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――だんだんと回数を重ねまして、名人の
ところで、その快男児ですが、変人変物という点においては、およそ天下にこんな珍しい一対はあるまいと思われる右門と伝六のところへわざわざ仲間入りするんですから、この新しいわき役なる者がまた尋常一様の男ではないので。前回の指切り騒動がかたづきましてから日にしてちょうど十六日めの夕景でした。朝のしたくはいうまでもないこと、夕げの用意、床のあげおろし、およそ右門の身まわりに関する女房役は、いっさいがっさい伝六が男手一つで切り盛りするならわしでしたから、もうそろそろやって来なければならない刻限でしたが、陽気のかげんで、はずみがつきすぎましたものか、いっこうにあいきょう者が姿を見せませんので、しかし、根がそういうことにいたって大まかな名人のことでしたから、あかりをつけるのもめんどうとばかり、そこの座敷のまんなかにごろりと大きく寝そべりながら、もぞりもぞりと、くらやみであごのまばらひげをまさぐりつづけていると、まさにそのとたんでした。裏木戸のあたりとおぼしき方角にあたって、不意にことりと、だれかうかがい寄りでもしたようなけはいがありました。伝六ならばいつやって参りますときでも、ガラガラとがらがらへびのようにからだじゅうを鳴らしながらやって来るのが普通でしたから、はてなと思いましてきき耳を立てていると、ところがどうしたことか、それがやっぱりあいきょう者なので、しかもほかになんびとか連れでもがあるらしく、やにわに奇態なことを促しました。
「さ! 遠慮はいらねえから、早いところおめえの隠し芸をお目にかけて、ちょっくらだんなの肝を冷やしてやんねえよ」
と――ほとんど同時です。伝六に促されて黒い影がごそごそと庭先へはいってきたらしい様子でしたが、いかにも奇怪至極なことばで、とつぜん右門に呼びかけました。
「だんな、お無精をなさっていらっしゃるとみえまして、おさかやきが少しお伸びのようでござんすね」
これにはさすがの捕物名人もおもわずぎょッとなりましたので。表にこそはいくらか宵星のうっすらとしたほのあかりがありましたが、屋のうちはあんどん一つともっていないまっくらがりでしたのに、それなる不意の
「お腰の物の下げ緒がゆるんでおいでのようですぜ」
じっさいまた下げ緒がゆるんでおりましたので、奇態な男のかさねがさねな奇態なことばに、いささか名人もあっけにとられていると、伝六のやつめがげらげらと笑いながら駆け上がってきて、そそくさあかりをつけていたようでしたが、得意そうにいいました。
「いかなだんなでも、今の隠し芸にゃ、ちょっと舌をお巻きなすったようでしたね。あの男がその本人なんだから、とっくりご覧なせえましよ」
庭先を指さしましたものでしたから、よくよく見ると、これがじつにどうもいいようのない男です。身のたけは抜群――といいたいが、反対にごくごくの抜小で、ものさしを当ててみたらせいぜいまず四尺八寸か九寸ぐらい。それだのに、これがひねこびれてでもいるかと思うと案外にのっぺりとなまっちろくて、物にたとえていったならば、ご禁裏仕えの高貴なお
「人間てがらを重ねておくと、こういう堀り出し者が、ひとりでに向こうから集まってくるんだから、ありがたいこっちゃござんせんか。実は今、こちらに晩のおしたくにやって来ようとすると、ひょっくりこの珍客があまくだってめえりましてね、きょうから右門のだんなの手下になることに話が決まったから、だんなに引き合わせろとこう申しましたんで、さっそくお目見えにつれてまいりましたが、すばらしい珍品じゃござんせんか。どうです! 御意に召しませんか」
「不意に妙なことをいうが、いったいだれが手下にしてやると申した」
御意に召そうにも召さないにも、まるでいうことが右門には初耳でしたから、あっけにとられて聞きとがめると、ところが、いたって伝六がおちついていいました。
「だから、あまくだったといってるんじゃござんせんか。ここに松平のお殿さまからのりっぱなご添書がごぜえますから、ご覧なせえましよ」
うやうやしく伝六が奉書包みをさし出しましたものでしたから、さっそく右門も