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人造人間の秘密(じんぞうにんげんのひみつ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-24 17:23:40 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



   まわらぬ歯車はぐるま

 大尉が、汗をぬぐい終らぬうちに、指揮塔の向こうに見えている箱の横に、ぽっかりと扉が開いて、中から一人の技師が、とびだしてきた。
「フリッツ大尉。これは、どうもへんですぞ」
 と、彼は、大きなこえで、どなった。
 大尉は、びっくりしたような顔になって、箱の中にひそんでいた技師を、そばによびよせ、
「なにが、へんだ」
 と、きいた。
「なにがって、エッキス光線で、今の人造人間の腹の中をみていたのですが、腹の中にあるたくさんの歯車のうちで、ついに一度もまわらなかった歯車が二個ありました。へんじゃありませんか」
 技師は、熱心をおもてにあらわしていった。
「まわらない歯車が二個もあったか。どうしたわけだろう」
 と、大尉は私の顔を、じろりとにらんだ。
 だが、何を、私が知っているものか。
「あらゆる号令は、かけてみたつもりだが、はて、へんだな」
 と、大尉は、なおもせぬ面持おももちで、広い額を、とんとんとこぶしで叩いた。
「なぜだろうな、セン。説明したまえ」
「私が、なにを知っているものですか。あの筒の中に、こんなすばらしい設計図が入っていると知ったら、私は、あんなところにぐずぐずしていませんよ」
「ふしぎだ。が、まあ今日のところは、これでいいだろう」
 と、フリッツ大尉は、試験の終了しゅうりょうせんしたのであった。
 私たちは、檻を開いて、外に出たが、そのとき大尉は、私に向い、
「どうだね、セン。君は、捕虜ほりょとして土木工事場どぼくこうじばで、まっ黒になって働きたいか、それとも、この工場で、見習技師みならいぎしとして、楽に暮したいか」
 と、たずねた。
「もちろん、楽な方がいいですなあ」
 と、私は即座そくざに答えた。単に、楽を求めたわけではない。私は、見習技師としてでも何としてでも、この工場にとどまりたかったのであった。それには、一つの望みがあった。それは、なんとかして、人造人間の設計図を、うばいかえしたいということだった。
 その日から、私は、この地下工場で、働くことになった。フリッツ大尉が、試験の結果、これならば大丈夫、戦場に出して充分役に立つことがわかったので、それからというものは、工場は、全能力をあげて、人造人間の製造にかかったのである。
 当時、大尉の計算によると、この工場で、一日のうちに、人造人間を五百人作ることが出来る。十日間頑張がんばると、五千人の人造人間部隊が出来るから、これをもって、イギリス本土への上陸作戦が、うまくいくにちがいないと考えたのである。しかも、一人の人造人間は生きた人間の兵士の百人に匹敵ひってきし、五十万の英兵えいへいを迎えつに充分であるというのだ。
 私は、その夜のうちに、すべてを決行しようと、機会のくるのを、待っていた。私は、捕虜の身分であるので、例の藁のうえに寝た。ニーナも捕虜であるから、同じ部屋に寝るのだった。ニーナは、私に向かいいろいろと昼間の出来ごとを質問した。しかし私は、一切、口をかんして、語るのをさけた。ニーナは、ついに腹を立てて、寝てしまった。
 午前三時!
 ついに、その時刻となった。私は、その時刻こそ、脱出するのに最上の機会だと思って狙っていたのだ。
「ニーナ、お起きよ」
 私は、ニーナを、ゆすぶり起した。
 ニーナは、びっくりして、藁の中から起きあがった。私が、脱出のことを話すと、ニーナはあまりだしぬけなので、にわかに信じられない顔付だった。
「脱走なんて、そんなこと、出来るの」
「うん、出来るのだ。人造人間を使って、ここをがれるんだ」
「ええ、人造人間? そんなこと、出来るのかしら」
 信じ切れないニーナを、ひったてるようにして、私は窓を破って、廊下へ出た。もちろん私は、例の黒い筒を、背中にしっかりと背負って、両手は自由にしておいた。
「ドイツ兵に見つかったら、どうなさるの」
 ニーナは、心配げに、たずねた。
「柔道で、投げとばすだけだ。柔道のことは、ニーナも知っているだろう」
 と、私は、投げの形をして見せた。
「ああ柔道! 知っている、あたし。日本人は、ピストルがなくても、敵とたたかえるのね。まあ、すばらしい」
 その足で、私は、フリッツ大尉の部屋へ飛びこんだ。もちろん大尉は、ベッドの中で、ぐうぐういびきをかいて寝ていた。大尉の上衣が、壁にかかっている。私はそのポケットを探した。一束ひとたばの鍵が、手にさわった。私は狂喜きょうきした。それこそ、あの人造人間の指揮塔の扉の鍵だったのである。私はニーナの手をとって、階段づたいに、人造人間のいる三階へ、かけのぼって行った。
 ニーナは、その途中で、私に、こんなことをいった。
「なにもかも、お芝居のように、うまくいくのね。あんまり、うまくいきすぎると思うわ。それにしても、フリッツ大尉は、なんというだらしない人でしょう」
 ニーナは、あきれている。私とて、じつはこううまくいくとは、思っていなかったのだ。脱出方法のことや、大尉が、無造作むぞうさにポケットになげこんだ指揮塔の鍵束かぎたばのことなどは、ちゃんとしらべてあったのだが、それにしても、こううまくいくとは思いがけなかった。廊下にも階段にも、歩哨ほしょう一人、立っていないのだ。
 私たちは、らくに、指揮塔の中に忍びこむことが出来た。
「これからどうなさるの」
「これから、人造人間の背中に、おんぶされて、ここを脱出するのだ」
「まあ、そんなことが、ほんとに出来るかしら」
 ニーナは、目を丸くしている。

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