宇宙のはてへ
「あの、ダイヤモンドをちりばめたようなきらきらした長い帯が、上から下へ、長くつづいていますね。あれは何か知っていますね」 「知っています。天の川です、銀河ともいいます」 「そうです。銀河です。銀河はどんなものか知っていますか」 「銀河は星の集っているところでしょう」 「それにちがいありませんが、どのくらい星が集っているか、分りますか」 「さあ。ずいぶんたくさんのきらきらした星が輝いていますね。ええと、一万――いや十万ぐらいかな」 「もっとたくさんよ。百万はあるでしょう。ねえ、ポーデル先生」 「もっともっとたくさんです。約二千億もあります」 「二千億ですって。まあ、おどろいた」 「あの一つ一つの星が、太陽と同じように光っているのです。つまり二千億の太陽があのとおり輝いているのです」 「ふーン。すると銀河というのは、ずいぶん大きいものですね」 「直径が十万光年あるのです。銀河の端からはしへいくのに、光とおなじ早さでとんでも、十万年かかるというわけです」 「すごいなあ。ぼくは銀河の大きさを考えると、頭がへんになります。そしてあの光っている二千億の太陽には、それぞれいくつかの遊星がまわっているんでしょう。考えてみると地球なんて小さなものですね」 東助はため息をついた。 「ポーデル先生。銀河でないところに光っている星は、どういう星ですの」 「銀河からはなれている星でも、じつは銀河系に属する星があります。そのほかに、銀河系でない星や星団もあります。それがよく見えるように、銀河をはなれて遠くへ、この樽ロケットをとばしましょう。すると銀河の形がよく見えます」 ますますものすごいスピードで、樽ロケットは、暗黒の大宇宙をとんでいった。 「東助君。ヒトミさん。地球の位置をよくおぼえていて下さい。太陽を見忘れないようにして下さい。太陽系も、じつは銀河系の一つの星ですが、銀河のどのへんにある星だか、やがて分るでしょう」 ポーデル博士の話しているうちに、樽ロケットは何百万光年の空間をすっとんだ。銀河の帯がどんどん縮まって、お皿のような形をした平ったいものになった。 「ほら、分ったでしょう。銀河は星が円板のように集っているものです。それから、みなさんにとってなつかしい太陽系は、銀河のずっと端に近いところにあるのが見えるでしょう」 なるほど銀河を皿にたとえると、皿のふちに近いところにある。 「あらあら。銀河はまわっていますのね」 ヒトミが、おどろいていった。 「そうです。皿の形をした銀河は、皿をまわすように、ぐるぐるまわっているのです。中心のところは、星がたくさんあつまって、すこしふくれてみえるでしょう」 「ああ、そうね」 「ぼくらの太陽も、銀河といっしょに、まわっているようですね」 「そうです。だから太陽も、銀河系の星にちがいないのです。太陽がまわって元のところへ戻るには二億二千万年かかるのです」 「長い年月ですね。人生五十年にくらべて、なんという長い年月でしょう」 「この大宇宙ができてから、何年たったか、知っていますか」 「いいえ」 「無限に長い時間がたっているのでしょう」 「無限大ではないのです。約二十億年たっていることが分っています」 「二十億年ですか。大宇宙にも年齢があるというのは始めて知りましたが、おもしろいですね」 「ポーデル先生。大宇宙が二十億年の年齢をとっているものなら、大宇宙が生れたばかりの赤ちゃんのときと、今とは、どうちがっていますの」 「さあ、そのことですよ。では、時間器械をかけて、二十億年前の大昔へ戻してみましょう。それから今の時代へ、時間器械を走らせてみましょう。それを私たちの目では、たった一分間で見えるように器械をあわせておきますよ。いいですか。よく見ていて下さい」 博士が時間器械を動かしてスイッチをいれると、窓の外は暗黒になった。いや、暗黒ではない。まん中に一つ輝いているものがあった。それが急にふくれだした。花火が爆発したように、光る粒が四方八方へひろがりはじめた。どんどんひろがっていく。しかしよく見ていると、速度のはやいものもあれば、おそいものもある。はやいものは、光のうすい小さいものであって、大きいかたまりはおそくとんでいる。 「一分間たちますよ。はーい、一分間たちました。さっきと同じ時代になったのです。見たでしょう、星は二十億年の昔に、一つにかたまっていたということを。それが爆発して四方八方へとんでいることも分りましたね。銀河系もその一つですが、わりあいゆっくりとんでいます。銀河系のような星雲が、すくなくとも一億はかぞえられます」 「宇宙って、なんてひろいのでしょう」 「大宇宙は、今でもどんどん外へひろがっていきます。どこまでひろがるのか果は分りません」 「ひろがっていって、大宇宙は最後にはどうなるのですか」 「それはまだとけない謎です。あははは、わたくしもそこまでは知りません」 ポーデル博士は、いつになく「知りません」と、そこでかぶとをぬいだ。
海底国めざして
すっかり空が晴れわたった。 五月の鯉のぼりが、屋根のうえをいきおいよくおよいでいる。 すがすがしい気分で、急にのびてきた雑草を分けて原っぱのまん中をいく二人は、みなさんよくごぞんじの東助とヒトミだった。 「あ、あそこにポーデル先生がでていらっしゃるわ」 ヒトミが早くも気がついた。 「おや、先生はいつもとちがって、外にでて、ぼくたちを待っていて下さる」 東助とヒトミが足を早めて先生のところへ近づいてみると、先生は愛用の樽ロケットの外側へ一生けんめいペンキのようなものをぬっている。 「先生。こんにちは」 「やあやあ、君たち、きましたね。やれやれ、私の仕事、やっと間に合いました」 「ペンキを樽ロケットに塗ってどうなさるんですか」 「これはね、今日は君たちを海の底へつれていこうと思うのです。私の樽ロケット、今日は海の中へもぐります。海水などにおかされないように、安全のため塗料をぬりました。さあ、これでよろしい。さきへおはいりなさい」 東助が先に、それからヒトミ、それから先生の順で、小さい樽ロケットの中に三人はすいこまれた。三人とも、べつになんとも思わないけれど、知らない人たちが見たら、さぞふしぎがることであろう。なにしろ足で、けとばせるぐらいの小さい樽の中に、大きな三人のからだがすいこまれてしまうのだから。 ロケットの中は、いつものように広く、そして明るく、東助やヒトミの大好きな果実やキャンデーが箱にはいって卓上におかれてある。 「さあ、おあがりなさい」 「先生、ありがとう。で、今日は海底へもぐって、なにを見るのですか」 「君は、海底ふかく下りていくと、なにがあると思いますか」 「そうですね、こんぶの林がゆらいでいて、その間を魚の大群がおよいでいます」 「もっと下へさがると、どんなになっていますか。こんどはヒトミさん、話して下さい」 「だんだんあたりが暗くなります。そしてふつうの魚はいなくなって深海魚ばかりになります。いろんな深海魚は気味のわるい形をしたお魚です。中には自分のからだから青い光を発している魚もいます」 「なかなか、よく知っていますね。もっと下へさがると、なにがありますか」 「まださがるんですか。ええと、するともう魚はいなくなります。やわらかい泥が、ふかくよどんでいるだけです」 「もっと下へおりると、どうなりますか」 「もうそこでいきどまりです。おしまいです」 「いや、もっとさがるのです。どうなりますか」 「困ったなあ。泥の中を分けて中へはいっていくと岩がありますね。岩の下をどんどんおりていくと、地球の下にもえているあついどろどろにとけた岩にぶつかります。そうすると死んでしまいます」 「そうです、そうです。そこまで考えないとおもしろくない。つまり海の底には、岩が大きくひろがっている――というか、それとも海の底には陸地があるといった方がいいかもしれませんね。そしてその中にあるのは、岩ばかりですか」 「そうでしょうね」 「生物はいませんか」 「さあ、どうかしら。たぶん、いないと思います。だってそこには空気がないのですもの」 「なかなかいいことをいいますね」 「それに、下へいくほど暑いから、生物なんか生きていけません。上から海水がしみこんでくることもあるだろうし、どっちみち、だめですね」 「よく分りました。あなたがたの知識は正しいです。正しいが、しかしこれからそこへ私が案内したら、きっとおどろきますよ。さあ出発します。そこの窓へ顔をあてておいでなさい。さっきあなたがいったとおりの海中風景が見られますよ」 そういうと博士は、樽ロケットを進発させ、その操縦をはじめた。 博士のことばどおり、二人の目の前には美しい海の中の風景がくりひろげられ、まるで竜宮に向かう浦島太郎のような気持になった。
<< 上一页 [11] [12] [13] [14] 下一页 尾页
|