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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)04

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:42:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   白帯の人

 の末に、臨海の人が山に入ってかりをしていた。彼は木間このまに粗末の小屋を作って、そこに寝泊まりしていると、ある夜ひとりの男がたずねて来た。男は身のたけ一丈もあるらしく、黄衣をきて白い帯を垂れていた。
「折り入ってお願いがあって参りました」と、かれは言った。「実はわたくしに敵があって、明日ここで戦わなければなりません。どうぞ加勢をねがいます」
「よろしい。その敵は何者です」
「それは自然にわかります。ともかくも明日のひる頃にそこのたにへ来てください。敵は北から来て、わたくしは南からむかいます。敵は黄の帯を締めています、わたくしは白の帯をしめています」
 猟師は承知すると、かの男はよろこんで帰った。そこで、あくる日、約束の時刻に行ってみると、果たしてたにの北方から風雨あらしのような声がひびいて来て、草も木も皆ざわざわとなびいた。南の方も同様である。やがて北からは黄いろい蛇、南からは白い蛇、いずれも長さ十余じょう、渓の中ほどで行き合って、たがいに絡み合い咬み合って戦ったが、白い方の勢いがやや弱いようにみえた。約束はここだと思って、猟師は黄いろい蛇を目がけて矢を放つと、蛇は見ごとに急所を射られてたおれた。
 夜になると、咋夜の男が又たずねて来て、彼に厚く礼をのべた。
「ここに一年とどまって猟をなされば、きっとたくさんの獲物があります。ただし来年になったらばお帰りなさい。そうして、再びここへ来てはなりません」と、男は堅く念を押して帰った。
 なるほど其の後は大いなる獲物があって、一年のあいだに彼は莫大の金儲けをすることが出来た。それでいったんは山を降って、無事に五、六年を送ったが、昔の獲物のことを忘れかねて、あるとき再びかの山中へ猟にゆくと、白い帯の男が又あらわれた。
「あなたは困ったものです」と、彼はうれうるが如くに言った。「再びここへ来てはならないと、わたくしがあれほどいましめて置いたのに、それを用いないで又来るとは……。仇の子がもう成長していますから、きっとあなたに復讐するでしょう。それはあなたのみずから求めた禍いで、わたくしの知ったことではありません」
 言うかと思うと、彼は消えるように立ち去ったので、猟師は俄かに怖ろしくなって、早々にここを逃げ去ろうとすると、たちまちに黒いきぬをきた者三人、いずれも身のたけ八尺ぐらいで、大きい口をあいて向かって来たので、猟師はその場にたおれてしまった。

   白亀

 東晋の咸康かんこう年中に、州の刺史毛宝ししもうほう※(「朱+おおざと」、第3水準1-92-65)しゅの城を守っていると、その部下の或る軍士が武昌ぶしょういちへ行って、一頭の白い亀を売っているのを見た。亀は長さ四、五すん、雪のように真っ白ですこぶる可愛らしいので、彼はそれを買って帰ってかめのなかに養って置くと、日を経るにしたがって大きくなって、やがて一尺ほどにもなったので、軍士はそれを憐れんで江の中へ放してやった。
 それから幾年の後である。※(「朱+おおざと」、第3水準1-92-65)の城は石季龍せききりゅうの軍に囲まれて破られ、毛宝は予州を捨てて走った。その落城の際に、城中の者の多数は江に飛び込んで死んだ。かの軍士もよろいを着て、刀を持ったままで江に飛び込むと、なにか大きい石の上にちたように感じられて、水はその腰のあたりまでしかとどかなかった。
 やがて中流まで運び出されてよく視ると、それはさきに放してやった白い亀で、その甲が六、七尺に生長していた。亀はむかしの恩人を載せて、むこうの岸まで送りとどけ、その無事に上陸するのを見て泳ぎ去ったが、中流まで来たときに再び振り返ってその人を見て、しずかに水の底に沈んだ。

   髑髏軍

 西晋せいしん永嘉えいか五年、張栄ちょうえい高平こうへい巡邏主じゅんらしゅとなっていた時に、曹嶷そうぎという賊が乱を起して、近所の地方をあらし廻るので、張は各村の住民に命じて、一種の自警団を組織し、各所に堡塁ほうるいを築いてみずから守らせた。
 ある夜のことである。山の上に火が起って、けむりや火焔ほのおが高く舞いあがり、人馬の物音や甲冑かっちゅうのひびきがもの騒がしくきこえたので、さては賊軍が押し寄せて来たに相違ないと、いずれも俄かに用心した。張はかれらを迎え撃つために、軍士を率いて駈けむかうと、山のあたりに人影はみえず、ただ無数の火の粉が飛んで来て、人の鎧や馬のたてがみに燃えつくので、皆おどろいて逃げ戻った。
 あくる朝、再び山へ登ってみると、どこにも火をいたらしい跡はなく、ただ百人あまりの枯れた髑髏どくろがそこらに散乱しているのみであった。

   山※(「操」の「てへん」に代えて「けものへん」、第4水準2-80-51)

 そう(南朝)の元嘉げんか年間のはじめである。富陽ふようの人、おうという男がかにを捕るために、河のなかへやな[#「竹/斷」、64-3]を作って置いて、あくる朝それを見にゆくと、長さ二尺ほどの材木が※[#「竹/斷」、64-3]のなかに横たわっていた。それがために竹は破れて、蟹は一匹もかかっていなかった。
 そこで、その材木を岸の上に取って捨て、竹の破れを修繕して帰って来たが、翌日再び行ってみると、かの材木は又もや同じところに横たわっていて、※[#「竹/斷」、64-6]を破ること前日の如くである。
「これは不思議だ。この林木は何か怪しい物かも知れないぞ、いっそいてしまえ」
 蟹を入れる籠のなかへかの材木を押し込んで、肩に引っかけて帰って来ると、その途中で籠のなかから何かがさがさいう音がきこえるので、王は振り返ってみると、材木はいつの間にか奇怪な物に変っていた。顔は人のごとく、体はさるの如くで、一本足である。その怪物は王に訴えた。
「わたしは蟹が大好きであるので、実はあなたの竹を破って、その蟹をみんな食ってしまいました。どうぞ勘弁してください。もしわたしをゆるして下されば、きっとあなたに助力して大きい蟹の捕れるようにして上げます。わたしは山の神です」
「どうして勘弁がなるものか」と、王は罵った。「貴様は一度ならず二度までも、おれの漁場をあらした奴だ。山の神でもなんでも容赦はない。罪の報いと諦めて往生しろ」
 怪物はどうぞ赦してくれとしきりに掻き口説くどいたが、王は頑として応じないので、怪物は最後に言った。
「それでは、あなたの姓名はなんというのですか」
「おれの名をきいてどうするのだ」
「ぜひ教えてください」
いやだ、いやだ」
 なにを言っても取り合わない。そのうちに彼の家はだんだん近くなったので、怪物は悲しげに言った。
「わたしを赦してもくれず、また自分の姓名を教えてもくれない以上は、もうどうにも仕様がない。わたしもむなしく殺されるばかりだ」
 王は自分のうちへ帰って、すぐにその怪物を籠と共に焚いてしまったが、せきとしてなんの声もなかった。土地の人はこのたぐいの怪物を※(「操」の「てへん」に代えて「けものへん」、第4水準2-80-51)さんそうと呼んでいるのである。かれらは人の姓名を知ると、不思議にその人を傷つけることが出来ると伝えられている。怪物がしきりに王の姓名を聞こうとしたのも、彼を害して逃がれようとしたものらしい。



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