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妖術(ようじゅつ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-23 10:54:53 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



       五

 紫の矢絣やがすり箱迫はこせこの銀のぴらぴらというなら知らず、闇桜やみざくらとか聞く、暗いなかにフト忘れたように薄紅うすくれないのちらちらするすごい好みに、その高島田も似なければ、薄い駒下駄に紺蛇目傘こんじゃのめそぐわない。が、それは天気模様で、まあ分る。けれども、今時分、扇子おうぎは余りお儀式過ぎる。……踊の稽古けいこ帰途かえりなら、相応したのがあろうものを、初手しょてから素性のおかしいのが、これで愈々いよいよ不思議になった。
 が、それもそのはず、あとで身上みじょうを聞くと、芸人だと言う。芸人も芸人、娘手品むすめてじな、と云うのであった。
 思い懸けず、あんまり変ってはいたけれども、当人の女の名告なのるものを、怪しいの、疑わしいの、嘘言うそだ、と云った処で仕方がない。まさか、とは考えるが、さて人の稼業である。此方こなたから推着おしつけに、あれそれともめられないから、とにかく、不承々々に、そうか、と一帆のうなずいたのは、しかし観世音の廻廊の欄干に、立並んだ時ではない。御堂みどうの裏、田圃たんぼ大金だいきんの、とある数寄屋造すきやづく[#「数寄屋造り」は底本では「敷寄屋造り」]の四畳半に、ぜんを並べて差向った折からで。……
 もっとも事のそこへ運んだまでに、いささか気になる道行みちゆきの途中がある。
 一帆は既に、御堂の上で、その女に、大形の紙幣さつを一枚、紙入から抜取られていたのであった。
 やっぱり練磨の手術てわざであろう。
 その時、扇子を手でおさえて、貴下あなたは一人で歩行あるく方が、
「……おすきな癖に……」
 とそう云うから、一帆は肩をゆすって、
「こうなっちやもう構やしません。是非相合傘にして頂く。」とおどすように云って笑った。
「まあ、駄々だだのようだわね。」
 と莞爾にっこりして、
貴方あなた、」と少し改まる。
「え。」
「あの、少々お持合わせがござんすか。」
 と澄まして言う。一帆はいささか覚悟はしていた。
「ああ。」
 とわざと鷹揚おうように、
幾干いくらばかり。」
「十枚。」
 と胸を素直まっすぐにした、が、またその姿もかった。
「ちょいと、買物がしたいんですから。」
「お持ちなさい。」
 この時、一帆は背後うしろに立った田舎ものの方を振向いた。みんな、きょろりきょろりとながめた。
 女は、帯にも突込つっこまず、一枚たなそこに入れたまま、黙って、一帆に擦違すれちがって、角の擬宝珠ぎぼしゅを廻って、本堂正面の階段の方へ見えなくなる。
 大方、仲見世へ引返したのであろう、買物をするといえば。
 さて何をするか、手間の取れる事一通りでない。
 煙草たばこももう吸い飽きて、こまぬいてもだらしなく、ぐったりと解ける腕組みを仕直し仕直し、がっくりと仰向あおむいて、唇をペろぺろと舌でめる親仁おやじも、しゃがんだり立ったりして、色気のない大欠伸おおあくびを、ああとするあかね新姐しんぞも、まんざら雨宿りばかりとは見えなかった。が、綺麗きれい姉様あねさま待飽倦まちあぐんだそうで、どやどやと横手の壇をり懸けて、
「お待遠まちどおだんべいや。」
 と、親仁がもっともらしい顔色かおつきして、ニヤリともしないでほざくと、女どもはどっと笑って、線香の煙の黒い、吹上げのしぶきの白い、誰彼たそがれのような中へ、びしょびしょと入ってく。
 吃驚びっくりして、這奴等しやつら、田舎ものの風をする掏賊すりか、ポンひきか、と思った。軽くなった懐中ふところにつけても、当節は油断がならぬ。
 その時分まで、同じ処にぼんやりと立って待ったのである。

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