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お菓子の大舞踏会(おかしのだいぶとうかい)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-8 14:11:23 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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五郎君はお菓子が好きでしようがありませんでした。御飯も何もたべずにお菓子ばかりたべているので、お父様やお母様は大層心配をして、どうかしてお菓子を食べさせぬようにしたいというので、ある日、 五郎さんは死ぬ程泣いてお菓子を欲しがりましたが、お父様もお母様も只お叱りになるばかり……とうとう五郎さんはすっかり怒って、御飯もたべずに寝てしまいました。 翌る日、学校はお休みでしたが、五郎さんは矢張り怒って、朝御飯になっても起きずに寝ておりました。 お父様もお母様も あとにたった一人、五郎さんは、 「ああお腹が と思いながら、涙をこぼしてジッと寝ておりました。 すると玄関の方で、 「郵便……」 と大きな声がして、何かドタリと投げ出される音がしました。五郎さんは思わず大きな声で、 「ハイ」 と言って飛び起きて駈け出しますと、それは四角い油紙で、何だかお菓子箱のようです。しかもその表には「五郎殿へ」と書いて、裏には兄さん夫婦の名前が書いてありました。 五郎さんは夢中になって 五郎さんはもう夢中になって、鋏を持って来て小包を切り開いて見ると、それは思った通りお菓子で、しかも西洋のでした。……ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、スポンジ、ローリング、ボンボン、そのほかいろいろ、ある事ある事……。 それから食べたにもたべたにも、一箱ペロリと食べてしまった五郎さんは、空箱と包み紙や紐を裏の掃きだめに棄てに行って、帰りがけに台所へ行ってお茶をガブガブ飲むと、そのまま何喰わぬ顔で蒲団にもぐり込んでしまいました。 「アラ、五郎さんはまだ寝ているよ。何て強情な児でしょう。よしよし、今にきっとお腹が空いておきて来るだろうから」 とお母様は独り言を云って、台所の方へお出でになりました。五郎さんは するとやがて何だか恐ろしく苦しくなって来ましたので、どうしたのかと眼を開いて見ますと、いつ日が暮れたのか、あたりは真暗になっていて何も見えません。その 「こんなに大勢、一時にお菓子たちがお とお嬢さん姿のキャラメルが云いました。 「そうだ、そうだ。それに五郎さんの胃袋は大変に大きいから愉快だ」 と道化役者のドロップが云いました。黒ん坊のチョコレートは立ち上って、 「一つお祝いにダンスをやろうではないか」 と云うと、ウエファース嬢が、 「それがいい、それがいい」 「万歳万歳、賛成賛成」 と皆が総立ちになって手を挙げました。すると 「苦しい苦しい」 と叫びました。 「あれ、苦しいと言っててよ」 とドロップ嬢が心配そうに云いますと、兎の姿をしたワッフルが笑って、 「アハハハハ、自分が悪いのだから仕方がない。まあ暫く辛抱してもらうさ。さあさあ、踊ったり踊ったり」 と云ううちに、もう踊り初めました。 ボンボンが太鼓をたたく。ローリングがピアノを弾く。ウエファース嬢が歌い出す。それにつれて五色の着物を着た小人のミンツ達を先に立てて、キャラメル嬢をまん中にワッフルの兎、ドロップの道化役者、チョコレートの黒ん坊、ドーナツの大男、そのほかいろいろのお菓子達が行列を立てて行くあとから、スポンジ嬢が こうして沢山のお菓子たちがみんな一所に輪を作ると、一二三というかけ声ともろ共に一時に踊り出しました。 「プーカプーカ、チョコレート プーカプーカ、ローリング ミンツ、ワッフル、キャラメル、ウエファース ドーナツ、スポンジ、ボンボンボン 太鼓の響はボンボンボン ピアノのひびきがローリング ウエファースと歌い出す ドロップドロップ踊り出す ワッフルワッフルはやし立て キャラメルキャラメル笑い出す 足どりおかしくチョコレート スポンジスポンジ飛び上る そこで五郎さんのポンポンが ミンツミンツ痛み出す」 五郎さんはもう死ぬ位苦しくなって、 「苦しい苦しい、 と叫びました。 「まあ、どうしたの五郎さん。大層うなされて」 とお母さんにゆり起されて、五郎さんはフッと眼を開くと、まだおひる過ぎでうちの中はあかるいのでした。 「お母さん、僕のお腹の中でお菓子が踊っている。ああ、苦しい苦しい。堪忍して頂戴、もう決してお菓子を食べませんから。アー、イタイ、イタイ。お母さん、助けて助けて」 と、五郎さんは汗をビッショリ掻いて、のた打ちまわりました。 お母様は驚いて、お医者を呼びにお出でになりましたが、いろいろわけを尋ねて、やっとお菓子の喰べすぎだという事がわかりますと、お医者はこわい顔をして、 「これから決してお菓子を喰べてはいけませんよ」 と云って、苦い苦いお薬を置いておいでになりました。 それから五郎さんは、病気が治ってからも決してお菓子を欲しがりませんでした。 底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房 1992(平成4)年5月22日第1刷発行 ※底本の解題によれば、初出時の署名は「 入力:柴田卓治 校正:もりみつじゅんじ 2000年3月6日公開 2006年5月3日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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