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よく利く薬とえらい薬(よくきくくすりとえらいくすり)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-29 17:03:32 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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清夫は今日も、森の中のあき地にばらの実をとりに行きました。 そして一足冷たい森の中にはひりますと、つぐみがすぐ飛んで来て言ひました。 「清夫さん。今日もお薬取りですか。 お母さんは どうですか。 ばらの実は まだありますか。」 清夫は笑って、 「いや、つぐみ、お早う。」と言ひながら 其の声を聞いて、ふくろふが木の 「清夫どの、今日も薬をお集めか。 お母は すこしはいゝか。 ばらの実は まだ無くならないか。 ゴギノゴギオホン、
今日も薬をお集めか。 お母は すこしはいゝか。ばらの実は まだ無くならないか。」 清夫は笑って、 「いや、ふくろふ、お早う。」と言ひながら其処を通りすぎました。 森の中の小さな 「清夫さん清夫さん、 お薬、お薬お薬、取りですかい? 清夫さん清夫さん、お母さん、お母さん、お母さんはどうですかい? 清夫さん清夫さん、ばらの実ばらの実、ばらの実はまだありますかい?」 清夫は笑って、「いや、よしきり、お早う。」と云ひながら其処を通り過ぎました。 そしてもう森の中の そこは小さな円い緑の草原で、まっ黒なかやの木や 清夫はお日さまで紫色に焦げたばらの実をポツンポツンと取りはじめました。空では雲が旗のやうに光って流れたり、白い 清夫はお母さんのことばかり考へながら、汗をポタポタ落して、一生けん命実をあつめましたがどう云ふ訳かその日はいつまで (木の水を吸ひあげる音だ)と清夫はおもひました。 それでもまだ籠の底はかくれませんでした。 かけすが、 「清夫さんもうおひるです。弁当おあがりなさい。落しますよ。そら。」と云ひながら青いどんぐりを一粒ぽたっと落して行きました。 けれども清夫はそれ所ではないのです。早くいつもの位取って、おうちへ帰らないとならないのです。もう、おひるすぎになって旗雲がみんな切れ切れに東へ飛んで行きました。 まだ籠の底はかくれません。 よしきりが林の向ふの沼に行かうとして清夫の頭の上を飛びながら、 「清夫さん清夫さん。まだですか。まだですか。まだまだまだまだまぁだ。」と言って通りました。 清夫は汗をポタポタこぼしながら、一生けん命とりました。いつまでたっても籠の底はかくれません。たうとうすっかりつかれてしまって、ぼんやりと立ちながら、一つぶのばらの実を するとどうでせう。唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分になりました。空まではっきり青くなり、草の下の小さな それに今まで聞えなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな 清夫は飛びあがってよろこんで早速それを持って風のやうにおうちへ帰りました。そしてお母さんに上げました。お母さんはこはごはそれを水に入れて飲みましたら今までの病気ももうどこへやら急にからだがピンとなってよろこんで起きあがりました。それからもうすっかりたっしゃになってしまひました。 ※ ところがその話はだんだんひろまりました。あっちでもこっちでも、その不思議なばらの実について評判してゐました。大かたそれは神様が清夫にお授けになったもんだらうといふのでした。 ところが近くの町に そしてしきりに、頭の工合のよくなって息のはあはあや、からだのだるいのが治ってそしてもっと物を沢山おいしくたべるやうな薬をさがしてゐましたがなかなか容易に見つかりませんでした。そこへ丁度この清夫のすきとほるばらの実のはなしを聞いたもんですからたまりません。早速人を百人ほど頼んで、林へさがしにやって参りました。それも折角さがしたやつを、すぐその人に 「おや、おや、これは全体人だらうか象だらうかとにかくひどく 大三は怒って、 「何だと、今に薬さへさがしたらこの森ぐらゐ焼っぷくってしまふぞ。」と云ひました。 その声を聞いてふくろふが木の 「おや、おや、つひぞ聞いたこともない声だ。ふいごだらうか。人間だらうか。もしもふいごとすれば、ゴギノゴギオホン、銀をふくふいごだぞ。すてきに壁の厚いやつらしいぜ。」 さあ大三は自分の職業のことまで云はれたものですから、まっ赤になって 「何だと。人をふいごだと。今に薬さへさがしてしまったらこの林ぐらゐ焼っぷくってしまふぞ。」と云ひました。 すると今度は、林の中の小さな 「おやおやおや、これは一体大きな皮の袋だらうか、それともやっぱり人間だらうか、 さあ大三はいよいよ怒って、 「何だと畜生。薬さへ取ってしまったらこの林ぐらゐ、くるくるん[#「ん」は小書き]に焼っぷくって見せるぞ。畜生。」 それから百人の人たちを連れて大三は森の空地に来ました。 「いゝか、さあ。さがせ。しっかりさがせ。」大三はまん中に立って云ひました。 みんなガサガサガサガサさがしましたが、どうしてもそんなものはありません。 空では雲が 大三は早くその薬をのんでからだがピンとなることばかり一生けん命考へながら、汗をポタポタ みんなはガサガサガサガサやりますけれどもどうもなかなか見つかりません。 そのうちにもうお日さまは空のまん中までおいでになって、林はツーンツーンと鳴り出しました。あゝなるほど、 かけすが、 「やあ象さん、もうおひるです。弁当おあがりなさい。落しますよ。そら。」 と云ひながら、 「えい畜生。あとで鉄砲を持って来てぶっ放すぞ。」大三ははぎしりしてくやしがりました。 空では白鰻のやうな雲も、みんな飛んで行き、大三は汗をたらしました。まだ見つかりません。よしきりが林の向ふの沼の方に逃げながら、 「ふいごさん。ふいごさん。まだですか。まだですか。まだまだまだまぁだ。」 と云って通りました。 もう夕方になりました。そこでみんなはもうとてもだめだと思ってさがすのをやめてしまひました。大三もしばらくは困って立ってゐましたが、やがてポンと手を 「ようし。おれも大三だ。そのすきとほったばらの実を、おれが そこで大三は、その十貫目のばらの実を持って、おうちへ帰って参りました。 それからにせ 底本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房 1979(昭和54)年5月15日初版第1刷発行 1984(昭和59)年1月30日初版第7刷発行 入力:林 幸雄 校正:久保格 2002年10月27日作成 2003年6月1日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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