「原油価格の先行きがさらに不透明になった」。5月29日、サウジアラビア東部のアルホバルで起こった武装勢力による外国人襲撃事件。近郊に日本向け石油積み出し港があるため、現地に事務所を置く出光興産の関係者は深刻に受け止めている。原油価格の高騰を受け、日本国内でも既に末端価格を引き上げる動きが見られ、今回の事件で影響が一段と広がる懸念が出てきた。
新日本石油と出光興産は6月出荷分のガソリン卸値を前月から1リットル当たり4円引き上げたほか、元売り各社が揃って1990年11月の湾岸危機以来の大幅な値上げに踏み切った。「若干のタイムラグはあったが、原油高騰が末端価格に反映されてきた」と石油元売り大手の幹部が話すように、ガソリンスタンドでの販売価格も5月上旬以降、上昇している。
レギュラー価格、110円台へ
石油情報センターの調べでは、5月のレギュラーガソリン価格(全国平均)は1リットル当たり108円。前月を1円上回った(上グラフ)。100円から107円に上がった4月は、消費税を総額表示方式に変えたことによる見かけの上昇が主因だが、過去1年ほど横ばいだった販売価格が2カ月で実質3円ほど値上がりしている。6月の卸価格の上昇分も販売価格に上乗せされれば110円台に達する見通しだ。
日本航空システムと全日本空輸などの主要航空会社は原油高によるジェット燃料の値上がりを理由に、国際線の旅客運賃を7月から平均5%値上げする予定だ。
一方、国際航空貨物の運賃は燃料コスト増に連動して既に値上げが進んでおり、日本通運も「荷主に事情を説明して値上げ交渉をまとめているところだ」と話す。トラックなどの陸上輸送についても「軽油が徐々に値上がりしているため、対応策を練っている」(日本通運)という。実際、軽油や灯油の価格は、5月に入ってからガソリンを上回る1リットル当たり8円ほどの値上がりとなっている。
運送会社と石油元売り会社とは、個別交渉による燃料契約で数カ月ほどの期間の販売価格を決めており、一般向けのガソリン価格よりも転嫁に時間がかかる。それでも、「既に交渉を始めている」(新日本石油)状況にあり、値上げ交渉が決着すれば、最終的には、荷主の輸送料に跳ね返ることも考えられる。
リストラ進み余剰感薄く
原油高騰の日本経済への影響が本格化するのは、大口需要家との交渉がまとまり、実際に値上げが広がる秋口頃との予測も成り立つが、実は一気に価格転嫁が進む恐れがある。石油元売り各社はここ数年、余剰設備を集約するなどして需給バランスを引き締めてきた。今年は大型製油所の定期改修も重なり、市場に余剰感は薄く、中間段階でのコスト吸収力が効きにくいからだ。
原油の高騰は電力・ガス料金にもかかわってくる。今年4月と2005年4月のエネルギー自由化の拡大をにらみ、東京電力は10月以降の電気料金の値下げを決めた。2002年4月の平均7%の引き下げに続く今回の値下げ幅は、3~5%程度になる見込みだ。
「1%の値下げには500億円の原資が必要だ。どれだけの値下げ幅になるかは、今夏の気候と原油価格の動向次第だ」。東電幹部はこう話す。
火力発電燃料となる低硫黄C重油の高騰が続けば、値下げ幅を低くせざるを得ない。東電に先行して値下げの意向を表明していた東京ガスも、東電の下げ幅を見たうえで対応すると見られ、自由化枠の拡大で光熱費の削減を期待していた産業界には、肩透かしとなるかもしれない。 |