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小熊秀雄全集(おぐまひでおぜんしゅう)-14

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-29 7:01:02 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

 


タマネギになつたお話


 悪魔は、小さな村にやつてきました。誰にも気付かれないやうに、村はづれの一軒の百姓家の、鶏小舎の中にしのび込みました。
 この小悪魔は、それはしづかに、しづかに、足音もたてないやうにしのび込んだのでした。しかし耳さとい雄鶏は、早くも小悪魔の姿をみつけたので、大きな声をはりあげました。
『さあ、みんな戸じまりをしつかりして』
 と雌鶏たちに注意をいたしました。
 そこで雌鶏たちは、悪い卵泥棒がしのびこんだなと思ひましたので、用心をすることにいたしました。
 なかにはつむつた眼を、かはるがはる明[#「明」に「ママ」の注記]けて用心をしながら眠つてゐるものもありました。
『お前さんは、なんて人相のわるい男だらうね、耳のかつこうといつたら、俺たちのケヅメそつくりにとがつてゐるし』
 雄鶏は、鶏小屋の梁の上に、眼をしよぼ、しよぼ、さしてうづくまつてゐる悪魔を仰ぎながら言ひますと、悪魔は、うるささうにじろり、と見下したきり、それには答へませんでした。鶏たちがゆだんをしてゐたら、そこからとび下りて、喰べてしまはうとしてゐたのでせう。
 夜が明けました。悪魔はなかなか早起きでしたから、早起き自慢の鶏たちでさへ、彼にはかなひません。鶏たちが眼をさました頃には、もう梁の上には、その姿がありませんでした。
 悪魔が、そんなに朝早くから、どこへ出かけたのか、誰も知つたものがありません、そこで鶏たちは頭をよせて、いろいろと、このあやしい梁の上の悪魔のことを話し合ひました。
『夜中に、ごそごそと音がしたね』
『僕もきいた、あれは背中をかいてゐたのだよ』
『ちがふよ、何かをといでゐるやうな、いやな音だつたけど』
『きつと、爪をといでゐたのだらう』
『みんなは悪魔がなにに化けるか注意してゐなければいけないよ、そしてもしミミヅにでも化けたら、すぐ喰べてしまふんだね』
 鶏たちはこんな話をいたしました。
 その翌る朝
 一羽の雌鶏が、小悪魔がどこへ、まい朝出かけるのか、その後をそつとつけて見ました。
 すると悪魔は、ピョン、ピョン、とはねて蛙のやうな足つきをして、村へ入りこみました。そして、一軒ごとに、百姓家の窓に、はひ上つてその窓から首をつきいれて、
『娘さん、お早う』
 と娘さんたちに朝のあいさつをして歩るきまはつてゐました。
 そして片つぱしから、この村の娘さんのゐる家といふ家を、のこらずあるきまはるのです。
 娘さんは、窓から、ちいさな気味のわるい顔がとつぜんあらはれたので、びつくりします。
『まあ、なんて気味のわるいひとなんでせう。とつぜん顔なんか出してさ、挽臼(ひきうす)にいれて粉にしてしまひますよ』
 となかには、プンプン怒る娘さんもゐました。娘さんたちは、悪魔の朝の挨拶などは少しも気にもとめず、さつさと身じたくをし、何時(いつ)ものやうに鍬を手にして畑に、働らきにでかけました。

 この村に、たいへん美しくそしてまたオシャレな女の子がをりました。悪魔はその女の子の家の、高い窓にいつものやうに、ひらりと飛びあがつて、猫撫で声で、
『娘さん、お早う』
 といひました。
 女の子は、大きな鏡のまへで、お化粧の真最中でしたが、この声をきいて窓を見あげました。窓の上には、なかなかりつぱな八字鬚のある男が、顔を突出してをりますので、
『お早う、お入りなさいな』
 といつて、につこりと笑ひました。すると悪魔は、ひらりと窓から部屋にとびをりて、ふいに娘さんの頭にとびかかり、女の子の髪の毛を、一つかみむしつて、飛ぶやうににげてしまひました。
 女の子は、びつくりして、たいへん腹をたてました。
 その日の夕方、小悪魔は、たいへん機げんのよい顔をして、鶏小舎へかへつてきました。なにかうれしいことがあるやうでした。その日にかぎつて、鶏たちが問ひもしないのに、悪魔は梁の上から、鶏たちにむかつて、ゆかいさうにべらべらと、しやべりました。
『けふ僕にお友達ができたので、それでこんなに機げんがいいのさ。これが、その女の子との、お友達になつた約束のしるしだよ』
 小悪魔は、女の子からむしつてきた、髪の毛を、黒いリボンのやうに、とがつた耳にむすんでみたり、それを、ネクタイのやうに首にむすんでみたりしてうれしがつてゐました。

 オシャレの女の子はいつものやうに、身仕度をして、麦をまくための畑に出かけなければならないのですが、ほかの娘さんたちが身なりもあまりかまはないのに、この女の子だけは、オシャレをして出かけるのでしたから、お化粧にひまがかかつて畑にでたころは、お日様も高くあがつて、お昼も間近いころでした。
 それでもすぐ土を耕しにかかるのではありません。畑のまんなかに突たつて、二、三時間も、うつら、うつらと、いろいろのことを考へてゐるのです。
 そのかんがへることは、麦のことでも、お薯のことでも、秋のとりいれのことでもありません、それはお化粧の事であるとか、着物の柄のこととか、またにぎやかなとほくの都のことでありました。
 かうして鍬にもたれて、ぼんやりとかんがへてゐると、いつものやうに、頭がだんだんと石のやうにおもくなつてきました、そして百姓が急に嫌になりました。女の子はそばの木の切株に腰ををろしてしまひます、かうしてゐるのですから、畑は少しも耕されませんでした。
 夕方になつて、百姓達は、一日の働きも終へ、そろそろと帰り支度をしました、娘さんはこれをみて、おどろいたやうに、ほんの申しわけのやうに、たつた一鍬だけ、がつくりと土に鍬を打ちこみました。
 すると掘りかへされたその中から、ひよつこりと現れたものがあります。
 それは女の子にとつては、にくらしい髪をむしつてにげた悪魔でした。
『さあ、わたしの髪の毛を、いますぐに返してちやうだいよ』
 女の子は、たいへん大きな声をたてて、恐ろしいけんまくで、悪魔をなじりました。
『喰べてしまつた』
 小悪魔は、めんぼくなささうな表情をいたしました、ほんとうは髪の毛はたべてしまつたのではありません、悪魔は、一晩のうちに、髪の毛で、チョッキを編んでしまひ、ちやんと上着のしたに着込んでゐるのでした。
 悪魔は、女の子にむかつて、平あやまりにあやまつて
『あれは、お友達になつた約束にもらつたのですから』
 と言ひましたが、女の子は承知をしませんでした、そこで悪魔は、
『それでは、かはりにあなたのすきなものを、なんでもさしあげますから、ゆるして下さい』
 と言ひました、女の子も機嫌をなほし、さて、慾ばりらしく、あれこれと色々ともらふ物を考へてをりました。
『それでは着物を沢山にほしい』
 といひました。
『たいへんおやすい御用です、着物は十枚もいりませうか』
 と悪魔がたずねました、
『まあ、なんてケチなんでせう、いくら着ても、着ても、着れないほど、たくさんの着物がほしいんですよ』
 といひました。
 悪魔は承知して、ごそごそと土の中にもぐり込んでしまひました、女の子は、悪魔がたくさんの美しい着物をもつてくるのを、いまかいまかと、まつてをりました、しかしなかなか現れません、そのうちに女の子は地面をいつまでも見てゐることが退屈になりました。
『ことによつたら、あんな約束をしたのは嘘で、地の底に、にげてしまつたのではないだらうかしら』
 女の子は、かううたがひながらも、それでもいつまでも根気よく、悪魔のでてくるのをまつてゐました。
『ああ、いやだ、いやだ、百姓がいやになつた』
 かう思ひました、すると女の子の重い頭は、コロリと転げ出して、スポリと地の中にもぐり込んでしまつたのです。
 その夜は、とうとう女の子が、畑から家にかへりませんでした、母親はしんぱいして、あくる朝早くに、さがしにでかけました、すると、畑のまんなかに、女の子の鍬がなげだされてあるきりで、女の子のすがたは見えません。
『あの子は、どこへ行つたのだらうね、地面の中へでもかくれたのかしら』
 かう言つて母親は、鍬でそのへんの土をほりかへしてみると、土のなかからたくさんのタマネギが、ごろごろところげでました。
 母親は、そのタマネギを大きな籠に、うんとこさと入れて小脇にかかへてかへりました。
『まあ、まあ、娘もたいへんしあはせになつて、こんなに沢山衣装を着こんでゐるよ』
 かういつて母親は、タマネギの皮を、一枚一枚むき始めましたが、成程むいても、むいても、下着をたくさんに着込んでをりました。(自筆原稿)


鶏のお婆さん


 鶏たちは、鶏小屋の近所の野原にぞろぞろと行列をつくつてやつてきました。
 野原には小さな虫がたくさん飛んでゐましたし、きれいな水の流れもありましたから、鶏たちは其処が好きでいつも遊び場所にしてゐました。
 なにか不思議な事が起きたり、あやしい者の姿を発見(みつけ)ることは、雄鶏が一番上手でした、雌鶏たちの目もとゞかないやうな、遠くの方の草の中から犬の耳が二つ、ひよつこり出てゐるのでも、雄鶏はたちまち発見しました。
『悪者が居るぞ、みんな用心しろ』
 と雄鶏は大きな声で叫びました、それから雄鶏は精いつぱい首を長くのばして、悪い奴がどつちの方角へ歩るきだすかを監視しました、それで雌鶏たちは雄鶏が自分達を守つてくれるので安心をして、餌を拾つたり、遊びまはつたりすることが出来たのです。
 その日も、雄鶏が先頭になつて、鶏の一家族は、あちこち遊びまはりました。
 野原のまんなかを流れてゐる小川に、一人の百姓の娘が、青菜を水の中でザブ/\と洗つてゐました。丁寧に一枚々々葉を洗ひ、それを藁でしばつて、一掴みほどづつの束にして、自分の傍に積みあげました。
 娘は、青菜を洗ひながらも、チロリ、チロリ、と横眼で近づいてくる鶏たちの方を見るのでした。
 鶏たちも、また珍らしさうに首を傾げて、一束宛積みあげる、娘さんの忙がしさうな手元をながめてゐました、鶏たちの眼には青菜の白い茎はいかにも、おいしさうに見えました。
『娘さんは、これからあの青菜を町に売りに出かけるのだよ、だから傍へよつてあれを泥足で踏んだり、喰べたりしてはならないよ』
 と雄鶏はいひました。すると若い雌鶏は
『菜を洗つてしまつた後には、きつとコボした菜が沢山あるわね』
 といひました、鶏たちは、娘さんが菜を洗つてしまふのを待つことにしました、そして、その附近で遊んでゐましたが、そのうち滑稽な出来事がもちあがりました。
 娘さんはせつせと洗つた青菜を積みあげてそれが三角型に高くなりました、娘さんは又一つの青菜を積みあげましたが、ところが、その青菜がどうしたはづみか、コロコロと下まで転げをちたのでした。
 その青菜の慌てて転げ落ちた様子といつたらそれは/\滑稽でした、鶏たちは、お腹を抱へて笑ひました。
 なかでもその年の春に生れた、若い雌鶏などは、ころげまはつて笑ひました。
『わたし、こんなにお可笑しい目にあつたのは生れて始めてだわ』
 といひました。
 すると傍から『フン』と鼻先で、意地悪さうに、
『青つ葉が転げ落ちたくらいで、そんなにお可笑しいものかね――』
 といふものがをりました、それはこの鶏たちの家族の中で、いつも意地悪を言つて嫌はれものの、一羽の雌鶏でした、この雌鶏は、もうたいへん歳をとつて、からだはヨボヨボでしたが、口は若い者に負けませんでした、そしてみんなと散歩にでても、自分から地を掘つたり、草の根を掻きわけたりして、餌を探すやうなことはなく、他の鶏の発見した餌を、横合からやつてきて奪ひとりました、また自分で餌をみつけると、羽をひろげて隠しましたので、鶏たちは誰も相手にしませんでした。
『お婆さんも、もう餌を拾ふのが、面倒になつたのだね』
 と或る日、雄鶏がいつたことがありました。
『ああ、さうだよ、わしももうながいこと生きれないよ』
 と婆さん鶏は、しんみりとした声でいひましたので、雄鶏もちよつと可哀さうに思ひました、しかしそのくせ婆さん鶏は、長生(ながいき)をいたしました。
 百姓の娘さんは、青菜を洗つてしまひ、これを小さな手車にのせて、街の方に行きました、鶏たちはコボレた菜を仲善く拾つて喰べました、
『みんな見給へ、あんな高い処を鴉が飛んでゐる』
 雄鶏がいひました、一同は空を仰ぎました。[#底本にはない「。」を補った]なるほど、鴉が一羽高い高い空に、ゆつくりと舞つてゐました、その鴉は病気のやうでもありました、なぜと言つて、それほどに鴉の舞つてゐるところは高かつたからでした。
『病気でなければ、あの鴉が気が狂つたのだらうね』
 と誰やらがいひました、すると空の鴉は、急にくるくると風車のやうに、空中でもんどりを打ち、あれ、あれ、と鶏たちが声をあげて騒ぐ間もなしに、一直線に鴉は落ちました。
『たしかに落ちたね、何処へ落ちたらう、森の向うだらうか、それとも森の中へだらうか』
 雄鶏はかなしさうな顔をしました、雌鶏たちも、みな不幸な鴉のために同情をして、暗い悲しい顔をして、森の方をながめました。
『鴉がおつこちた位で、そんなに悲しいかね』
 と不意にいつたものがありました、それは意地悪の婆さん鶏(どり)でした。
 雄鶏は、ちよつと首の毛を逆立てて、婆さん鶏を尻眼にかけながら
『さあ、さあ、みんな鶏小屋に帰りませう。』
 といひ、先頭に立つて、ぷんぷん怒つて、一同を連れて小屋の方へ歩るきました。
 意地悪の婆さん鶏は、一同の列の、いちばん後に、よぼよぼと尾行(つい)てきました。
 小屋に入ると鶏たちは、それぞれ練餌を喰べたり、砂を浴びたり、羽の手入れをしたり、勝手なことをいたしました。
『雄鶏さん、大変ですよ、あの意地悪婆さんが、飛[#「飛」に「ママ」の注記]んでもないものを喰べて、』
 一羽の鶏が、雄鶏のところに、あわてて注進にきました。
 最初婆さん鶏が、鶏小屋の隅の暗いところで、ひとりで白い丸い物を、むしや、むしや、喰べてゐました、それをみつけたのは若い雌鶏達でした、そして婆さん鶏は、自分だけで喰べようと頬張つて、眼を白黒させました、そこへ若い雌鶏が、飛びついてその白い物を奪ひ取りました、それからが、小屋の中は、上を下への大騒ぎとなつて、この白い物の奪ひ合が始まつたのでした。
 雄鶏もやつてきて見て驚ろきました、それは奪ひ合つてゐる白い物は、鶏卵(たまご)の殻であつたからです。
 小屋の騒ぎに、鶏飼人がやつてきました。
『やあ、これは大変だ、卵を喰べる悪い癖がついたぞ』
 鶏飼人は、鶏たちに卵を食はせまいとして、追つかけ廻し、以前にもました大騒ぎとなり、鶏たちは埃を舞ひあげて、柵の中を逃げ廻りました。
 その騒ぎもしづまりました、夕暮がきて、鶏たちの眼も、だんだんぼんやりと見えなくなつてきました。
 雄鶏は一家族の数をあらためました、十三羽ちやんと居て、一羽もはぐれてをりません、
『みんな、これから眠りませう、その前にちよつとお話をいたします。今日は神様も、我々家族をお憎みになつて、おいでだらうと思ひます、それといふのは、昼の騒ぎです、もつとも近頃は鶏飼人の不親切で、さつぱり瀬戸物を砕いたのを、我々にくれません、しかし瀬戸物がなかつたなら、私達は小砂利を拾つて喰べればよいのです、けふのやうに、鶏のくせに卵を喰べるやうなことがないやうに、私達は卵を産むのが仕事ですから』
 かう一同に言ひました、若い雌鶏達は、こころから悪いことをしたと考へました。
 婆さん鶏は、雄鶏をじろりと見て
『いちばん先に、卵を割つたのは、わしだよ。若い者に罪はないさ。鶏が卵を食べられないといふ規則はないからね』
 と憎々しくいひました。
 雄鶏は、何段にもなつてゐる棲架(とまりぎ)の、いちばん上の段に飛びあがつて元気な声で
『さあ、みんな棲架にとまつたか、子供たちは片脚で止まる練習もしなければ駄目だよ、片脚で立つて片脚を休ませ、かはるがはる疲れたらやるのだよ、卵箱の中に入つて寝るのは、弱虫か、病人だよ、元気なものは、いちばん高い棲架に止まるんだよ。』
 とこまごまと注意をしました、鶏たちは、みな素直に雄鶏のいふやうに、なるべく高い横木をえらんで止まり、仲善く肩をすりあはしました。
 雄鶏は、高いところから、婆さん鶏に声をかけました。
『婆さん、地べたにうづくまつて居るのは体によくないよ』
 婆さん鶏は、暗い片隅の湿つた処に、汚れた羽に頭を突込んでまるくなつて眠つてゐたので、かう親切にいひました。
『わしは何処でもよいよ、元気のよいものはせいぜい高い棲架にとまるがよいさ、わしは片足をあげて眠る元気もないんだからね』
 と婆さん鶏はいひました、そこで雄鶏は、地面に寝ては、夜のしめりで体を悪るくすることもあるし、殊に悪いイタチなどが、やつてくることがあるから、棲架にあがりたくなかつたら、せめて糞受板の上へでも、あがつて眠るやうにといひました。
『わしの好き勝手にさして眠らしておくれ、糞受板にあがる元気も、わしにはないんだからね、イタチに喰はれてしまへば本望だよ。』
 と、なかなか強情で、棲架に止まらうとはしませんでした。
 婆さん鶏は、地べたの上に、他の鶏たちは棲架の上に、棲架の上の鶏たちは、自分の羽に首をいれたり、また隣の鶏の脇の下に、首をいれさして貰つたりして、仲善くそして静かに眠りにをちいりました。
 雄鶏は、高い棲架の上から下を見て、みなと一羽離れて、惨めな容子で寝てゐる、強情な婆さん鶏を憎むよりも、なにか哀れな同情の気持になりました。
     *
 夜が明けました、殊にからりと晴れた好天気で、鶏飼人が戸を開くと、ギラギラするやうな日光が、小屋の中にをどりこみました。
 鶏たちは、大喜びで、はしやぎ、柵の中を走りまはつて、わずかの時間まるで気狂ひのやうに嬉しがつて、餌争ひをしました。
 雄鶏は、吃驚りして、声をあげました。
『おい、お前たちは、何をそんなに奪ひ合つてはしやいでゐるんだ、それはお婆さんの脚ではないか』
 鶏たちは、今更のやうにびつくりして、くはへてゐたものを放しました、雄鶏はそこであたりを見廻しましたが、お婆さん鶏の姿は、そのあたりには見あたりませんでした。(自筆原稿)


※入力者補注:本文中、差別語に分類される用語が出てくるが、作者の意図と時代背景とを考慮し、そのままとした。


底本:「新版・小熊秀雄全集第2巻」創樹社
   1990(平成2)年12月15日第1刷
入力:浜野智
校正:八巻美恵
ファイル作成:浜野智
1999年3月5日公開
1999年8月28日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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