![]() ![]() |
木精(こだま)
|
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-11-7 9:29:35 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
|
麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら 呼んでしまってじいっとして待っている。 これが フランツはなんにも知らない。ただ暖かい野の朝、 ![]() フランツは父が フランツは段々大きくなった。そして父の手伝をさせられるようになった。それで久しい間例の岩の前へ来ずにいた。 ある日の朝である。山を一面に包んでいた雪が、 そして例のようにハルロオと呼んだ。 麻のようなブロンドな頭を振り立って呼んだ。しかし声は少し 呼んでしまって、じいっとして待っている。 暫くしてもう木精が答える頃だなと思うのに、山はひっそりしてなんにも聞えない。ただ深い深い谷川がごうごうと鳴っているばかりである。 フランツは久しく木精と問答をしなかったので、自分が時間の感じを誤っているかと思って、また暫くじいっとして待っていた。 木精はやはり答えない。 フランツはじいっとしていつまでもいつまでも待っている。 木精はいつまでもいつまでも答えない。 これまでいつも答えた木精が、どうしても答えないはずはない。もしや木精は答えたのを、自分がどうかして聞かなかったのではないかと思った。 フランツは前より大きい声をしてハルロオと呼んだ。 そしてまたじいっとして待っている。 もう答えるはずだと思う時間が立つ。 山はひっそりしていて、ごうごうという谷川の音がするばかりである。 また前に待った程の時間が立つ。 聞こえるものは谷川の音ばかりである。 これまではフランツはただ不思議だ不思議だと思っていたばかりであったが、この時になって急に何とも言えない程心細く寂しくなった。 フランツは雨に濡れるのも知らずに、じいっと考えている。余り不思議なので、夢ではないかとも思って見た。しかしどうも夢ではなさそうである。 暫くしてフランツは何か思い付いたというような風で、「木精は死んだのだ」とつぶやいた。そしてぼんやり自分の住んでいる村の方へ引き返した。 同じ日の夕方であった。フランツはどうも木精の事が気に掛かってならないので、また例の岩の処へ出掛けた。 この日丁度 ![]() フランツが例の岩の処に近づくと、忽ち木精の声が フランツは「おや、木精だ」と、覚えず耳を そして何を考える フランツはついに見たことのない子供の群れを見て、気兼をして立ち留まった。 子供達は皆じいっとして木精を聞いていたのであるが、木精の声が止んでしまうと、また声を揃えてハルロオと呼んだ。 勇ましい、底力のある声である。 暫くすると木精が答えた。大きい大きい声である。山々に響き谷々に響く。 空に 七人の知らぬ子供達は皆じいっとして、木精の 群れを離れてやはりじいっとして聞いているフランツが顔にも喜びが フランツは何と思ってか、そのまま 歩きながらフランツはこんな事を考えた。あの子供達はどこから来たのだろう。麓の方に新しい村が出来て、遠い国から海を渡って来た人達がそこに住んでいるということだ。あれはおおかたその村の子供達だろう。あれが呼ぶハルロオには木精が答える。自分のハルロオに答えないので、木精が死んだかと思ったのは、間違であった。木精は死なない。しかしもう自分は呼ぶことは (明治四十三年一月) 底本:「普請中 青年 森鴎外全集2」ちくま文庫、筑摩書房 1995(平成7)年7月24日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版森鴎外全集」筑摩書房 1971(昭和46)年4月~9月刊 入力:鈴木修一 校正:mayu 2001年7月31日公開 2006年4月28日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
|
![]() ![]() |