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ロプ・ノールその他(ロプ・ノールそのた)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-4 17:31:30 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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東トルキスタン東部の流砂の中に大きな湖水ロプ・ノールのあることは二千年昔のシナ人にはすでに知られていて、そのだいたいの形や位置を示す地図ができていたそうである。西暦一七三三年に二人のヨーロッパ人が独立に別々にその地方の地図をシナから持ち帰った。ところがマルコポロは一二七三年にこの湖のすぐ南の 以上は近着の Geographical Review. Oct., 1932. 所載の記事から抄録したものである。 中央アジアではまだ自然が人間などの存在を無視して勝手放題にあばれ回っている。そのために気候風土が変転して都市が砂漠になったり、砂漠が楽園に変わったりする。地震なども、いわゆる地震国日本の地震などとは比較にならないような大仕掛けのが時々あって、途方もない大断層などもできるらしい。ロプ・ノールの転位でも事によると 同じ雑誌にエリク・ノーリンがタリム盆地の第四紀における気候変化を調べた論文がある。これによると、最後の氷河期の氷河が もう一度このへんの雪線が少しばかり低下して その時に日本はどうなるか。欧米はどうなるか。これはむつかしい問題である。しかしとにかく現在の人間は、世界の気候風土が現在のままで千年でも万年でもいつまでも持続するように思っている。そうして実にわずかばかりの科学の知識をたのんで、もうすっかり大自然を征服したつもりでいる。しかし自然のあばれ回るのは必ずしも中央アジアだけには限らない。あすにもどこに何事が起こるかそれはだれにもわからない。それかといって神経衰弱にかかった 同じ雑誌に、米国のある飛行家が近ごろペルーの山中を空中から探険してたくさんの写真をとって来た報告が出ている。その中に、ミスチ火山の西北に当たるコルカ川の谷でまだ世界に紹介されていない古い都市の ロプ・ノールの話や、このペルーの廃墟の話などを読んでいると、やっぱりまだこの世界が広いもののように思われて来るのである。 米国地理学会で出版されたペルーの空中写真帳を見るとあの広い国が至るところただ赤裸の岩山ばかりでできているのに驚く。地図を見ているだけではこんな事実は夢にも想像されない。地理書をいくら読んでも少なくもこれら写真の与える実感は味わわれまい。 一日も早く「世界空中写真帳」といったようなものが完成されるといいと思う。それが完成するとわれわれの世界観は一変し、それはまたわれわれの人生観社会観にもかなりな影響を及ぼすであろう。そうして在来の哲学などでは間に合わない新しい天地が開けるであろうと夢想される。 (昭和七年十二月、唯物論研究) 底本:「寺田寅彦随筆集 第三巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店 1948(昭和23)年5月15日第1刷発行 1963(昭和38)年4月16日第20刷改版発行 1997(平成9)年9月5日第64刷発行 ※底本の誤記等を確認するにあたり、「寺田寅彦全集」(岩波書店)を参照しました。 入力:(株)モモ 校正:かとうかおり 2000年10月3日公開 2003年10月30日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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