宣戦布告の無電 雷撃隊の任務重し!
発令所には、さっきまで司令塔にいた艦長と先任将校とが、いつの間にか儼然たる姿を現しています。そして艦長の清川大尉の手には、一枚の紙片が、しっかと握られています。 「全員集合しましたッ」 当直将校が報告をいたしました。 「気を付けッ」 一斉に、サッと、全員は直立不動の姿勢をとりました。何とはなしに、激しい緊張が全身に匍いあがってきて、身体が細かく震えるようです。 艦長は、一歩前へ進みました。 「唯今、本国から重大なる報告があったからして、一同に伝える」艦長は無線電信を記した紙片をうやうやしく押戴いて、「大元帥陛下には、只今、×国に対して宣戦の詔勅を下し給うた」 ×国へ対して宣戦布告――一同は電気にでも触れたように、ハッとしました。乗組員たちは、かねてこういうことがあろうかと覚悟をしていたものの、いよいよ詔勅が下ったとなると、俄かに血が煮えくりかえるようです。思わずグッと握りしめた拳に、ねっとり汗が滲みでました。 「皇国のために万歳を唱える」艦長は静にいいました。しかしその両眼は忠勇の光に輝いていました。 「大日本帝国、万歳!」 「ばんざーい」 「ばんざーい」 「ばんざーい」 艦内は破れんばかりに反響しました。 「次に――」艦長は語を改めました。「南太平洋に出動中の連合艦隊司令長官閣下から、本戦隊の任務について命令があったが、それを報告するに先立て、本艦の現在の位置について述べる」 乗組員は、いまや待ちに待った本艦の位置が判るんだと知って、思わず唾をゴクリとのみこんだのです。 「――本艦は現在、米国領ハワイの東方約二千キロの位置にある」 乗組員は、思わず口の中で、「あッ」と小さい叫び声をあげました。 ああ、×領ハワイ。 ×国艦隊が太平洋で無二の足場とたのむ島。大軍港のあるハワイ。 そのハワイを更に東へ二千キロも、×国本土に近づいたところに、わが潜水戦隊は入りこんでいるのでした。 まるで×の巣の中です。ちょいと手を伸ばしただけで、すぐめぼしい相手にぶつかれるのです。またそれだけ自分の身の上に大危険があるわけですが、そんなことを気にかけるような乗組員は、一人もありませんでした。それにしても、わが潜水戦隊の、この遥かなる遠征の使命は、いかなることでありましょうか。 「最後に、本戦隊に下された命令を読みあげる」艦長はぐるりと一同を見まわしました。 「連合艦隊司令長官命令。×領ハワイ島パール軍港ニ集リタル×ノ大西洋及ビ太平洋合同艦隊ハ、吾ガ帝国領土占領ノ目的ヲ以テ、今ヤ西太平洋ニ出航セントセルモ、ハワイ根拠地ノ防備ニ一大欠陥アルヲ発見セリ。ヨリテ直ニ二個師団ノ陸兵及ビ多数武器ヲ大商船隊ニ乗セ、パナマ運河ヲ通過シテハワイヘ向ケ出発セシメタリ。モシコノ大商船隊ヲシテ、ハワイニ到着セシメンカ、ハワイ島ハ一躍、難攻不落ノ要塞トナリ、×軍ノ東洋進出ヲ容易ナラシメ、進ミテ、皇国ノ一大危機ヲ生ズルニ至ルベシ。故ニ第十三潜水戦隊ハハワイト、パナマ運河トヲ結ブ海面附近ニ出動シ、途中ニオイテコレヲ撃滅スベシ。終」 非常に重大なる任務でした。間もなく日×両軍の主力艦隊が決戦しようという時、この大商船隊がハワイにつけば、×艦隊は岩をふまえた虎のように強くなるでしょう。又その反対に、この大商船隊を撃滅出来れば、わが連合艦隊の作戦は大分楽になります。随って、この大商船隊を葬るか、それともその商船隊を護る×の艦隊にこっちが撃退されるかによって、両軍決戦の勝敗がどっちかへハッキリきまることになるのです。 清川艦長はこのことを一通り部下に説明したのち、一段声を励ましていいました。 「大元帥陛下の御命令により、只今からわが第十三潜水戦隊は、この名誉ある任務を果そうとするのだ。――総員、直に配置につけッ」 一同はもう一度、万歳を唱えたいのを我慢して、サッと挙手の敬礼をして忠勇を誓いました。誰の顔にも、見る見るうちに、盆と正月とが一緒に来たような喜色がハッキリと浮かび上りました。操舵手は舵機のところへ、魚雷射手は発射管のところへ、飛んでゆきました。
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