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巴里祭(パリさい)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-26 8:04:12 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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新吉は釣り竿を引き上げ水中で魚にとられた餌を取りかえて、 ――兎も角、おれが巴里で始めて出会った初恋娘のカテリイヌの本当の事情は大分おれの想像と違っていた。あの女はそれほどうい/\しい女でもなければ神聖な女でもなかった。いわば平凡な令嬢だった。それでおれは十何年間も彼女に実は自分の夢を喰わされていたわけさ。自分の不明とはいいながら相当腹が立つわけさ。そこでおれはあの娘を見つけたのを幸い、是非自分の想像していたカテリイヌのように彼女を仕立て上げて見ようというわけさ。」
リサはちょっと ――仕立て上げたところで、あらためてカテリイヌの代りに愛して行こうとなさるの。」
――違う。おれの想像していたカテリイヌのようにあの娘を仕立て上げる。其の事だけで復讐は充分じゃないか。僕の想像を裏切った死んだカテリイヌにも、僕自身の不明に対しても。それから先は誰でも気に入った男と一緒になるがいゝ。」
――けど、あの娘、随分田舎
――田舎擦れてゝも巴里擦れていない。中味は生の
熟し切った太陽の下でセーヌ河のうす ――あなたも渋くなったわね。すっかり巴里を卒業したのよ。」
リサは感に堪えたように言った。 ――どうしてだ。何を。」
――いままでのあなたの経験しなさったのはやっぱり
リサは編物をちょいと新吉の背中に当てがって寸法を見て、 ――ちょうどいゝ。これフェルナンドのを、あなたのジャケツに編み縮めてあげるのよ。」
新吉はリサの手に持つ編物を見た。リサの情人で、死ぬのを嫌がり抜いて死んで行った天才建築家フェルナンドはまた新吉の親友だった。 ――あいつが生きてたら、今時分エッフェル塔をピューリズムで改築するって騒いでいるだろう。」
こんなことを独言のように言いながら新吉は、自分は今はリサの息子にでもなってしまったような気がした。丁度遠く河上の方から展けて来た青空が街の屋根に近づいて卵黄色に濁りかけている境に小形の旅客飛行機がゆったり小さな姿を現わした。 ――ときに日本の奥さんの事はどうなさるの。――」
――ベッシェール夫人の忠告を入れてこっちへ呼ぶことにしたよ。夫人はもう実物を見ないと気になって仕方が無いと言うのだ。」
――しつこい気狂い婆さんね。だからあたしあの婆さんにはあんたがカテリイヌを探す話なんかしなかったのさ。あの婆さん、あの娘が巴里祭の時あんたと一緒に遊んだのは、たゞ其の場だけの事だと安心して居るのよ。婆さんは今のところあんたが国元の奥さんを真実に思い出してるのばかり気になって仕方ないのよ。ジャネットをあんたが、うんと気に入って今後も世話するなんてことがわかればそれこそあの婆さん、大変よ。」
リサは自分の言うことだけ言ってしまうともとの実直な姿勢に直ってせっせとジャケツを直しにかゝった。 底本:「巴里祭・河明り」講談社文芸文庫、講談社 1992(平成5)年10月10日第1刷発行 底本の親本:「岡本かの子全集 第四巻」冬樹社 1974(昭和49)年3月発行 ※以下の修正箇所は、底本の親本を参照しました。 ○うい/\しい[#「うい/\しい」は底本では「うろ/\しい」] 入力:門田裕志 校正:土屋隆 2005年5月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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