![]() ![]() |
影法師(かげぼうし)
|
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-13 6:34:13 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
|
一 うしろに山をひかえ前に広々とした平野をひかえてる、低いなだらかな丘の上に、小さな村がありました。村の東の 白く塗った 晴れた日の朝早く、長者の子供を 「ああ、いいことを考えた」と長者の子供がふいに叫びました。「待っといでよ、じきに来るから」 そして お 「お祖父さん、僕にあの……東の お祖父さんは、まんまるい眼鏡の下にびっくりした眼を開いて、子供を見ました。 「なに、塀をくれって……」 「ええ、下さいよ。おもしろいことがあるんです。こわしやしません。ただ遊ぶだけなんです。塀で遊ぶんです。ね、いいでしょう」 「塀で遊ぶって……おかしなことを言う子だね。こわしさえしなければよいけれど……」 「じゃあ下さいね。遊ぶだけなんですから」 そして子供はもうお祖父さんの側から駆け出して、部屋の中にはいって、大きな 「何をするの」 待ってた子供たちが集まってきました。 「今ね、この塀をお祖父さんからもらってきたんだ。だから、こわしさえしなけりゃ、何をしたって 「影法師を写し取る……うん、おもしろいな」 皆はわーっと声を立てておもしろがりました。そしてすぐにそのしたくにかかりました。小川の水を硯にくみ取って、一生懸命に 「僕が考えたんだから、僕が先だよ」 そう言って長者の子供は、白い 「影法師なんだから、すっかりまっ黒に塗らなけりゃいけないよ」 そして皆は影法師の形をまっ黒に塗り始めました。 そのうちに、太陽はずんずん昇っていって、塀にうつる影法師は小さな不格好なものになりましたので、長者の子供一人のだけで、他のは写し取れませんでした。 「また明日の朝にしよう」 二 毎日晴れた日が続きました。子供たちは朝早くから白塀の前に集まって、かわるがわる影法師を写し取りました。 そのことをおもしろがって、他の子供たちも集まって来ました。そして太陽が出たばかりの頃、日に二つか三つずつ影法師を写し取りましたが、日がたつにつれて、塀いっぱいたくさんになってきました。高いのや低いのや、 それを見て、通りがかりの 「これが僕んですよ」 「これが僕んですよ」 子供たちはめいめいそう言って、自分の影法師の前に立ってみせました。背の高さから形まで、 さて皆の影法師が写し取られて、塀いっぱいに並びますと、これからどうしようかと、子供たちは考えました。写し取っただけではいっこうつまりません。 「影法師が塀からぬけ出して踊ってくれるといいんだがなあ」 そう皆は考えました。そしていつも塀の前に集まっては、何度もくり返して考えました。しかしそんなことが出来るわけはありません。 ところが、ある日、皆がやはりそこに集まって、同じことをこそこそ話し合っていますと、いつのまにどこからやって来たか、髪の長い 「君たちはばかなことを考えてるね」 そしてやはり、塀の影法師を見て笑っています。 子供たちはそれがしゃくにさわりました。髪の長い 「何を言ってるんだい。何がばかなことなんだい。 見馴れない男は、さも 「なるほど、私が悪かった。それはおもしろいことに違いない。……それでは一つ私が教えてやろうか。その影法師を踊らせることを、教えてやろうか」 「え、おじさんはそんなことを知ってるの。教えて下さい。ね、教えて下さい」 「じゃあ教えてやろう。そのかわり、私の影も一つ、そこに写し取ってくれなくてはいけない。そして、明日の朝早くここに来れば、君たちの影法師は踊れるようになってるだろう」 子供たちは大変喜びました。そして 「だめだよ、日が高くなってるから……。おかしいな」 「いや、それで そして男は、自分の変な影法師を見て、はっはっは……。と笑いました。 「それでは、明日の朝早く皆でそろっておいでよ」 男はそう言いいすてて、どこかへ行ってしまいました。 三 子供たちはその晩、おちついて眠れませんでした。自分たちの やがて皆そろいましたので、胸をどきどきさせながら、長者の ところが、 「はっはっはっは……」 高い笑い声がしたので振り向くと、昨日の男がそこに立って笑っています。 「私のあのおかしな影がね、一晩のうちに大きくなって、塀いっぱいにひろがったのだ。とんだことになってしまった」 それを聞くと、子供たちは急に怒り出しました。その男がだまかしたのだ。嘘を言ってるんだ。影法師が一晩のうちに 「嘘つき、嘘つき。僕たちをだまかしたんだな」 そう言って子供たちはつめよっていきました。 「はっはっはっ……」と男は平気でなお笑っています。 「人をばかにしてる。なぐっちまえ」 気の早い子供たちは、棒ぎれを拾ったり、石をつかんだり、げんこを握りしめたりして、男へ向かっていきました。男は笑いながら、あちこちへ身をかわしました。ひどくすばしこい影のような男で、 「君たちはばかだな」と男は広場の中を逃げ廻りながら言いました。「そら、まっ黒な塀の中で、影法師が踊ってるじゃないか」 そう言われてから皆は初めて気づきました。東から出た太陽の光を受けて、黒い鏡のように光っている塀の中に、皆の影法師が浮き出していました。 「おや、これはおもしろいや。ふしぎだなあ」 皆は 「わかったかね、はっはっは……」 皆が振り返ってみると、髪の長い そこへ、長者のうちのお 「それはきっと、大変えらい人にちがいない。お前達はよいことを教わったものだ」 子供たちはさっぱりわけがわかりませんでした。けれど 皆はいろんな姿をうつして、自分も踊り影の姿も踊らして、いつも大変愉快に元気に遊びました。 底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社 1990(平成2)年11月27日第1刷発行 入力:kompass 校正:門田裕志、小林繁雄 2006年4月29日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
|
![]() ![]() |