このことをきいた兄さんのアア王は大層憤りまして、 「おのれ、サア王の憎い奴め。兄貴の云うことをきかないで戦争の用意をするなんて憎い奴だ。それならこっちから戦争をしかけて滅茶滅茶負かしてやれ」 と云うので、すぐに兵隊を呼び集めました。 アア王とサア王の妃はもともと姉さんと妹ですから、大変心配をしまして、いろいろに二人の王様の戦争の用意を止めようとしましたが、二人ともなかなか云うことをききません。 二人のお妃は只泣くよりほかはありませんでした。 この有様を月の世界から見たリイは、月姫にこう云いました。 「私はこの戦争を止めに行かなければなりません。そうして二人の兄さんが一生涯戦争をしないようにしなければなりません」 月姫はこれをきいて、 「ほんとに早く止めて上げて下さいまし。二人のお姉様がお可哀想です。けれども、どうしてこんな大戦争をお止めになるのですか」 と眼をまん丸にして尋ねました。 リイはニッコリ笑いながら、 「まあ見ていて御覧なさい」 と云ううちに又も遠眼鏡を眼に当てました。 リイは遠眼鏡を眼に当てながら、一番兄さんの宝物の鉄砲はどこにあるかと思いながら、 「アム」 と云いますと、すぐに兄さんのアア王のお城の宝庫が見えました。 その宝庫には強そうな兵隊がチャンと番をしておりまして、その庫の奥にある大きな鉄の宝箱の中に立派な鉄砲が一梃ちゃんと立てかけてありました。 リイはそれを見つけると喜んですぐに、 「マム」 と云いますと、もうその宝庫の中の宝箱の中の鉄砲のところへ来てしまいましたから、リイはその鉄砲を肩にかつぎました。 それから今度は次の兄さんのサア王のお城の方を向いて、宝物の刀はどこにあるだろうと遠眼鏡をのぞきながら、 「アム」 と云いますと、やっぱりそのお城の宝庫の中の宝箱の中にチャンと蔵ってありましたから、すぐに、 「マム」 と云うと、そこへ飛んで行ってその刀の紐を腰に結びつけました。 リイはそれからアア王とサア王の国の境目にある一番高い山の上に遠眼鏡の魔法で飛んで行って、そこの岩に腰をかけて、遠眼鏡で二人の兄さんのお城のようすを見ていました。 二人の兄さんはそんなことは知りません。両方とも有りたけの兵隊をみんな集めて戦の用意をしてしまいますと、家来を呼んで、 「あの宝の鉄砲を持って来い」 「あの宝の刀を持って来い」 と云いつけました。 両方の家来は宝庫の中の宝の箱を開いて見ますと、どちらも宝物が無くなっていますので、肝を潰して、 「お宝物の鉄砲が無くなっております」 「お宝物の刀が無くなっております」 と青くなって両方の王様に言いました。 両方の王様も青くなってしまいました。それは大変と、てんでに宝庫に駈け付けて調べて見ますと、番兵も庫の鍵もチャンとしていながら、中の刀と鉄砲だけ無くなっています。そうしてもとの鉄砲と刀とあったところに、どちらにも、 「お宝物はリイがいただいてまいりました。リイは国の境目の高い山の上にお待ちしております」 と書いた紙片が置いてありました。 両方の兄さんたちは憤るまいことか、 「さては弟のリイは泥棒の名人になったと見える。あの高い山を取り巻いて、リイを引っ捕えて宝物を取りもどせ」 と云うので、両方の国の兵隊が両方からその山をぐるりと取り巻いて、ズンズン攻めのぼって来ました。 ところがその山の絶頂まで攻めのぼって来るうちにすっかり日が暮れてしまいましたので、二人の兄さんは両方ともリイが逃げはしまいかと心配していましたが、間もなく東の方からまん丸いお月様がのぼって来ましたので、その月の光りでやっとわかった山道をズンズン登って山の絶頂に来ますと、そこにある高い岩の上に不思議にも昔のままの子供の姿のリイが刀と鉄砲を持って立っておりました。 兄さんのアア王と弟のサア王はこれを見ると、 「それ、あいつを弓で射ち殺せ」 「刀でたたき殺せ」 と云いましたので、両方の兵隊は一時に岩の下へ突貫して来ました。 リイは攻め寄せる兵隊を見てニコニコ笑いました。右手に刀、左手に鉄砲をさし上げて、 「みんな音なしくしろ。音なしくしないとこの鉄砲と刀とで一人も残らず殺してしまうぞ」 と云いました。 これを見ると、今までワイワイと勢よく攻めのぼって来た兵隊は、皆一時にドンドン逃げ出してしまって、あとにはただ二人のお兄さん、アア王とサア王とだけが残りました。 リイは二人の兄さんに向って岩の上からこう云いました。 「お二人のお兄さま、おききなさい。あなたがたはなぜそんなに喧嘩をなさるのですか」 二人のお兄さんはこれをきくと恥かしくなって、岩の下で顔を見合わせて真赤になりました。 リイは又こう云いました。 「お二人がえらくおなりになったのは、この鉄砲と刀のおかげです。けれども又こんなに喧嘩をなさるのも、この鉄砲と刀があるからです。お二人が仲よくさえなされば、この鉄砲も刀もいらぬ物ですから私がいただいてまいります」 と云ううちに、東の方に向って遠眼鏡でお月様をのぞきながら、 「アム」 「マム」 と一時に云いました。 そうすると、見るみるうちにリイの足は岩の上から離れて、刀と鉄砲を荷いだまま月の世界の方へ飛んでゆきました。 月の世界では月姫がリイを待っておりまして、 「よくお帰りになりました」 とお迎えに出て来ましたが、見るとリイの眼はいつの間にか両方とも開いておりましたので、月姫は又ビックリして、 「まあ。あなたの眼が両方とも開いていますよ」 と云いました。リイもこれを聞くとやっと気がつきまして、 「ヤア。ホントに。これは不思議だ。これは大かた今まで自分ひとりで遊んでいたのに、今度はお兄さんたちの仲直りをさせたので、神様がごほうびに開いて下すったのでしょう」 「ほんとにそうでございましょう。おめでとう御座います。さあお祝いにみんなで遊びましょう」 と大喜びで遊びはじめました。 山の上の岩の根本に残った二人の兄さんは、リイが天に飛び上って、お月様の方に行ってしまったのでビックリして抱き合いました。そうしてこんな事を約束しました。 「リイは神様になった。そうして月の世界からいつも私たちのすることを見ているに違いない。そうして私たちがわるいことをしたら、すぐにあの鉄砲で撃ったり、あの刀で斬ったりするに違いない。だからこれから仲よくしよう」 二人はそれから別々にお城へ帰りますと、ほんとうに仲よく暮らしました。 みなさんがわるいことをなすった時も、リイはあの月の世界から遠眼鏡で見ているかも知れません。
●表記について
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