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番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-29 0:03:09 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||
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登場人物 麹町、山王下。正面はたかき石段にて、上には左右に石の
( 娘 お茶一つおあがりなされませ。
長吉 桜も今が丁度盛りだね。
娘 こゝ四五日のところが見頃でござります。それに当年はいつもよりも取分けて見事に咲きました。
長吉 山王の桜といへば、おれたちが生れねえ先からの名物だ。山の手で桜と云やあ先づこゝが一番だらうな。
仁助 それだから俺達もわざ/\下町から登つて来たのだ。それで無けりやああんまり用のねえところだ。
長吉 これ、神様の前で勿体ねえことを云ふな。山王様の罰があたるぞ。
仁助 山王様だつて怖えものか。おれには観音様が附いてゐるのだ。
娘 お背中にぢやあございませんか。(笑ふ。)
仁助 やい、やい、こん畜生。ふざけたことを云やあがるな。
長吉 まあ、静かにしろ。どうせ
娘 ほゝ、とんだ粗相を申しました。
(ふたりは茶をのんでゐる。石段の上より青山播磨、廿五歳、七百石の旗本。あみ笠、羽織、袴。あとより權次、權六の二人、いづれも奴にて附添ひ出づ。)
播磨 桜はよく咲いたな。
權次 まるで作り物のやうでござりまする。
權六 たなばたの赤い
播磨 はて、むづかしいことを云ふ奴ぢや。それより一口に、祭礼の軒飾りのやうぢやと云へ。はゝゝゝゝゝ。
(三人は笑ひながら石段を降りる。)
娘 お休みなされませ。
(三人は上の方の床几にかゝる。長吉と仁助は見てさゝやき合ふ。娘は茶を汲んで三人に出す。)
長吉 おい、ねえさん。こつちへももう一杯
娘 はい、はい。(茶を汲んで来る。)
長吉 (飲まうとしてわざと顔をしかめる。)こりやあ熱くつて飲めねえや。
(長吉はわざとその茶を播磨の前にぶちまける。)
權次 やあ、こいつ無礼な奴。なんで我等のまへに茶をぶちまけた。
權六 かう見たところが粗相でない。おのれ等喧嘩を売らうとするのか。
長吉 売らうが売るめえがこつちの勝手だ。買ひたくなけりや買はねえまでだ。
仁助 一文
播磨 然らば身どもが相手と申すか。(笠を取る。)
(この以前より放駒の四郎兵衞、町奴のこしらへにて子分二人をつれ、石段を降り来り、中途に立ちて
四郎兵衞
萬藏 さうだ、さうだ。この正月に
彌作
(長吉と仁助は床几をゆずり、四郎兵衞はまん中に腰をかける。)
播磨 むゝ、白柄組の一人と知つて喧嘩を売るからは、さてはおのれは
四郎兵衞 お察しの通り、幡隨院長兵衞の身内でも、ちつとは知られた放駒の四郎兵衞。
長吉 並木の長吉。
仁助 橋場の仁助。
萬藏 聖天の萬藏。
彌作 田町の彌作だ。
權次 やい、やい。こいつら
權六 幸ひ今日は
四郎兵衞 そんな
播磨 われ/\が
四郎兵衞 いゝ覚悟だ。お逃げなさるな。
播磨 なにを馬鹿な。
子分四人 えゝ、休めちまへ、休めちまへ。
(播磨も權次權六も身がまへする。四郎兵衞、その他四人も
長吉 おい、おい。お前達も目さきが利かねえ。
仁助 こゝへ、そんなものを
二人 退いてくれ、退いてくれ。
(權次權六は若党の顔を見ておどろく。)
權次 おゝ、こなたは小石川の。
權六 澁川様の御乗物か。
(乗物の戸をあけて澁川の後室眞弓、五十余歳、
播磨 おゝ、小石川の伯母上、どうしてこゝへ……。
眞弓 赤坂の
權次權六[#「權次」と「權六」は横並びになっている] あい、あい。(頭を押へてうづくまる。)
四郎兵衞 見れば御大家の後室様、喧嘩のまん中へお越しなされて、このお
眞弓 差出た申分かは知りませぬが、この喧嘩はわたしに預けてはくださりませぬか。播磨はあとで
四郎兵衞 さあ。(思案する。)
長吉 でも、このまゝで手を引いては。
仁助 親分に云訳があるめえぜ。
萬藏 今更あとへ引かれるものか。
彌作 かうなるからは命の取遣りだ。
四人 かまはずに
眞弓 不承知とあればわたしがお相手。
四郎兵衞 え。
眞弓 それとも素直に引いてくださるか。
四郎兵衞 こりやあ困りましたね。いくら御武家にしたところが、女を相手に町奴がまさかに喧嘩もなりますまい。喧嘩は元より出たとこ勝負。けふに限つたことでもござりませぬ。おまへ様のおあつかひに免じて、こゝは素直に帰りませう。長吉も仁助も虫をこらへろ。
眞弓 よう聞き分けて下された。そんならこゝはおとなしう。
四郎兵衞 どうも失礼をいたしました。もし、白柄組のお侍。いづれ又どこかで逢ひませうぜ。(長吉仁助等に。)今聞く通りだ。さあ、みんな早く来い、来い。
長吉仁助[#「長吉」と「仁助」は横並びになっている] あい、あい。
(四郎兵衞は先にたちて、長吉と仁助と子分二人は去る。)
眞弓 これ、播磨。こゝは往来ぢや。詳しいことは屋敷へ来た折に云ひませうが、武士たるものが町奴とかの真似をして、白柄組の
播磨 はあ。
眞弓 きかねば伯母は勘当ぢや。わかりましたか。
播磨 はあ。
眞弓 それ。
(眞弓は眼で知らすれば、陸尺は乗物を
眞弓 これ、播磨。そちが悪あがきをすると云ふも、一つにはいつまでも
播磨 さあ。(迷惑さうな顔。)喧嘩のことは兎もかくも、その縁談の儀は……。
眞弓
播磨 はあ。
(眞弓は乗物の戸をしめる。若党等は播磨に一礼して向うへ乗物を
權次 殿様。悪いところへ伯母御様がお見えになりまして。
權六 わたくし共までが飛んだお灸を据ゑられました。
播磨 (笑ふ。)伯母様は苦手ぢや、所詮あたまは上らぬわ。今伯母様に叱られた、その白柄組の水野どのは、仲間のものを誘ひ合せて、今夜わが屋敷へまゐらるゝ筈ぢや。酔うたら又面白い話があらう。
(風の音して桜の花ちりかゝる。)
播磨 おゝ、散る花にも風情があるなう。どれ、そろ/\帰らうか。
權次權六[#「權次」と「權六」は横並びになっている] はあ。
(權次は茶代を置く。娘は礼をいふ。播磨は行きかゝる。)
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