尾瀬ケ原湿原(群馬県片品村)の地層に過去1万年間堆積(たいせき)したミズゴケの炭素が、海面の変化をかなり忠実に反映していることを、東京農工大の赤木右(たすく)教授(地球化学)らが調査で明らかにした。9日にコペンハーゲンである地球化学のゴールドシュミット国際会議で発表する。大気中の二酸化炭素の濃度のわずかな変化でも海面水位が変化することがわかり、地球温暖化の予測に役立つと期待される。
尾瀬ケ原湿原には全国的に珍しいミズゴケだけの泥炭層が残る。赤木教授らは94~96年の学術調査の一環で、過去1万年間に堆積した泥炭層を深さ5メートルまでボーリング。腐らずに残ったミズゴケのリグニンという成分から、質量の異なる2種類の炭素同位体を取り出した。
この同位体の比率から、大気中の二酸化炭素濃度を割り出せる。各年代層で比率の変化を調べたところ、3000年前、5000年前、7500年前に大気中の二酸化炭素濃度が高い時期があった。
この結果は、英サウサンプトン海洋センターのグループが去年、紅海のサンゴ礁などを調べて報告した海面の水位の変化と一致した。二酸化炭素濃度が20~30ppm高くなると、海面は最大で約20メートル上昇していた。
これまでも、南極の氷に含まれる空気の二酸化炭素濃度と海面変化の関連が調べられてきたが、100万年単位でしかわからなかった。赤木教授らは、従来の約10倍の精度で二酸化炭素濃度の変動を測定し、1万年以下のわずかな濃度変化と海面水位を関連させることに成功した。
赤木教授は「標高の高い所にある湿原がそのままの形で残っていたことが、今回の発見につながった」と話している。
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〈尾瀬〉 日光国立公園の特別保護地区に指定される湿原。尾瀬沼や尾瀬ケ原湿原からなり、広さは東京ディズニーランド106個分に相当する。尾瀬ケ原湿原は標高1400メートル、気候が厳しいため、植物が腐食せずに泥となって堆積し、泥炭層と呼ばれる地層をつくる。尾瀬でしかみられない希少植物21種が生育する。 (06/06 14:58)
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