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冬の花火(ふゆのはなび)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-24 17:37:27 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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冬の花火―――三幕太宰治 人物。
あさ 伝兵衛の後妻、数枝の継母、四十五歳。 その他 栄一(伝兵衛とあさの子、未帰還) 島田哲郎(睦子の実父、未帰還) いずれも登場せず。 所。 津軽地方の或る部落。 時。 昭和二十一年一月末頃より二月にかけて。 [#改ページ] 第一幕 舞台は、伝兵衛宅の茶の間。多少内福らしき地主の家の調度。奥に二階へ通ずる階段が見える。
幕あくと、伝兵衛と数枝、部屋の 二人、黙っている。柱時計が三時を打つ。気まずい雰囲気。 突然、数枝が低い異様な笑声を発する。 伝兵衛、顔を挙げて数枝を見る。 数枝、何も言わず、笑いをやめて、てれかくしみたいに、ストーヴの傍の木箱から (数枝)(両手の爪を見ながら、ひとりごとのように)負けた、負けたと言うけれども、あたしは、そうじゃないと思うわ。ほろんだのよ。滅亡しちゃったのよ。日本の国の
(伝兵衛)(煙草を吸い)それはまあ、どうでもいいが、お前にいま、亭主、というのか色男というのか、そんなのがあるというのは、事実だな?
(数枝)(不機嫌になり)いいじゃあないの、そんな事は。(舌打ちをする)なんにも言わなけあよかった。
(伝兵衛) お前が言わなくたって、どこからともなくおれの耳にはいって来る。
(数枝) もったいぶらなくたって、わかっているわよ。お母さんでしょう?
(伝兵衛)(軽く
(数枝)(小声で早口に)そうよ、それにきまっているわ。お母さんはまた、どうして勘附いたのかしら。ばかなお母さん。
間。
(伝兵衛) あさから聞いた。しかし、あさは、決して、何も、……。
(数枝)(それを相手にせず、急に態度をかえて)お母さんは、どこへ行ったの?
(伝兵衛)
(数枝) 睦子をおぶって?
(伝兵衛) そうだろう。
(数枝) 重いでしょうにねえ。あの子は、へんに重いのよ。いやにおばあちゃんになついてしまって、いい気になってへばりついてる。
(伝兵衛) お前の小さい時によく似ている。(改まった顔つきになり、強い語調で)あさは、あの子をほしいと言っているのだが。
(数枝)(顔をそむけ)ばかな。
(伝兵衛) いや、まじめに言ってる。まあ、聞け。あさが、ゆうべ、(かすかに苦笑を浮べて)おれにまじめに相談した事だ。栄一の事はもうあきらめている。戦地からのたよりが無くなってから、もう三年
(数枝)(また異様な笑声を発して)本気でおっしゃったの? そんな馬鹿な事を、まあ、お母さんもどうかしてるわ。もうろくしたんじゃない? ばかばかしい。
(伝兵衛) もうろくしたのかも知れない。おれだって、ばかばかしい話だと思った。しかし、あれはまじめにそんな事を考えているようだ。お前がこれから、いまのその、亭主だか色男だかのところへ引上げて行くにしても、睦子がついているんでは、この後、その男との間に面白くない事が起るかも知れない。お前もまだ若いのだから、これから子供はいくらでも出来るだろう。とにかく睦子は、この家に置いて行ってもらいたい、と言うのだが、あれとしては、いろいろ考えた末の名案のつもりなのだろう。お前のためにも、それが一ばんいいと考えているらしい。
(数枝) 余計なお世話だわ。
(伝兵衛) そうだ。余計なお世話にちがいない。しかし、お前のように、ただもう、あさを馬鹿にして、……。
(数枝)(皆まで聞かず)そんな事、そんな事ないわ。ねえ、お父さん。生みの親より育ての親、と言うでしょう? あたしの生みの母は、あたしが今の睦子よりももっと小さい時になくなって、それからずっといまのお母さんに育てられて来たのですもの、あとでひとから、あれはお前の
(伝兵衛)(顔をしかめて)三十ちかくにもなって、まだそんな馬鹿な事ばかり言っている。も少し、まともな話をしないか。
(数枝)(平然と)お父さんは鈍感だから何もわからないのよ。お父さんみたいなひとを、好人物、というんじゃないかしら。まるでもう無神経なのだから。(語調をかえて)でも、お母さんは昔は綺麗だったなあ。あたし、東京で十年ちかく暮して、いろんな女優やら御令嬢やらを見たけれども、うちのお母さんほど綺麗なひとを見た事が無い。あたしは昔、お母さんと二人でお風呂へはいる時、まあどんなに嬉しかったか、どんなに恥かしかったか、いま思っても胸がどきどきするくらい。
(伝兵衛) おれの前でそんなくだらない話は、するな。それで、どうなんだ? 睦子を置いて行く気か?
(数枝)(
(伝兵衛) しかし、男があるんだろう?
(数枝)(顔をしかめ、うつむいて)ほかに聞き方が無いの?
(伝兵衛) どんな聞き方をしたって同じじゃないか。(こみ上げて来る怒りを
(数枝)(顔を挙げ、冷然と父の顔を見守り無言)
(伝兵衛) 小さい時から我儘で仕様がなかったけれども、しかし、こんな馬鹿な奴とは思わなかった。お前のためには、あさも、どれだけ苦労して来たかわからないのだ。お前が
(数枝)(うつむいて、けれども、はっきりと)島田は死んだようです。
(伝兵衛) そうかも知れない。しかし、まだ遺骨が来ない。お
(数枝) お母さんにお聞きになったらいいでしょう。なんでも知っていらっしゃるらしいから。
(伝兵衛)(無意識にこぶしを握り)まだそんな馬鹿な事を言うのか。あさは何も知ってはいない。ただお前が、こっそり誰かと文通しているらしいという事、たまにはお金も送られて来る様子だし、睦子が時々、東京のオジちゃんがどうのこうのと言うし、それは、あさでなくったって勘附くわけだ。
(数枝) でも、お父さんは知らなかったのでしょう?
(伝兵衛)(苦しそうに)夢にもそんな事を思う道理が無いじゃないか。(
(数枝)(静かに)この家に置いていただけないなら、睦子を連れて東京へ帰るつもりでいます。春までこちらに置いていただき、そうしてその間に、鈴木がむこうで家を見つけるという事になっていたのですけど。
(伝兵衛) スズキというのか、その男は。
(数枝)(おとなしく)そうです。
(伝兵衛)(いかめしく)その男と一緒になってから何年になる。
(数枝)(無言)
(伝兵衛) 聞かないほうがよいのか? よし、たいていわかった。(興奮を抑えつつ静かに、しかし、音声が変っている)出て行け。いますぐ出て行け。どこへでもかまわない。出て行ってくれ。睦子を置いて、いますぐその男のところに行ってしまえ!
(数枝)(顔を挙げて)お父さん、あなたは、あたしが東京でどんな苦労をして来たか、知っていますか。
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