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磯馴松(そなれまつ)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-11 9:32:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||
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上 ハハハハお月様が笑つてごさらア、あんまりおれが夢中になつて愚痴をこぼすもんだから。
ここだここだ違げへねえ違げへねえ、いくら酔つても、この家を、覚えてるところがえれえぢやねえか。じやアお月様、御免なさいし、毎度どうも有難うがす。
振向きたるまま、さらでも倒れかけし表戸に、ドサリ身を寄せ掛けたれば、メキメキと音して戸とともに転げ込みし身を、やうやくに起こして、痛き腰を撫でながら、 チヨツ危険ねえや、こんな戸を鎖しとくもんだから、ヲイお千代火を見せてくんな、まるで化物屋敷へ踏ン込んだやうだ。
呼べど答へなきにニタリと笑ひ、 ウウ山の神はもう寝ツちまつたんだな、まづは安心上々吉の首尾だ。また遅いとか早えとかいつて、厳しい御託を蒙らうもんなら、せつかくの興も醒めて、翌朝また飲直しと出掛けなくツちやアなんねえのだ、ヤツコラマカセ
と戸を飛越えて、 南無八幡ぢやアなかつた、山の神大明神、この酔心地醒まさせたまふなかハハハハ
興に乗りて柏手一ツ二ツ叩くを、前刻より寐た振りして聞きゐたる女房、堪へかねてや、かんばりたる声張上げ、 何だよお前今頃に帰つて来て、何を面白さうに独りで
小言ききながら手暴く枕もとのかんてらひきよせて、マツチも四五本気短く折り捨てたる末、やうやくに火を移せしを見れば、垢にこそ染みたれ、この家には惜しきほどの女房なり。 いや有難てえや、早く這入れとは、神武以来の御深切だ。実はかうなんだ、あまり
うつつたわいもなきままに、上り口といふも一間きりの、框へバタリと倒れたるまま、はや正躰なき様子に、女房はいとどぢれ込みて、ヌツと起き出で、その枕を蹴らぬばかり頭の際に突立ちて足踏み鳴らし、 これサお前そんなところへ寐ツちまツて、どうする気なんだえ。しつかりおしよ、今に落ツこちらアな。そして戸はどうしたんだえ、明けツ放しぢやないか。
ムニヤムニヤムニヤ。 真実に仕方がないねえ、まるつきり夢中なんだもの。 ふしやうぶしやうに、庭に下りて、外れし戸をやうやくに建て合はせ、竿竹にてともかくも支へ来り、上りかけにわざと強く夫の足に突当たれば、 アイタアイタ痛てえや、何をするんだ。
気味よしといはねばかり、女房は冷やかに笑ひて、 怪我だわな。こんな処へ足が出てやうとは思はないからね。
少しくきツとなりて、 何かえお前、今まで仕事先に居たのかえ。
うるせえや、知れた事を聞くねえ。 何だとえ、知れた事だツて。エあンまり馬鹿におしでない。どこの世界に、今まで仕事させとく親方があるもんかね。おおかたまた、どこかで飲んでたんだらう。 だから知れ事だと、いふ事よ。 女房は口惜しさうに夫の顔を見て、鋭き眼を涙に曇らせ、 よくまアそんな事がいへたもんだね、あンまりで私やアものもいへやアしない。――ようつもつても御覧、お前の飲んだくれも久しいもんだが、お前は何かえ、この間中私と松とは、どうして過ごしてるとお思ひなのだエ。私が少しずつでも銭儲けする間は、そりやアどうにかかうにかして、
いひかけて傍に寐させし子の、 これ御覧お前、たつた一枚の蒲団までも曲げてしまつた位なのだから、もうどうするものもありやアしないわね。だからお前二人ともまだ朝飯を喰べたきりぢやアないかよ。それに今頃文なしで帰るなんざア、そりやアお前人間に出来る仕事なのかえ。私やアまだしも、これを可愛いとお思ひではないのかえエ、これお前、亀さん、亀さんツたら、お前はこれを見殺しにする気なのかえ。
前刻より妻の小言を添乳に、うとりうとりと眠りゐし夫、ここに至りてブルリと身を顫はせ、 ああ寒いや。
とクルリあなたへ寝返りうち、 チヨツやかましいなアいまさらいつたつてどうなるもんかい。たいていにして寝ろい。己れなんざアいつも一
女房はいとどぢれ込みて、夫の肩へ手をかけ、力を極めてこなた向かせむと 何だとえ、も一度いつて御覧、いくらお前でも、よもや二度とはいはれやアしまい。お前その一食が私を泣かせる
いかにもして夫の睡りを醒まさせむと、いよいよ押さへし手に力を入れて、その肩をゆり動かすにぞ、さすがは男の我を悪しとは知りながら、 うるせへえや。ふざけた真似をしやアがるな。
大喝一声やにはに起き上りて、女房の横腹を丁と蹴り上げ、おのれはそのまま子供に掛けたる古袷の袖引き おツかア、ちやんはもう帰つたね。おらアお米を買つて来やうや。
睡き眼をこすりながら、むくむくと起き出づる、子の可愛さは忘れねど、腹立つ際とて、夫への面あて、わざともぎだうに突遣りて、 おツかアは知らないよ、ちやんにおねだりな。
でもちやんは寐てるぢやないか。 いいから起こしておやりよ、耳のはたで大きな声をするんだよ。 ちやんやちやんやお
幾度か呼べど答へもなき出して、再び母の袖にすがるをさすがにも振切りかねて、我知らず松之介を抱き寄せ、 仕方がないからもう一寐入しなよ、今に夜が明けたら、おツかアがどうにかしてやるよ。いい児だ寐なよ。
と背を撫づれば、いつしかすやすや泣き入る子と、夫の寐顔を見くらべて、深くも思ひに沈める内、多くもあらぬカンテラの油はここに尽き果て、ハタリ火の消えたれば、三人の寐姿は、闇に葬られたれど、夜もすがら苦しげにうめく妻の太息と、さも快げなる夫の鼾は、高う低う屋の ああわたしは
詞の末は半ば消えて、いつしか立止まりたる足の、白く細き爪先にて美しき砂を弄びながら、なほも思ひかねたまひたる様子に、老女はわざと軽くホホと受けて、 また奥様そんな事を思し召しましては、いよいよお身躰のお毒でござりまする。とかくさうお鬱ぎ遊ばすのが、一ツは御病気なのでございますから、こうして御養生に御越あそばしました限りは、何事もお思ひあそばしませぬが宜しうござりまする。何のあなた、小癪な事を、申し上げるやうではござりまするが、命あつての物種と申すではござりませぬか。何が何でいらつしやいませうとも、御身躰が一番お大事でござりまする。必ず必ずきなきな思し召してはなりませぬ。
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