、少年をうながして、道具をかたずけさして立ち去ろうとしました。その時、群衆の中から、大きな男がのっそり出てきました。
「私、その道具あずかる」
 太郎はびっくりして、ふりかえって見ますと、それは、労働者のような汚いみなりをしてはいますがまさしく、キシさんです。毎日一緒に暮らしてる、あの李伯将軍(りはくしょうぐん)のキシさんです。
 キシさんは、つかつかと歩み寄ってきました。
「あすまで、その道具あずかる」
 そして小さな声で、太郎にささやきました。
「秘密(ひみつ)、秘密……。あとで話す」
 それから、また大きな声で言いました。
「明日、ここで、すばらしい手品(てじな)なさい。それまで、この道具、私あずかる。かわりに、私お金あずける」
 そしてもうキシさんは、片手に銀貨をいっぱい握って、それを差し出していました。
 太郎は困りました。まさか手品の道具をあずかろうという人があろうとは思いませんでしたし、しかもキシさんが出てこようとは思いもかけなかったのです。けれども、キシさんなら、自分が持ってるのと同じことだし、「秘密、秘密」と言われたのは、何かわけがあるに違いありません。それで太郎は、わざと知らん顔をしていました。
「それでは、道具のかわりに、そのお金をあずかっておきます 明日[#「おきます 明日」はママ]、ここに来てください。そしたら、すばらしい手品をして見せましょう」
 キシさんはお金を渡すと、金輪(かなわ)や皿(さら)やナイフや大きな毬(まり)など、手品の道具を、地面に敷いてあったむしろに包んで、それをかかえて、さっさと立ち去ってしまいました。
 おおぜいの見物人も、しだいに立ち去ってしまいました。
 広場のまん中で、太郎と手品使いの少年とは、ぼんやり顔を見あわせました。少年は、ただあっけにとられてるようでした。
 太郎は言いました。
「きみの道具を持っていったあの人は、ぼくが一緒にいる人だよ。今はあんな汚いないなりを[#「汚いないなりを」はママ]していたが、偉い人なんだ。心配しないでもいいよ」
「でも、あすはどうしよう」
「ああ、手品(てじな)か、困ったなあ。ぼくがでたらめ言っちゃったもんだから……だけど、あの人に何か考えがあるんだろう。あとできいてこよう」
 そしてふたりは歩きだしました。
 少年はふいに立ちどまりました。
「きみとは、こちらにくる船の中で、知り合ったばかりだが、名前は何というんだい」
「上野太郎(うえのたろう)というんだよ。きみは……」
「ぼくは下野一郎(したのいちろう)だよ」
 ふたりは笑いました。上野太郎……下野一郎……口に中でくりかえすと、おかしくなって、また笑ってそれから仲良く腕(うで)を組んで歩いていきました。

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