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やがてのことに、まず舞台にはあかあかと何本かの
「へへえい。な、辰。こりゃどうもわりかたとおつな玉だぜ」
たかが奥山の芸人ふぜいと、今のさっきけいべつしきったそのあいきょう者が、まだ舌の根のかわかぬうちに自分から先にたって、ぽかんと見とれだしたのも笑止千万ですが、そのまに下座のおはやし連がひとわき高くジャカジャカと景気をつけて、いかにも奥山の芸人らしく歌いだしました。
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右門捕物帖(うもんとりものちょう)14 曲芸三人娘
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-7 9:20:43 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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4 やがてのことに、まず舞台にはあかあかと何本かの 「へへえい。な、辰。こりゃどうもわりかたとおつな玉だぜ」 たかが奥山の芸人ふぜいと、今のさっきけいべつしきったそのあいきょう者が、まだ舌の根のかわかぬうちに自分から先にたって、ぽかんと見とれだしたのも笑止千万ですが、そのまに下座のおはやし連がひとわき高くジャカジャカと景気をつけて、いかにも奥山の芸人らしく歌いだしました。 ――主と寝ようか五千石取ろか
なんの五千石主と寝よ。 いっしょに梅丸竹丸が各自一振りずつ大きく腰を振って、商売なれしたもののごとくに、ぱッぱッと白い粉末を散らしながら、おのおのそのたびの裏に塗りつけたものは、竹棒をすべらぬための用意にと、先ほど右門がいった石灰でした。と見るまに、両名は別々のはしごを伝わりながら、そこの天井から向こうとこっちにぶらさがっている二本の竹棒の上にふんわり身軽くめいめいが乗り移ったと見えましたが、
けれども、わが捕物名人ばかりは、およそこういうところが品のできの違うところです。ふたりの手下がぽかんと妖花の芸に見とれているのをそこにほっておきながら、やにわにすいと立ち上がると、ずかずかと舞台の上にやっていって、 ところが、どうもこれがじつに意外中の意外なので、右門の足は九文七分であったのをさいわい、それを標準のものさしにして両名の白い粉の足跡を計ってみると、偶然なことに、梅丸竹丸いずれもが同じように九文三分くらいの大きさでしたから、こりゃいけねえ、というように、すっかりあてのはずれた面持ちでした。また、これは、いかな名人であっても、ことごとくあぐねきってしまうのが当然なので、少なくも事件の重大なかぎとなるべき、あの女親方のへやにうっすらと乱れ散っていた大きなほうの粉足跡は、梅丸竹丸両名のうちのどちらかが残したものであろうとにらみがついたればこそ、こうやって見たくもない竹棒渡りまでも演ぜしめたのに、しかるをいま両名の足跡を検分したところによれば、なんとも腹のたつ偶然なことには、両々等しく九文三分ぐらいの大きさを示していたものでしたから、せっかくの手がかりとなすべき努力も 「な、伝六ッ」 「えッ」 「めったなことはいうもんじゃねえよ。むっつり右門ももうろくしたなと、さっきひとごとのようにひやかしていたが、おれともあろうものが、こんなでかいネタを見のがすんだからな。うっかりしたせりふはきけねえものさ。その女親方の口にかみ切られている振りそでをよく見ねえな」 「何か、るすの間にそでの様子でも変わったんですかい」 「いいや、変わりゃしねえがね。見りゃ、桜の花が染めぬいてあるから、さっき見た竹丸の竹模様、梅丸の梅模様だったところから推しはかって、おそらくその振りそで衣装をつけていたかるわざ娘は桜丸とでもいう名だろうが、でけえネタを見のがしたというな、その片そでの一枚下だよ」 「下に何か手品のしかけでもありますかい」 「あるんだから奇態じゃねえか。ちょっと上のをまくってみなよ」 「よよッ。なるほど、下にもう一枚模様の違った衣装のすそみてえなものを食いちぎっておりますね。しかもこりゃ、さっき梅丸が着ていやがったやつとおんなじ梅模様じゃござんせんか」 「だから、右門もとんだもうろくをしたものさ。いくら梅と桜と紛れやすい模様だからって、これに気がつかねえようじゃ、われながら皆さまに申しわけがねえよ。だが、もうこうなりゃおれの畑だッ。ふたりとも、さっき見とれたべっぴんをじきじきに拝ましてやるから、ついてきな!」 いいつつ、ずかずかと押し入ったところは、いうまでもなく梅丸の楽屋べやです。ちょうど舞台を下がって、今の放れわざに一汗かいたものか、あらわな 「まてッ。この衣装にゃ、ちっと用があるんだッ」 いいつつ見調べていたようでしたが、と、――果然、その内前すそが五寸四方ほど食いちぎられていることが発見されましたので、なんじょう名人の目のさえないでいらるべき――いとも皮肉にからんだ真綿責めのことばが、じっくりと飛んでいきました。 「舞台じゃはかまをはいていたので、このすその傷に気がつかなかったが、顔に似合わねえとんだ放れわざをやんなすったものだね。今、こっちの正体も拝ましてやるから、とっくりごらんなせえよ」 いうや、ぱらり紫ずきんをはねのけて、秀麗かぎりない 「ほんもののむっつり右門は、こんな顔をしているんだ。さ、気つけ薬になるか、虫干しになるか、よっくごらんなせえよ」 ぎょッとなったのはむろんのことに梅丸ですが、しかるに、こやつがあでやかさにも似合わず、どうも強情でした。肉襦袢一枚の五体をわなわなと震わしたきりで、さらに口を割ろうとしなかったものでしたから、伝六があけっぱなしに始めました。 「じれってえだんなじゃござんせんか。どういうホシをつけなすったかしらねえが、割らなきゃ口を割るように、早いところ締めあげておしまいなせえよ」 「だめだよ」 「ちぇっ、べっぴんだから、おじけが出たんですかい」 「うるせえな。拷問火責めでものをいわするおれさまだったら、だれも右門党になんぞなっちゃくださらねえや」 いいつつ、[#「、」は底本では「、、」]微笑しながら、じろじろとへやのうちを見ながめていましたが、ふとそのときわれらの捕物名人の目についたものは、そこの壁に張られてあった次のごとき張り紙です。 「、座員、堅く厳守すべき条々のこと。
一、間食い、ないしょ食いいたすまじきこと。
二、夜ふかしいたすべからざること。
三、男員いっさい女座員のへやに立ち入るまじきこと、ならびにまた女座員、いっさい男員べやを犯すまじきこと。
以上の条々忘るべからず――娘かるわざ一座座長」
――だのに、なんという皮肉なことでしたか、それともまぬけのまぬけわざというべきでしたか、ちょうどその第三条の男員いっさい女座員のへやへ立ち入るまじきことと書いてある文句の下の、
「当一座には、男芸人が何人いるか」 「木戸番道具方をのぞきますと、芸人と名のつく男は、このわたくしのほかに、百面相を売り物といたしまする 「なにッ、百面相の芸人とな!」 「はい。じつによく顔をつくりかえますゆえ、なかなかの人気でござります」 「何歳ぐらいじゃ」 「もう五十いく歳とやら承りました」 「そんな年で、若い男にも化けおるか」 「はい、別して、若化けが得意芸のようにござります」 「どこにいるか」 「つい、いましがた、向こうの男べやにうろうろとしていましたゆえ、まだいるはずにござります」 聞くや、じつに唐突な右門流でした。 「じゃ、伝六ッ、辰ッ、もうあっさりとしっぽを巻いて引き揚げようや。百面相の鶴丈先生とやらに、こんどは牛若丸かなんかに化けられちゃ、とてもおれにだって 言い捨てると、ゆうぜんと両手をふところにしながら、すうと表のほうに出ていってしまいました。
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