碧瀾堂
ある日、又もや神のお告げがあった。
「あしたは貴い客人が来る。かならず鄭重に取扱わなければならぬぞ」
そこで、家の息子たちや奉公人どもは早朝から門に立って待ち受けていたが、日の暮れる頃まで誰も来なかった。
神様のお告げにいつわりがあろうとは思われないが、是非なく門を閉じようとする時、ひとりの乞食が物を貰いに来た。
「さあ、これだ」
無理に内へ連れ込んで、湯に入れるやら、着物を着せ換えるやら、家内が総がかりで下へも置かない
「どうぞお助けください。わたくしのような者でも命は惜しゅうございます」と、かれは泣いて訴えた。
主人から神のお告げを言い聞かされて、乞食も不思議そうに言った。
「それではお
香を焚いて祷ると、やがて神はくだった。
神は捧げられた紙の上に、左の文字を大きく書いた。
「あなたは
それを見ると、乞食はあっと気を失ってしまった。家内の人びともおどろいて介抱して、さてその子細を詮議すると、かれは泣いて答えた。
「わたくしも元は相当の金持の家のせがれで、ある
言い終って、彼はまた泣いた。
その家では数百金をあたえて彼を帰してやった。そうして、その以後は神を祭らなくなったそうである。
雨夜の怪
後に
かれらは雨具を持っていなかった。しかもこの当時は学堂の制度がはなはだ厳重で、無断外泊などは決して許されないので、かれらは引っ返して酒屋へ行って、
その明くる日である。夜廻りの
「昨夜の
その報告におどろいた郡守以下の役人らは、それがいかなる怪物であるか、ほとんど想像が付かなかった。その噂がそれからそれへと拡まって、何か巨大な怪物がここらに出現するという風説が騒がしくなった。
町々では厄払いの道場を設けて、三昼夜の祈祷をおこない、その怪物の絵姿をかいて神社の前で
世の怪談にはこの類が少なくない。
術くらべ
客の一人は幻術をよくするので、たわむれに彼女を悩まそうとして、なにかの術をおこなうと、女の提げている水桶が動かなくなった。
「みなさん、御冗談をなすってはいけません」と、女は見かえった。
客は黙っていて術を解かなかった。暫くして女は言った。
「それでは術くらべだ」
彼女は
「旦那、もう冗談はおやめなさい」と、彼女はまた言った。
客は
往来の人も大勢立ちどまって見物する。寺の者もおどろいた。ある者は役所へ訴え出ようとすると女は笑った。
「心配することはありません」
その蛇を掴んで地に投げつけると、忽ち元の棒となった。彼女はまた笑った。
「おまえの術はまだ未熟だのに、なぜそんな事をするのだ。わたしだからいいが、他人に逢えばきっと殺される」
客は後悔してあやまった。彼は女の家へ付いて行って、その弟子になったという。
渡頭の妖
「これは私の
ここに
「人間の礼儀はお互いという。わたしはいつもお前に渡してもらうから、今夜は私がおまえを渡してあげよう」
男は辞退したが、黄は
無理に彼をいだいて河を渡ると、むこう岸には大きい石があった。黄はあらかじめ
その後、ここに怪しいことはなかった。