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三つの眼鏡(みっつのめがね)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-10 10:20:40 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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武雄さんはお母さんが お祖母さんがお座しきに帰って来られますと、眼鏡が無いのでまごまごしておられます。お父さんは支度して出かけようとなさいますと、大切な金ぶちが無くなっています。お姉さんが買いものから帰って来られますと、これも眼鏡がありません。 「ああ、きっと武雄さんよ。あたし困っちまうわ。眼鏡がなくちゃ、晩のお支度が出来やしない」 「弱ったな。俺も眼鏡が無くちゃ、向うへ行って用が足せない。仕方がない。やめる事にしよう」 「わたしも縫い物が と三人は顔見合わせて困ってしまいました。仕方がないから何もかもやめて、三人で手探りに晩の支度を初めました。 そのうちに御飯の火を焚き付ける段になると、お姉さんはマッチの箱の蓋がすこし 姉さんが泣き出しましたので、 「御飯御飯」 と怒鳴りながらお茶の間へ座り込みました。 お姉さんは泣いています。お 「どうしたのです」 といくら尋ねても返事をしません。武雄さんはお腹が空いて泣き出しました。 「お母ちアん」 けれどもお母さんは返事も何にもなさいませんでした。そこへお父さんが帰って来られて、 「武雄、お母さんが見たければ、その眼鏡を三つとも掛けて見つけろ。そうして御飯を食べさせてもらえ」 と云って、お倉の中へ入れられました。 お倉の中へ入れられた武雄さんは、大あばれにあばれて泣きましたが、そのうちに泣く力も無くなる位お腹が空いてきました。力も何も無くなって冷たい板張りの上に寝ながら、「ああ、お母さんがいらっしゃると、こんな時には直ぐにあやまって御飯を食べさせて下さるのになあ」と思ってメソメソ泣いておりましたが、その 武雄さんは眼鏡を取り出して三つとも掛けて見ました。けれどもいつまで待っても何も見えません。しかし他にあてもありませんから、眼鏡をかけたままくら すると不思議や、くら 「武雄や、お前はお母さまがいないからといっていたずらをするならば、私はもうお前を児と思いません。お前がお母さんの事を忘れないように、私の心もお前の傍へいつまでもつきまとうております。どんなに蔭でわるい事をしていても、お母さんはちゃんと見ております。お前がわるい事をすればお母さんが笑われるからです。このことを忘れないで、どうぞよい子になってちょうだい。よいか、武雄さん、忘れてはなりませんよ……」 と云ううちに、みるみるお母さんの姿は消えて見えなくなりました。 「お母さん、待って頂戴。 と叫んで飛びつこうとしますと、これは夢で、いつの間にか武雄さんは床の上でねむっておりました。 その時お倉の戸があいて、お父さんが、 「さあ武雄、御飯を食べろ。これから悪い事をするときかないぞ」 とおっしゃいました。 武雄はそののちこの事をだれにも言いませんでしたが、武雄の音なしくなったのには誰もかれも皆驚いてしまいました。 底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房 1992(平成4)年5月22日第1刷発行 入力:柴田卓治 校正:もりみつじゅんじ 2000年1月19日公開 2006年2月21日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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