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菠薐草(ほうれんそう)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-18 7:24:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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余が村の一族の間には近代美人が輩出した。それが余の母まで續いて居る。母をうんだおばあさんといふのは七十四になるがまだ至つて達者な人である。おばあさんの眉は美しかつたらうといふと、唯おまへの母の眉よりはよかつたといつては何時でもおばあさんは微笑する。此おばあさんの又おばあさんに當つたといふのが美人のはじめである。四十の歳から太り出したといふのでゆつたりと大きな躰であつた相だ。八十四までながらへた人なので余の母は知つて居る。此人に就いて噺があるのである。其夫になつた人は獵が好きで、鐵砲の上手な人で、春の麥畑へ鳩のおりたのを見掛けてエヘンと咳をすると鳩が驚いて首を 雉子や兎を追ひまはして喉が乾き切つた時に丁度林の中で一軒の家を見つけた。家といふのは固より傾いた藁葺だ、表の柱と柱との間にはおろし戸が一枚づゝ卸してあるのでなかは薄闇い。一杯の茶を乞ふ爲めに頭巾をとつてくゞり戸を開けた。此人が稀な美男であつた相だ。其時に茶釜から茶を汲んで呉れたのが若い娘であつた。茶釜には番茶を詰めた布袋が入れてあるので、ぬるいばかり何時でも眞赤に澁の樣な茶が出て居るのである。其茶を 其非常な美しい娘であつたのが太つたおばあさんになつてから何をしたかといふと明けても暮れても釣ばかりして居た。掘端へ薦を敷いて厭になるまでは夜中でも釣つて居る。それで恐怖といふことを知らなかつた人なので、ゆんべは青い火の玉が飛んだなどゝいふことが屡々であつたといふ。此人の腹から出たのは皆男でそれが村の中に分れて各一家をなした。夫故一族に美人が出たのである。余の家に會合でもあるといふと人の羨しがる程美しい人々が集つたものだと傳へて居る。 然し過ぎ行く幾月の間に人々は凋落し老衰して同時に一族の者は孰れも窮乏してしまつた。孰の家も亦家運が傾きつゝ此一族の中心となつて立つて居る。鹿を吊るした柿の木はどうしたといふと既になくなつて居る。其柿の木は路傍に立つて枝は粗朶小屋の上を掩うて竹の林に接して居た。或夜のことである。余は不意に掻き起された。下女は余を背負つた儘門の外へ駈け出した。眼前には焔が立ち騰つて粗朶小屋が燃えて居るのであつた。余は只ぶる/\と震へて齒の根が會はなかつた。其うち村中が集つた。みんなの顏が眞赤であつた。後になつて廻りの竹はだん/\枯れた。柿の木も其時に焦げたのでとう/\薪に伐られてしまつた。かういふことで柿の木はなくなつたのである。火事は余が七つか八つの時のことである。 (明治四十年五月發行、趣味 第二卷第五號所載) 底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店 1977(昭和52)年1月31日発行 入力:林 幸雄 校正:今井忠夫 2000年5月10日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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