二機撃墜
「三機帰還せず!」 基地へかえってきたのは、たった二機だけであった。 飛行隊長は、司令の前に、面目なさそうに、あたまを下げた。 「三機の消息について、知るところをのべよ」 司令はふきげんである。 パイ軍曹は、ピート一等兵の横腹をついた。ピート一等兵は、目を白黒した。例のことが、ばれては、たいへんだ。 「はい。壮烈なる空中戦の結果、墜落したようであります。われわれも、戦闘中でありましたため、はっきり、その先途を見届けることが、できませんでした」 隊長は、うまいことをいった。ピート一等兵は、やれやれと胸をなぜおろした。 司令は、これをきいて、うなずき、 「おお、そうか。そして、戦闘の結果は、どうであったか。撃墜数を報告せんではないか。撃墜状況はどうか」 「はい。撃墜は、ありません」 「なんだ、撃墜はないというのか。これだけの犠牲をはらって、撃墜は一機もなしというのか。お前たちは、それでもアメリカ飛行隊の勇士か。よくまあ、はずかしくないことだ」 司令は、またまたひどくふきげんになった。 司令の、がんがんいうのをきいていたピート一等兵は、おもわず、興奮した。 「司令。自分は撃墜しました」 「おお、お前はピート一等兵だな。それはでかした。何機撃墜したか」 パイ軍曹は、おどろいて、ピート一等兵の服をひっぱった。が、もう間にあわない。 「はい。あのう、二機であります」 「おお、二機も、やっつけたか。それは抜群の手柄じゃ。よし、あとで、褒美をやろう。昇進も上申してみるぞ」 ピート一等兵がうちおとしたのは、日本機ではなく、味方の飛行機であることを、司令は、しらないものだから、いやにピートをほめあげ、そして上きげんになった。 横にきていたパイ軍曹は、おどろいて、ひとごとながら、もう気がとおくなって、ぶったおれそうであった。司令が、本当のことをしったら、ピート一等兵は、どんな重い懲罰をくうかしれない。大嵐の前の静けさとは、まさにこのことだ。いくら、これまでいじめてきた部下ではあったが、彼のうえに、これから下るであろう懲罰をかんがえると、全くかわいそうでならなかった。 そのとき、司令がさけんだ。 「勇士ピート一等兵。五歩前へ」 ピート一等兵は、えらそうな顔をしてのこのこ前へ出ていった。 パイ軍曹は、心臓がいたくなった。 「ピートのやつ、どこまで、ばかな奴だろう。いよいよ大嵐のはじまりだぞ」 すると司令は、 「勇士ピート一等兵。二機撃墜のときの状況をのべよ。まず聞くが、お前が、撃墜した日本機はいかなる機種のものであったか」 「え、日本機?……」 ピート一等兵は、ようやく気がついた。 (あっ、しまった。こいつはとんだことを喋ってしまったぞ。撃墜といったのだから、とうとう敵味方の区別をわすれて、喋ってしまった) さあ、こまった。 「順序をたてないでよろしい。はなしやすいように、はなせ」 「うわーッ」 ピート一等兵は、へどもど……。 しかし、ピート一等兵は運がつよかった、というのであろう。そのとき、とつぜん、思いがけないさわぎが起った。司令のそばへ副官がとんできたのだ。 「おお、飛行司令。リント少将は、こっちに見えていないか」 「リント少将? 閣下は、こっちへ来ておられません。どうかしましたか」 「いや、一大事だ。さっきのさわぎのうちに、リント少将の姿が、急に見えなくなったのだ。もう、しらべるところは、全部しらべた。困ったなあ。君のところも、もう一度、念入りにしらべてくれたまえ」 「はい、承知しました」 一大事である。飛行隊員は、総動員で、附近をさがすこととなった。――そしてピート一等兵は、味方をうったことが、司令にしられそうになり、あやういところで、たすかった。 ところが、そのころ、氷の中の監房でも、ふしぎな囚人紛失事件が、もちあがっていた。監房の前では、衛兵と折から又そこへ下りてきたパイ軍曹とが、声高にあらそっている。 「冗談じゃありませんよ。パイ軍曹どの、はやく囚人をかえしてください。黄いろい幽霊を……」 「わしは、知らん」 「わしは、知らんじゃ、困るじゃありませんか。軍曹どのが、監房の扉をあけて、囚人を引っぱりだしたのですぞ。それから、ピストルでおどかしたり、靴で、けとばしたりしたではありませんか」 「けとばすわけがあったから、やったまでだ。そんなことについて、貴様のさしずはうけない」 「さしずをしているのではありません。黄いろい幽霊を、かえしてくださいと申しているのです」 「わしが、そんなことを知るものか。囚人の番をするのは、貴様ら衛兵の仕事じゃないか」 「ああ、それはひどい。軍曹どのが、囚人を自由にしておきながら……」 「なにを云う。上官に対して無礼者め」 といったかと思うとパイ軍曹は、らんぼうにも、衛兵のあごに、鉄拳をガーンとうちこんだ。衛兵は、悲鳴をあげて、その場にたおれてしまった。 そのころ、氷上ではリント少将の姿をもとめ、ますますさわぎが大きくなった。 「どこにも、おられないじゃないか」 「ふしぎなこともあるものだな」 「おや、もう一つ紛失したものがあるぞ。ここにあった」 「何がなくなった?」 「地底戦車が、どこかへいってしまった」 「地底戦車? そんなばかなことが……」といいながらそこを見ると、なるほど地底戦車がない。 「一体、これはどうしたんだ」 「うむ、これは、容易ならぬ事件だ」
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