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オシャベリ姫(オシャベリひめ)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-8 14:15:44 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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……自分がオシャベリ姫と云われたわけ…… と、次から次へすっかりお話し申して聞かせました。……短刀と蜘蛛の夢を見たこと…… ……それを二人のお付の女中に話したら「それは今によいことがある夢だ」と云ったこと…… ……それをお父様の王様とお母様のお妃にお話しをしたけれども、二人の女中が後でそんなお話はきかぬと嘘をついたこと…… ……そのためにお父様の王様がお ……それから猫の案内で雲雀の国から蛙の国をまわって、どこでもオシャベリのために非道い目に合って、やっとこの国まで逃げて来たこと…… ……それから王様とお妃様に会った話……御馳走をたべているうちにオシャベリをして殺されようとした話……それから逃げまわってこの鉄の塔のところまで来た話…… 聴いていた王子はビックリしたり、感心したり、笑ったりして夢中になって喜んでききました。そうしておしまいに、 「ああ……ああ、何という面白いお話でしょう。私は生れて初めて本当に面白いお話をききました。そうして生れて初めて本当にこんなに思うさま人間同士に声を出してお話をしました。けれども、あなたのお話の中にたった一つわからないことがあります」 「まあ、それは何ですか」 「それはその二人の女中さんです。あなたの国の人はお話はするでしょうけれども、嘘は云わないでしょう」 「ええ、嘘を云うものは一人もおりません」 「それに何だってあなたのお付の女中は嘘を云ったのでしょう。あなたから短刀と蜘蛛のお話をきいていながら、なぜそれをきかないなぞ云って、あなたのお父様を怒らして、あなたを石の牢屋へ入れさせたのでしょう」 「そうですわねえ。私は今でもそれを不思議と思っているのですよ。私の二人の女中は、今までそれはそれは忠義ないい女中で、そんな意地のわるいことをしたことは一度もありませんでしたのに……」 「不思議ですね」 「どうしたのでしょうね」 と二人は顔を見合わせました。 そのときにはるか下の方でバタンバタンという音につれて、 「ウーン、ウーン」 という声がきこえました。 二人はビックリしましたが、すぐに上り口からはるか下の方をのぞいて見ますと、長い長い梯子段の下のところで、例の大きな蜘蛛と、白い 「おッ。あれは私の母の妃です。おのれ蜘蛛の奴」 と云ううちに、王子は矢のように梯子段を駈け降りて行きました。 オシャベリ姫はどうなることかと見ておりますと、梯子段を降りた王子は懐中から短刀を抜き出すや否や、たった オシャベリ姫はほっと安心しながら、なおもようすを見ていますと、お妃は嬉しさのあまり王子を 王子は地びたへ両手をついてお礼を云いました。 そのうちに、お妃は涙を流しながら王子と別れて、表の方へ出て行かれました。 それを見ていたオシャベリ姫は、急いで梯子段を降りて、王子の傍に行こうとしましたが、その時は何だかお城の中が急に騒々しくなったようで、風の音のきれ目きれ目に沢山の人の足音がするようですから、姫は外をのぞいて見ますと、大変です。 沢山の兵隊が手に手に短刀を持って、この塔の方へ押しかけて来るようです。 これを見た姫は思わず上から叫びました。 「王子様、大変ですよ。大勢の兵隊が攻めて来ますよ」 王子はこれをきくと、すぐに表に走り出て見ましたが、 そこへ大勢の兵隊が攻めかけて来ましたが、梯子段が落ちているので登ることが出来ません。しかたなしに八方から鉄の塔を取り巻いて、ヒューヒューと矢を射かけましたが、あまり塔が高いのでみんな途中まで来て落ちてしまいました。 王子はそれを見ながら、あまりの恐ろしさにワナワナふるえている姫にこう云いました。 「この兵隊どもはみんな、この国の風下の町々から来た兵隊です。さっきから私たちがお話した声が風下の町や村へすっかりきこえたそうで、この塔の上に魔物がいるというので、父の王に早く退治るように云って来たのです。父の王も母の妃も、そのお話をしたものがあなたと私で、魔物でも何でもないことはよく知っていたのですが、昔からこの国ではオシャベリをしたものは殺すことになっているのですから、殺さないわけに行きません。すぐにお城の中でも兵隊を繰出すように云いつけましたので、母の妃は心配して、早く逃げるように知らせに来たのです。けれども悲しいことに口を利くことが出来ないので、しかたなしに中に這入ろうとしたために蜘蛛の巣に引っかかってあんな目に合ったのです」 「まあ、ほんとに御親切なお母様ですこと」 とオシャベリ姫は涙を流しました。 「けれどももう遅う御座いました。この塔はもう八方から兵隊に取巻かれて逃げることは出来ません。只逃げる道が一つあるきりです」 「えっ、まだ逃げる道があるのですか」 「ありますとも。あなたはさっき崖から飛び降りる時に持っておられた 「あっ。持っています、持っています」 「それを持って飛げるのです」 と云いながら、王子は鉄の塔の絶頂の窓のところからお城の方を向いてこう叫びました。 「お父様、お母様、私がわるう御座いました。よけいなことをオシャベリして大層御心配をかけました。私はこれから姫と一所によその国へ行きます。けれどもこれから決してオシャベリはしません。本当に見たりきいたりしたことでも、よけいなことはお話しをしないようにいたしますから、どうぞ御安心下さいますように。さようなら、御機嫌よう」 こう云ううちに王子は、塔の床の上に手を突いて、涙を流しながらお オシャベリ姫もだまって涙をこぼしながら、手を突いてお暇乞いをしました。 そうして二人は 二人の そうすると又大変です。 二人は抱き合ったまま流星のように早く、 「アレッ。助けて」 と姫は思わず大きな声で叫びましたが、その自分の声に驚いて眼をさましますと、どうでしょう。今までのはスッカリ夢で、姫はやっぱり自分のお城の石の牢屋の中に寝ているのでした。 姫はどちらが夢だかわからなくなってしまいました。 あんまりの不思議さに、立ち上って石の牢屋の四方を撫でまわしてみましたが、四方はつめたい石で穴も何もありません。上の方へ手をやってみますと、天井もすぐ手のとどくところにありましたが、そこにも抜け出られるようなところが一つもありません。 あんまりの奇妙さに、姫はボンヤリして、石の床の上に坐わっていました。 すると間もなく向うにあかりがさして、お父様の王様と二人の兵隊が見えまして、牢屋の入り口を外から開かれました。 お父様は思いがけなくニコニコしながら、こう云われました。 「これ、オシャベリ姫。お前の夢は本当になったぞ。今までお前があんまりオシャベリなために誰も婿に来る人が無かったのに、きょう不意に隣の国の第三番目のムクチ王子様が、お前の婿になりたいと云ってお出でになった。今からお引き合わせをするのじゃから早く来い」 と云ううちに、姫を牢屋から引き出して、お城へ帰られるとすぐに、二人のお付の女中に姫を立派にお化粧させるように申しつけられました。 二人の女中は姫の無事な姿を見ると、嬉し涙をこぼしながらお化粧のお手伝いをしました。そうして両方から姫の手を引きながら御両親の王様とお妃様の前に連れて行きました。 姫は狐に 「アレッ。あなたはあの王子様」 と叫びました。ムクチ王子の姿はもう ムクチ王子も姫を見るとニッコリと笑われました。そうしてこう云われました。 「ビックリなすったでしょう。私も本当は不思議に思っているのです。私は昨夜不思議な夢を見ました。その夢の中で私はクチナシ国王の一人子と生れましたが、生れた時から口があるためにいろいろ両親に心配をかけましたあげく、オシャベリ姫と一所に鉄の塔から逃げ出しました。その時に姫からきいた話によりますと、姫は蜘蛛と短刀の夢を見たとお父様とお母様に云ったのを、お付の女中が嘘だと云ったために、石の牢屋に入れられたということでした。それから眼がさめて考えてみますと、オシャベリ姫というお名前はあなたの外にありませんから、心配になりまして、すぐに馬に乗ってこのお城へ駈けつけてみますと、私の夢は本当で、あなたは石の牢屋に入れられておいでになることをあなたの御両親からききました。それであなたの夢が嘘でないことを申し上げてお許しを願ったのです」 このお話をきいていた姫は、夢が本当なのか本当が夢なのかわからなくなってしまいました。その時にお父様の王様はこう云われました。 「姫よ。おまえがあんまりオシャベリをするから本当の話でも嘘と思われるのだ。これからお前はオトナシ姫と名を こう云われますと、姫は真赤になって恥かしがりながら、 「私がわるう御座いました。これからは決しておしゃべりいたしません」 とお詫びをしました。 王はそれから二人の女中にこう云われました。 「お前たちは姫から短刀と蜘蛛の話をきいたのだろう」 二人の女中は顔を見あわせて真赤になりましたが、やがてこうお答えしました。 「ハイ。たしかにそのお話をききました」 「それに何だってきかないなぞと嘘をついたのだ」 こう尋ねられますと、二人の女中はなおなお恥かしそうにしながらこう答えました。 「ハイ。蜘蛛と短刀の夢を見ると、きっといいお婿様がお出でになる。けれどもそのことが相手のお婿様のお耳に入るとダメになる、と昔から申し伝えてあります。それで私共は、お姫様によいお婿さまがお出でになるように、わざと嘘だと申しましたのです」 王様もお妃様もムクチ王子もオシャベリ姫のオトナシ姫も、二人の女中の忠義心に感心をしておしまいになりました。 ムクチ王子がオシャベリ姫のオトナシ姫のお婿さんとなって華々しい御婚礼があったのは、それから間もないことでした。 そのときに二人の女中は王様から沢山の御褒美をいただきました。 そうして死ぬまで忠義にムクチ王子とオトナシ姫に仕えました。 底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房 1992(平成4)年5月22日第1刷発行 ※底本の解題によれば、初出時の署名は「かぐつちみどり」です。 入力:柴田卓治 校正:江村秀之 2000年5月17日公開 2006年5月3日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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