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水郷めぐり(すいごうめぐり)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-26 8:22:02 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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約束した樣なせぬ樣な六月廿五日に、細野君が誘ひにやつて來た。同君は千葉縣の人、いつか一緒に 三河島を過ぎ、荒川を渡る頃から漸く落ち着いた、東京を離れて行く氣持になつた。低く浮んだ雲の蔭に強い日光を孕んでをる 六月廿七日、近頃になく頭輕く眼が覺めた。朝飯を急いで直に 參拜を濟ませて社殿の背後の茶店に休んでゐると鷺の聲が頻りに落ちて來る。枝から枝に渡るらしい羽音や枝葉の音も聞える。茶店の窓からは殆ど眞下に利根の大きな流れが見えた。その川岸の小さな宿場を津の宮といひ、香取明神の一の鳥居はその水邊に立つてゐる相だ。實は今朝佐原で舟を雇つて此津の宮まで廻らせて置き、我等は香取から其所へ出て與田浦浪逆浦を漕いで鹿島まで渡る積りで舟を探したのだが、生憎一艘もゐなかつたのであつた。今更殘念に思ひながら佐原に歸り、町を見物して諏訪神社に詣でた。其處も同じく丘の上になつてゐて麓に伊能忠敬の新しい銅像があつた。 川岸屋に歸ると辨當の用意が出來てゐて、時間も丁度よかつた。宿のツイ前から小舟に乘つて汽船へ移る。宿の女中が悠々として棹さすのである。午前十一時、小さな汽船は折柄降り出した細かな雨の中を走り出した。大きな利根の兩岸には眞青な堤が相竝んで遠く連り、その水に接する所には兩側とも 午後二時過ぎに豐津着、其處に鹿島明神の一の鳥居が立つて居る。神社まで一里、雨の中を俥で參る。鹿島の社は何處か奈良の春日に似て居る。背景をなす森林の深いためであらう。かなりの老木が隨分の廣さで茂つて居る。其の森蔭の御手洗の池は誠に清らかであつた。香取にもあつたが此處にもかなめ石と云ふのがある。幾ら掘つてもこの石の根が盡きないと云ひ囃されて居るのだ相な。岩石に乏しい沼澤地方の人の心を語つて居るものであらう。此所の社も丘の上にある。この平かな國にあつて大きな河や沼やを距てた丘と丘とに對ひ合つて斯うした神社の祀られてあると云ふ事が何となく私に遙かな寂しい思ひをそゝる。お互ひに水邊に立てられた一の鳥居の向ひ合つて居るのも何か故のある事であらう。 豐津に歸つた頃雨も滋く風も加つた。鳥居の下から舟を雇つて潮來へ向ふ、 川から堀らしい所へ入つて愈々眞菰の茂みの深くなつた頃、或る石垣の蔭に舟は停まつた。茂作爺の呼ぶ聲につれて若い女が傘を持つて迎へに來た。其所はM――屋といふ引手茶屋であつた。二階からはそれこそ眼の屆く限り青みを帶びた水と草との連りで、その上をほのかに暮近い雨が閉してゐる。薄い靄の漂つてをる遠方に一つの丘が見ゆる。某所が今朝詣でゝ來た香取の宮である相な。 何とも云へぬ靜かな心地になつて酒をふくむ。輕やかに飛び交してをる燕にまじつてをりをり低く黒い鳥が飛ぶ。行々子であるらしい。庭ききの堀をば丁度田植過の田に用ゐるらしい水車を積んだ小舟が幾つも通る。我等の部屋の三味の音に暫く棹を留めて行くのもある。どつさりと何か青草を積込んで行くのもある。 それらも見えず、全く闇になつた頃名物のあやめ踊りが始まつた。十人ばかりの女が眞赤な揃ひの着物を着て踊るのであるが、これはまたその名にそぐはぬ勇敢無双の踊りであつた。一緒になつて踊り狂うた茂作爺は、それでも獨り舟に寐に行つた。 翌朝、雨いよ/\降る。 霞が浦即興 わが宿の灯影さしたる沼尻の葭の繁みに風さわぐ見ゆ 沼とざす眞闇ゆ蟲のまひ寄りて集ふ宿屋の灯に遠く居る をみなたち群れて物洗ふ水際に鹿島の宮の鳥居古りたり 鹿島香取宮の鳥居は湖越しの水にひたりて相向ひたり 苫蔭にひそみつゝ見る雨の日の 雨けぶる浦をはるけみひとつゆくこれの小舟に寄る浪聞ゆ 底本:「現代日本紀行文学全集 東日本編」ほるぷ出版 1976(昭和51)年8月1日初版発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:林 幸雄 校正:松永正敏 2004年5月1日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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