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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)09稽神録(宋)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:48:58 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   金児と銀女

 建安の村に住んでいる者が、常に一人の小さいしもべを城中のいちへ使いに出していました。
 家の南に大きい古塚がありまして、城へ行くにはここを通らなければなりません。奴がそこを通るたびに、黄いろい着物をきた少年が出て来て、相撲を一番取ろうというのです。こっちも年が若いものですから、喜んでその相手になって、毎日のように相撲を取っていました。それがために往復の時間が毎日おくれるので、主人が怪しんで叱りますと、奴も正直にその次第を白状しました。
「よし。それではおれが一緒にゆく」
 主人はつちを持って草のなかに忍んでいると、果たしてかの少年が出て来て、奴に相撲をいどむのです。主人が不意に飛び出して打ち据えると、少年のすがたは忽ちに金で作った小児に変りました。それを持って帰ったので、主人の家は金持になりました。
 又一つ、それに似た話があります。
 州の軍吏蔡彦卿さいげんけいという人が拓皐たくこうというところの鎮将となっていました。ある夏の夜、鎮門の外に出て涼んでいると、路の南の桑林のなかに、白い着物をきた一人の女が舞っているのを見ました。不思議に思って近寄ると、女のすがたは消えてしまいました。
 あくる夜、蔡は杖を持ち出して、その桑林の草むらに潜んでいると、やがてかの女があらわれて、ゆうべと同じように舞い始めたので、彼は飛びかかって打ちたおすと、女は一枚の白金に変りました。さらにその辺の土を掘り返すと、数千両の銀が発見されました。

   海神

 江南の朱廷禹しゅていうという人の親戚なにがしが海を渡るときに難風に逢いまして、舟がもうくつがえりそうになりました。
「それは海の神が何か欲しがっているのですから、ためしに荷物を捨ててごらんなさい」と、船頭が言いました。
 そこで、舟に積んでいる荷物を片端から海へ投げ込みましたが、波風はなかなか鎮まりそうもありません。そのうちに一人の女が舟に乗って来ました。女は絶世の美人で、黄いろいきものを着て、四人の従卒に舟を漕がせていましたが、その卒はみな青い服を着て、あかい髪を散らして、いのこのようなきばをむき出して、はなはだ怖ろしい形相ぎょうそうの者どもばかりでした。
 女はこちらの舟へはいって来て言いました。
「この舟にはいいかもじがある筈だから、見せてもらいたい」
 こちらは慌てているので、髢などはどうしたか忘れてしまって、舟にあるだけの物はみな捨てましたと答えると、女はかしらをふりました。
「いや、舟のうしろの壁ぎわに掛けてある箱のなかに入れてある筈だ」
 探してみると、果たしてその通りでした。舟には食料の乾肉ほしにくが貯えてありましたので、女はそれを取って従卒らに食わせましたが、かれらの手はみな鳥の爪のように見えました。
 女は髢を取って元の舟へ乗り移ると、人も舟もやがて波間に隠れてしまいました。波も風もいつか鎮まって、舟は安らかに目的地の岸へ着きました。

   海人

 とう州、静海せいかい軍の姚氏ちょうしがその部下と共に、海の魚を捕って年々の貢物みつぎものにしていました。
 ある時、日もやがて暮れかかるのに、一向に魚が捕れないので、困ったものだと思っていると、たちまち網にかかった物がありました。それは一個の真っ黒な人間で、からだじゅうに長い毛が生えていまして、手をこまぬいて突っ立っているのです。おまえは何者だと訊いても、返事をしません。
「これは海人かいじんというものです」と、漁師は言いました。「これが出ると必ず災いがあります。何かの事のないように、いっそ殺してしまいましょう」
「いや、これは神霊の物だ。みだりに殺すのは不吉である」
 姚は彼をゆるして、祈りました。
「お前がわたしのためにたくさんの魚をあたえて、職務を怠るの罪を免かれるようにしてくれれば、まことに神というべきである」
 毛だらけの黒い人間は、退いて水の上をゆくこと数十歩で沈んでしまいました。その明くる日からは例年にばいする大漁でした。

   怪獣

 李遇りぐう宣武せんぶの節度使となっている時、その軍政は大将の朱従本しゅじゅうほんにまかせて置きました。朱の家にはさるを飼ってありましたが、うまやの者が夜なかに起きて馬にまぐさをやりに行くと、そこに異物を見ました。
 それは驢馬ろばのような物で、黒い毛が生えていました。しかも手足は人間のようで、大地に坐ってかの猴を食っているのでした。人の来たのを見て、かれは猴を捨てましたが、もう半分ほどは食われていました。
 その明くる年、李遇の一族は誅せられました。故老の話によると、郡中にはこの怪物が居りまして、軍部に何か異変のあるたびに、かれは姿をあらわします。それが出ると、城中いっぱいにいやな臭いがするそうです。反乱を起した田※でんいん[#「君+頁」、174-11]が敗れようとする時にも、かの怪物が街なかにあらわれて、夜警の者はそれを見つけましたが、恐れて近寄りませんでした。果たして一年を過ぎないうちに、田は敗れました。

   四足の蛇

 舒州じょしゅうの人が山にはいって大蛇を見たので、直ぐにそれを撃ち殺しました。よく見ると、その蛇には足があるので、不思議に思って背負って帰ると、途中で県の役人五、六人に逢いました。
「わたしは今この蛇を殺しましたが、蛇には四つの足があるのです」
 そう言われても、役人たちには蛇の形が見えないのです。
「その蛇はどこにいるのだ」
「いるではありませんか。これが見えないのですか」
 その人は蛇を地面に投げ出すと、役人たちは初めて蛇の形を見ました。その代りに、今度は蛇を見るばかりで、その人の形が見えなくなりました。なにかの怪物に相違ないというので、蛇はそのまま捨てて帰ったそうです。この蛇は生きているあいだに自分の形を隠すことが出来ず、死んでから人の形を隠すというのは、その理屈が判らないと著者も言っています。

   小奴

 天祐丙子てんゆうひのえねの年、浙西せっせいの軍士周交しゅうこうが乱をおこして、大将の秦進忠しんしんちゅうをはじめ、張胤ちょういんら十数人を殺しました。
 秦進忠は若い時、なにかの事で立腹して、小さいしもべを殺しました。やいばをそのむねに突き透したのでした。その死骸は埋めてしまって年を経たのですが、末年になってかの小奴しょうどがむねを抱えて立っている姿を見るようになりました。初めは百歩を隔てていましたが、後にはだんだんに近寄って来ました。
 乱のおこる日も、いま家を出ようとする時、馬の前に小奴が立っているのを、左右の人びともみな見ました。役所へ出ると右の騒動で、彼は乱兵のために胸を刺されて死にました。
 同時に殺された張胤は、ひと月ほど前から自分の姓名を呼ぶ者があります。勿論その姿は見えませんが、声は透き通ったような強いひびきで、これも初めは遠く、後にはだんだんに近く、当日はわが面前にあるようにきこえましたが、役所へ出ると直ぐに討たれました。

   楽人

 建康けんこうに二人の楽人がくじんがありまして、日が暮れてから町へ出ますと、二人のしもべらしい男に逢いました。
陸判官りくはんがんがお招きです」
 招かれるままに付いてゆくと、大きい邸宅へ連れ込まれました。座敷の装飾や料理の献立こんだてなども大そう整っていまして、来客は十人あまり、みな善く酒を飲みました。楽人らは一生懸命に楽を奏していると、もう酒には飽きたから食うことにすると言い出しました。しかも自分たちが飲んだり食ったりするばかりで、楽人らにはなんにもあてがわないのです。
 夜がしらじらと明ける頃に、この宴会は果てましたが、楽人らはもう疲れ切って、門外の床の上にころがって正体なしに眠りました。眼が醒めると、二人は草のなかに寝ているのでした。そばには大きい塚がありました。
 土地の人にくと、これは昔から陸判官の塚と言い伝えられているが、いつの時代の人だかわからないということでした。



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