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台風(たいふう)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-22 10:25:33 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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八月十三日。 昨夜は夜通し蒸暑くて寝苦しかつた。夕刊の新聞に台風が東京をも襲ふ筈だと書いてあつたが、夜の十時頃から果してそれらしい風が吹き出した。併し雨はまだ小降であつた。蚊遣線香が無くなつたので十一時で筆を止めて蚊帳の中に入つたが、寝苦しいままに何時しかうとうととすると、アウギュストが啼いたので目が覚めた、もう夜明である。白んだ戸の隙間から吹き込む風で蚊帳が 台風と云ふ新語が面白い。立秋の日も数日前に過ぎたのであるから、従来の慣用語で云へば此 清少納言は野分の記事の中に萩や女郎花の吹き倒されたのを傷ましがつて居るが、ダアリヤやコスモスの吹き倒される哀れさは知らなかつた。おなじ草花でも彼と是とは感じが異ふ。今の人は歴史的な萩や女郎花の趣も知つて居る上に、舶載の花の新味も知つて居るのであるから、今の台風は昔の野分に比べて趣味の点から云つても内容が複雑になつて居る。新しい詩人は台風を歌つて屹度歌や俳諧にある野分以上の面白い新篇を出すであらう。文明と云ふものは前代の文明の中から今日にも役に立つ純粋な美点だけを伝えて、其上に今日の生活が生んだ新しい美点を加へようとするので、自然、前代の用語では現代の文明が盛り切れなくなつて、是非とも新しい用語や新しい形式が必要になる。それを覚らない人は 自分はこんな事を考へながら顔を洗つて、朝の食事を子供等と一所に済ませた。例の様に麺包と珈琲だけで朝の食事を別に座敷で済ませた良人は、戸が開けられないので電燈を点けた儘十種に近い新聞を読んで居る。其側へ行つて自分も二三の新聞を読んだ。欧州には今戦争と云ふ怖しい台風が吹いて居る。其れが東洋にも波及しようとして居る。自分は平生戦争を忌はしく思つて居る一人であるけれど、今度の戦争は之が最後の戦争となる程敵も味方も手疵を負つて、世界を震慄させ、目を覚させて、野蛮な武力の競争を永遠に廃絶する土台となる為に、一時出来るだけ大戦争の開かれることを望んで居る。今日の新聞にある電報では独逸の大軍が仏蘭西と白耳義の国境へ集中され、カイゼル自身が国境戦の声援に出馬したやうである。リエイジュの一敗位に懲りる様な独逸ではないから、英仏の連合軍を相手に激しい大会戦が行はれるであらう。新聞の予測のやうに仏軍が必ず強いとも限らないから、互に一勝一敗は免れまい、一度に運命の決することは無いであらう。 良人も自分も仏蘭西贔負であるから、仏蘭西が戦争に対して上下とも整然たる秩序を保つて居ると云ふ電報を読んだ時は嬉しかつた。それから 昨日までは 底本:「日本の名随筆19 秋」作品社 1984(昭和59)年5月25日第1刷発行 1991(平成3)年9月1日第12刷発行 入力:渡邉つよし 校正:浦田伴俊 2000年6月22日作成 2005年1月26日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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