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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)04

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:42:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   白水素女

 晋の安帝あんていのとき、候官こうかん県の謝端しゃたんは幼い頃に父母をうしない、別に親類もないので、となりの人に養育されて成長した。
 謝端はやがて十七、八歳になったが、つとめて恭謹の徳を守って、決して非法の事をしなかった。初めて家を持った時には、いまだ定まる妻がないので、となりの人も気の毒に思って、然るべき妻を探してやろうと心がけていたが、相当の者も見付からなかった。
 彼は早く起き、遅く寝て、耕作に怠りなく働いていると、あるとき村内で大きい法螺貝ほらがいを見つけた。三升入りの壺ほどの大きい物である。めずらしいと思って持ち帰って、それをかめのなかに入れて置いた。その後、彼はいつもの如くに早く出て、夕過ぎに帰ってみると、留守のあいだに飯や湯の支度がすっかり出来ているのである。おそらく隣りの人の親切であろうと、数日の後に礼を言いに行くと、となりの人は答えた。
「わたしは何もしてあげた覚えはない。おまえはなんで礼をいうのだ」
 謝端にもわからなくなった。しかも一度や二度のことではないので、彼はさらに聞きただすと、隣りの人はまた笑った。
「おまえはもう女房をもらって、家のなかに隠してあるではないか。自分の女房に煮焚にたきをさせて置きながら、わたしにかれこれ言うことがあるものか」
 彼は黙って考えたが、何分にも理屈が呑み込めなかった。次の日は早朝から家を出て、また引っ返してかきの外から窺っていると、一人の少女が甕の中から出て、かまどの下に火を焚きはじめた。彼は直ぐに家へはいって甕のなかをあらためると、かの法螺貝は見えなくて、竈の下の女を見るばかりであった。
「おまえさんはどこから来て、焚き物をしていなさるのだ」と、彼は訊いた。
 女は大いに慌てたが、今さら甕のなかへ帰ろうにも帰られないので、正直に答えた。
「わたしは天漢てんかん白水素女はくすいそじょです。天帝はあなたが早く孤児みなしごになって、しかも恭謹の徳を守っているのをあわれんで、仮りにわたしに命じて、家を守り、煮焚きのわざを勤めさせていたのです。十年のうちにはあなたを富ませ、相当の妻を得るようにして、わたしは帰るつもりであったのですが、あなたはひそかに窺ってわたしの形を見付けてしまいました。もうこうなっては此処ここにとどまることは出来ません。あなたはこの後も耕し、すなどりのわざをして、世を渡るようになさるがよろしい。この法螺貝を残して行きますから、これに米穀べいこくをたくわえて置けば、いつでもとぼしくなるような事はありません」
 それと知って、彼はしきりにとどまることを願ったが、女はかなかった。俄かに風雨が起って、彼女は姿をかくした。その後、彼は神座をしつらえて、祭祀さいしを怠らなかったが、その生活はすこぶる豊かで、ただ大いに富むというほどでないだけであった。土地の人の世話で妻を迎え、後に仕えて令長となった。
 今の素女祠そじょしがその遺跡である。

   千年の鶴

 丁令威ていれいい遼東りょうとうの人で、仙術を霊虚山れいきょざんに学んだが、後に鶴にして遼東へ帰って来て、城門の柱に止まった。ある若者が弓をひいて射ようとすると、鶴は飛びあがって空中を舞いながら言った。
「鳥あり、鳥あり、丁令威。家を去る千年、今始めて帰る。城廓もとの如くにして、人民非なり。なんぞ仙を学ばざるか、塚※(「田/(田+田)/糸」、第3水準1-90-24)るいるいたり」
 遂に大空高く飛び去った。今でも遼東の若者らは、自分たちの先代に仙人となった者があると言い伝えているが、それが丁令威という人であることを知らない。

   箏笛浦

 廬江ろこう箏笛浦そうてきほには大きい船がくつがえって水底に沈んでいる。これは曹操そうそうの船であると伝えられている。
 ある時、漁師が夜中に船を繋いでいると、そのあたりに笛や歌の声がきこえて、こうの匂いが漂っていた。漁師が眠りに就くと、なにびとか来て注意した。
「官船に近づいてはならぬぞ」
 おどろいて眼をさまして、漁師はわが船を他の場所へ移した。沈んでいる船は幾人の歌妓うたひめを載せて来て、ここの浦で顛覆てんぷくしたのであるという。

   凶宅

 宋の襄城じょうじょう李頤りいあざな景真けいしん、後に湘東しょうとうの太守になった人であるが、その父は妖邪を信じない性質であった。近所に一軒の凶宅があって、住む者はかならず死ぬと言い伝えられているのを、父は買い取って住んでいたが、多年無事で子孫繁昌した。
 そのうちに、父は県知事に昇って移転することになったので、内外の親戚らを招いて留別りゅうべつの宴を開いた。その宴席で父は言った。
「およそ天下に吉だとか凶だとかいう事があるだろうか。この家もむかしから凶宅だといわれていたが、わたしが多年住んでいるうちに何事もなく、家はますます繁昌して今度も栄転することになった。鬼などというものが一体どこにいるのだ。この家も凶宅どころか、今後は吉宅となるだろう。誰でも勝手にお住みなさい」
 そう言い終って、彼はってかわやへゆくと、その壁にむしろを巻いたような物が見えた。高さ五尺ばかりで、白い。彼は引っ返して刀を取って来て、その白い物を真っ二つに切ると、それが分かれて二つの人になった。さらに横なぐりに切り払うと、今度は四人になった。その四人が父の刀を奪い取って、その場で彼を斬り殺したばかりか、座敷へ乱入してその子弟を片端から斬り殺した。
 李姓の者はみな殺されて、他姓の者は無事にまぬかれた。
 そのとき李頤だけはまだ幼少で、その席に居合わせなかったので、変事の起ったのを知ると共に、乳母が抱えて裏門から逃げ出して、他家に隠れて幸いに命を全うした。



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