大団円
門田虎三郎の遺書だった。 白骨になって檻の中に倒れているのは、門田虎三郎だったのである。 それは何者であろうか。 記憶のよい読者は、この門田虎三郎が、ヤリウスの家扶であったことをおぼえていられることと思う。 「おそろしいことだねえ」 五人の少年は、目と目を見合わせた。 「しかし、これで時計屋敷の秘密は、ついにとけたわけだ」 時計屋敷の秘密はとけた。 そうであろうか。いやいや、悪人門田家扶の遺書によってとけたのは、この屋敷の秘密の一部にすぎない。門田が知らない秘密が、まだこの屋敷に関してまだまだ残っているではないか。 水鉛鉛鉱の埋蔵場所はどこだ。 ヤリウスの最期はどうであったか。 それと八木君が地下道の奥であった死神の仮面をかぶった怪囚人との間には、なにか関係があるのか。 その二人は同一人ではあり得ない。ヤリウスが今もし生きていたら百歳をはるかに越すわけで、そんなことはあり得ないと思う。 北岸さんたちは、今どこにどうしているのだろうか。あの大時計が四時をうてば大爆発するというが本当だろうか。もし本当ならそれは誰が仕掛けたのか、ヤリウスが仕掛けたものなら、それはなぜであったか。 こうして拾ってみると、この時計屋敷には、まだまだ大きな秘密が残っている。それが全部とける日は、いつのことであろうか。 その一つは、間もなくとけた。 というのは、少年の中で耳のはやい二宮君が、この部屋のどこかで、とんとんとんという音が、かすかではあるがするのを聞きつけたのがはじまりだった。 それと知って五少年は、部屋中を探しまわったあげく、天井の隅のところが震動して、かすかに壁土が落ちてくるのを発見した。 「あッ、天井の上に、誰かいるんだ」 方々探しまわった末、天井の上にあたる部屋から救いだされたのは、永らく行方をたずねられていた北岸をはじめ七人の村人だった。その人たちは、あやうく餓死の一歩手前で救われたのだった。 腹ぺこのかすれ切った声で、彼らが語ったところによると、七人の村人はこの屋敷の中へはりいこんで、その奇々怪々なる部屋部屋を見て歩いているうちに、とつぜん床が落ち、あッという間に一同はこの部屋へ落ちこんだのだ。出るには壁が高くて出られず、そこで一同は今までそこに閉じこめられていたのだという。 北岸たちは、この屋敷を一刻も早く出たがった。日の光を見、いい空気をすいたい。それから、うまい水ものみたい、と少年たちに訴えた。 そこで少年たちは、北岸たちを両わきから抱えて、時計屋敷の外へつれだした。それがために、少年たちはいくども往復しなくてはならなかった。 その仕事の最後は、北岸を、八木君と四本君が抱きかかえて出ることだった。その三人が、屋敷の窓から外へ出たとき、とつぜん地震が襲来した。 かなり強い地震であったが、前に起った地震の余震であるにちがいなかった。 その話をしながら、三人が庭の方へすこし歩いたとき、八木君が、 「ちょっと、しずかに」 と、おどろいたような声を出し、それから、北岸さんの身体から手を放すと、その両手を耳のうしろへひろげ、くるっと頭をあげて大時計を見上げた。 かち、かち、かち、かち……。 かすかながら、聞えてくる音があった。 「たいへんだ。大時計が動いている。早くにげなくては……」 大時計が動き出したのは、今の余震で、振子をしばっていた古い紐がぶっつりと切れ、それで振子は大きくゆれだしたのだ。 「たいへんだ。時計屋敷が爆発するぞ、溝の中へかくれろ」 大時計が動きだせば、わずか一分ばかりの後に大爆発が起ることが予想された。たった一分間だ。みんなのあわてたのも道理であった。 まちがいなく一分後に、時計屋敷は大爆発し、天にふきあがり、崩壊し去った。砂塵のようになった破片がおさまると、さっきまで見えていた大時計台が、どこへけし飛んだか姿を消していて、屋敷跡へ目を向けた者の背筋を冷くした。 五少年と七人の村人は、あやういところを助かった。 このへんでこの物語の筆をおかなくてはならないが、まだ二つばかりお話しすることが残っている。 その一つは、水鉛鉛鉱の埋蔵場所というのは時計屋敷の真下だったことである。爆発の跡を探しているうちに、大地が掘れて、その鉱脈のあるのが発見された。 もう一つは、八木君を救ってこの屋敷の秘密を教えた怪囚人のことであるが、八木君は、あの硝子の床のある地下道がそっくり残っているのを見つけて、そこへはいっていった。しかしふしぎなことに、見おぼえのある鉄の鎖と死神の仮面は見つかったが、かんじんの怪囚人の姿はなかった。 怪囚人は、どうなったか。その謎だけは、今もなお解けない。 「あれはヤリウスさんの幽霊だったかもしれないよ」 と、八木君は結論をこしらえた。 「いや、もう溺死しそうになってから、君は恐怖のために、しばらく気がへんになっていたんじゃないか、だから会いもしない怪囚人に会ったように思っているのじゃないか」 四本君がそういった。 「どうも分らないね」 「とにかくふしぎなことだ」 「世の中のことは、なんでもみんな答が出るというわけにはいかないよ」 「水鉛鉛鉱の鉱脈が見つかったのは、思いがけない大手柄だったね」 そこで、少年たちは晴れやかにほほえんだ。
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