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关闭窗口 手袋を買いに（てぶくろをかいに）
「あっ」と叫んで
「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて
母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが
子供の狐は遊びに行きました。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と
間もなく洞穴へ帰って来た子狐は、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、
「もうすぐ
暗い暗い夜が
親子の銀狐は洞穴から出ました。子供の方はお母さんのお
やがて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さん狐の足はすくんでしまいました。
「あれは町の
その町の灯を見た時、母さん狐は、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供の狐がお腹の下から言うのでしたが、母さん狐はどうしても足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、
「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛いい人間の子供の手にしてしまいました。坊やの狐はその手をひろげたり握ったり、
「何だか変だな母ちゃん、これなあに？」と言って、雪あかりに、またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、まず表に
「どうして？」と坊やの狐はききかえしました。
「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんの狐は、持って来た二つの
子供の狐は、町の
けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、狐の子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車の看板や、
とうとう帽子屋がみつかりました。お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈に
子狐は教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「今晩は」
すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
子狐はその光がまばゆかったので、めんくらって、まちがった方の手を、――お母さまが出しちゃいけないと言ってよく聞かせた方の手をすきまからさしこんでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。狐の手です。狐の手が手袋をくれと言うのです。これはきっと
「先にお金を下さい」と言いました。子狐はすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを
「お母さんは、人間は恐ろしいものだって
ある窓の下を通りかかると、人間の声がしていました。何というやさしい、何という美しい、何と言うおっとりした声なんでしょう。
「ねむれ ねむれ
母の胸に、
ねむれ ねむれ
母の手に――」
子狐はその母の胸に、
ねむれ ねむれ
母の手に――」
するとこんどは、子供の声がしました。
「母ちゃん、こんな寒い夜は、森の子狐は寒い寒いって
すると母さんの声が、
「森の子狐もお母さん狐のお唄をきいて、
それをきくと子狐は急にお母さんが恋しくなって、お母さん狐の待っている方へ
お母さん狐は、心配しながら、坊やの狐の帰って来るのを、今か今かとふるえながら待っていましたので、坊やが来ると、
二匹の狐は森の方へ帰って行きました。月が出たので、狐の毛なみが銀色に光り、その足あとには、コバルトの影がたまりました。
「母ちゃん、人間ってちっとも
「どうして？」
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、
と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。お母さん狐は、
「まあ！」とあきれましたが、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。
底本：「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店
1996（平成8）年7月16日第1刷発行
1997（平成9）年7月15日第2刷発行
入力：大野晋
校正：伊藤祥
1999年3月2日公開
2003年10月3日修正
青空文庫作成ファイル：
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