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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)03

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:40:38 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   宋家の母

 黄初こうしょ年中のことである。
 清河せいか宋士宗そうしそうという人の母が、夏の日に浴室へはいって、家内の者を遠ざけたまま久しく出て来ないので、人びとも怪しんでそっとのぞいてみると、浴室に母の影は見えないで、水風呂のなかに一頭の大きいすっぽんが浮かんでいるだけであった。たちまち大騒ぎとなって、大勢が駈け集まると、見おぼえのある母のかんざしがそのすっぽんの頭の上に乗っているのである。
「お母さんがすっぽんに化けた」
 みな泣いて騒いだが、どうすることも出来ない。ただ、そのまわりを取りまいて泣き叫んでいると、すっぽんはしきりに外へ出たがるらしい様子である。さりとて滅多めったに出してもやられないので、代るがわるに警固しているあいだに、あるとき番人のすきをみて、すっぽんは表へ這い出した。又もや大騒ぎになって追いかけたが、すっぽんは非常に足がはやいので遂に捉えることが出来ず、近所の川へ逃げ込ませてしまった。
 それから幾日の後、かのすっぽんは再び姿をあらわして、宋の家のまわりを這い歩いていたが、又もや去って水に隠れた。
 近所の人は宋にむかって母の喪服を着けろと勧めたが、たとい形を変じても母はまだ生きているのであると言って、彼は喪服を着けなかった。

   青牛

 しんの時、武都ぶとの故道に怒特どとくやしろというのがあって、その祠のほとりに大きいあずさの樹が立っていた。
 秦の文公ぶんこうの、二十七年、人をつかわしてその樹を伐らせると、たちまちに大風雨が襲い来たって、その切り口を癒合ゆごうさせてしまうので、幾日を経ても伐り倒すことが出来ない。文公は更に人数を増して、四十人の卒におのらせたが、なおその目的を達することが出来ないので、卒もみな疲れ果てた。
 その一人は足を傷つけて宿舎へも帰られず、かの樹の下に転がったままで一夜を明かすと、夜半に及んで何者か尋ねて来たらしく、樹にむかって話しかけた。
「戦いはなかなか骨が折れるだろう」
「なに、骨が折れるというほどのことでもない」と、樹のなかで答えた。
 一人がまた言った。
「しかし文公がいつまでも強情ごうじょうにやっていたら、仕舞いにはどうする」
「どうするものか。こんくらべだ」
「そう言っても、もし相手の方で三百人の人間を散らし髪にして、あかい着物をきせて、あかい糸でこの樹を巻かせて、斧を入れた切り口へ灰をかけさせたら、お前はどうする」
 樹の中では黙ってしまった。
 樹の下に寝ていた男はその問答を聞きすまして、明くる日それを申し立てたので、文公は試みにその通りにやってみることにした。三百人の士卒が赭い着物をきて、散らし髪になって、朱い糸を樹の幹にまき付けて、斧を入れるごとに其の切り口に灰をそそぐと、果たして大樹は半分ほども撃ち切られた。そのとき一頭の青い牛が樹の中から走り出て、近所の※(「さんずい+豊」、第3水準1-87-20)ほうすいという河へ跳り込んだ。
 これで目的の通りに、梓の大樹を伐り倒すことが出来たが、青牛はその後も※(「さんずい+豊」、第3水準1-87-20)水から姿をあらわすので、騎士をつかわして撃たせると、牛はなかなか勢いたけくして勝つことが出来ない。その闘いのあいだに、一人の騎士は馬から落ちて散らし髪になった。彼はそのままで再びくらにまたがると、牛はその散らし髪におそれて水中に隠れた。
 その以来、秦では旄頭騎ぼうとうきというものを置くことになった。

   青い女

 呉郡の無錫むしゃくという地には大きいみずうみがあって、それをめぐる長いどてがある。
 坡を監督する役人は丁初ていしょといって、大雨のあるごとに破損の個所の有無を調べるために、披のまわりを一巡するのを例としていた。時は春の盛りで、雨のふる夕暮れに、彼はいつものように披を見まわっていると、ひとりの女が上下ともに青い物を着けて、青いかさをいただいて、あとから追って来た。
「もし、もし、待ってください」
 呼ばれて、丁初はいったん立ちどまったが、また考えると、今頃このさびしい所を女ひとりでうろ付いている筈がない。おそらく妖怪であろうと思ったので、そのまま足早にあるき出すと、女もいよいよ足早に追って来た。丁はますます気味が悪くなって、一生懸命に駈け出すと、女もつづいて駈け出したが、丁の逃げ足が早いので、しょせん追い付かないとあきらめたらしく、女は俄かに身をひるがえして水のなかへ飛び込んだ。
 かれは大きな蒼い河獺かわうそで、その着物や繖と見えたのは青いはすの葉であった。

   祭蛇記

 東越とうえつ※(「門<虫」、第3水準1-93-49)みんちゅう庸嶺ようれいという山があって、高さ数十里といわれている。その西北のかいに長さ七、八丈、太さ十囲とかかえもあるという大蛇だいじゃんでいて、土地の者を恐れさせていた。
 住民ばかりか、役人たちもその蛇のたたりによって死ぬ者が多いので、牛や羊をそなえて祭ることにしたが、やはりその祟りはやまない。大蛇は人の夢にあらわれ、または巫女みこなどの口を仮りて、十二、三歳の少女を生贄いけにえにささげろと言った。これには役人たちも困ったが、なにぶんにもその祟りを鎮める法がないので、よんどころなく罪人の娘を養い、あるいは金をけて志願者を買うことにして、毎年八月の朝、ひとりの少女を蛇の穴へ供えると、蛇は生きながらにかれらを呑んでしまった。
 こうして、九年のあいだに九人の生贄をささげて来たが、十年目には適当の少女を見つけ出すのに苦しんでいると、将楽しょうらく県の李誕りたんという者の家には男の子が一人もなくて、女の子ばかりが六人ともにつつがなく成長し、末子ばっしの名をといった。寄は募りに応じて、ことしの生贄に立とうと言い出したが、父母は承知しなかった。
「しかしここのうちには男の子が一人もありません。厄介者の女ばかりです」と、寄は言った。「わたし達は親の厄介になっているばかりで何の役にも立ちませんから、いっそ自分のからだを生贄にして、そのお金であなた方を少しでも楽にさせて上げるのが、せめてもの孝行というものです」
 それでも親たちはまだ承知しなかったが、しいて止めればひそかにぬけ出して行きそうな気色けしきであるので、親たちも遂に泣く泣くそれを許すことになった。そこで、寄は一口ひとふりのよい剣と一匹の蛇喰い犬とを用意して、いよいよ生贄にささげられた。
 大蛇の穴の前には古い廟があるので、寄は剣をふところにして廟のなかに坐っていた。蛇を喰う犬はそのそばに控えていた。彼女はあらかじめ数石すうこくの米をかしいで、それに蜜をかけて穴の口に供えて置くと、蛇はその匂いをかぎ付けて大きいかしらを出した。その眼は二尺の鏡の如くであった。蛇はまずその米を喰いはじめたのを見すまして、寄はかの犬をしかけると、犬はまっさきに飛びかかって蛇を噛んだ。彼女もそのあとから剣をふるって蛇を斬った。
 さすがの大蛇も犬に噛まれ、剣に傷つけられて、数カ所の痛手にまり得ず、穴から這い出して蜿打のたうちまわって死んだ。穴へはいってあらためると、奥には九人の少女の髑髏どくろが転がっていた。
「お前さん達は弱いから、おめおめと蛇の生贄になってしまったのだ。可哀そうに……」と、彼女は言った。
 えつの王はそれを聞いて、寄をへいして夫人とした。その父は将楽県の県令に挙げられ、母や姉たちにも褒美を賜わった。その以来、この地方に妖蛇のうれいは絶えて、少女が蛇退治の顛末てんまつを伝えた歌謡だけが今も残っている。

   鹿の足

 ちん郡の謝鯤しゃこんは病いによって官をめて、予章よしょうに引き籠っていたが、あるとき旅行して空き家に一泊した。この家には妖怪があって、しばしば人を殺すと伝えられていたが、彼は平気で眠っていると、夜の四更しこう(午前一時―三時)とおぼしき頃に、黄衣の人が現われて外から呼んだ。
幼輿ようよ、戸をあけろ」
 幼輿というのは彼のあざなである。こいつ化け物だと思ったが、彼は恐れずに答えた。
「戸をあけるのは面倒だ。用があるなら窓から手を出せ」
 言うかと思うと、外の人は窓から長い腕を突っ込んだので、彼は直ぐにその腕を引っ掴んで、力任せにぐいぐい引き摺り込もうとした。外では引き込まれまいとする。引きつ引かれつするうちに、その腕は脱けて彼の手に残った。外の人はそのまま立ち去ったらしい。夜が明けてみると、その腕は大きい鹿の前足であった。
 窓の外には血が流れている。その血のあとをたどってゆくと、果たして一頭の大きい鹿が傷ついてたおれていた。それを殺して以来、この家にふたたび妖怪の噂を聞かなくなった。

   羽衣

 予章新喩しんゆ県のある男が田畑へ出ると、田のなかに六、七人の女を見た。どの女もみな鳥のような羽衣はごろもを着ているのである。不思議に思ってそっと這いよると、あたかもその一人が羽衣をいたので、彼は急にそれを奪い取った。つづいて他の女どもの衣をも奪い取ろうとすると、かれらはみな鳥に化して飛び去った。
 羽衣を奪われた一人だけは逃げ去ることが出来なかったので、男は連れ帰って自分の妻にした。そうして、夫婦のあいだに三人の娘をもうけた。
 娘たちがだんだん生長の後、母はかれらにそっと訊いた。
「わたしの羽衣はどこに隠してあるか、おまえ達は知らないかえ」
「知りません」
「それではおとっさんにいておくれよ」
 母に頼まれて、娘たちは何げなく父にたずねると、母の入れ知恵とは知らないで、父は正直に打ちあけた。
「実は積み稲の下に隠してある」
 それが娘の口かららされたので、母は羽衣のありかを知った。
 彼女はそれを身につけて飛び去ったが、再び娘たちを迎いに来て、三人の娘も共に飛び去ってしまった。



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