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詩と官能(しとかんのう)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/10/3 8:45:55 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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一 この星のような光を見る瞬間に突然不思議な幻覚に襲われることがしばしばある。それはちょっと言葉で表わすことのむつかしい夢のようなものであるが、たとえば、深く降り積もった雪の中に一本大きなクリスマス・トリーが立っていてそれに、無数の 天気が悪かったり、食堂がきたなかったり、騒がしかったり、また食事がまずいような場合には、同じライターの同じ炎の中に同じような星が輝いても決してこうした幻覚が起こらないから不思議である。 胃の 二 いつか夏目先生生前のある事がらについて調べることがあって 自分の子供たちのうちにも、古い小さい時分の出来事をその時に食った食物と連想して記憶しているという傾向の著しく見えるのがいる、どうも 近ごろ、夕飯の食卓で子供らと昔話をしていたとき、かつて自分がN先生とI君と三人で そのテント生活中にN先生に安全 とにかく、もし自分の留学後だったらバン・フーテンや安全剃刀にも別に驚かなかったはずであるから、それでこの三原山生活の年代の決定が確実にできたわけである。 このときの三原山生活は学問的にもおもしろかったがまた同時に多分の美しい詩で飾られていたようである。しかも、自分の場合にはそれらの詩がみんな自分の肉体の生理的機能となんらかの密接な関係をもっていたような気がする。 三 どうも自分の詩の世界は自分のからだの生理的機能と密接にからみ合っていて直接な感官の刺激によってのみ活動しているのではないかという気がするのである。これはあまり自慢にならない話のようである。しかし詩人の中にもいろいろの種類があって、抽象的精神的な要素の多い詩を作る人がある一方ではまた具象的官能的な要素に富んだ詩に長じた人もあるようである。自分の見るところでは、俳人 科学的にもやはり抽象型と具象型、解析型と直観型があるが、これがやはり詩人の二つの型に対応されるべき各自に共通な因子をもっているように見える。 詩人にも科学者にもそれぞれの型について無限に多様な優劣の段階がある。要は型の問題ではなくて、段階の問題だけであるらしい。 (昭和十年二月、渋柿) 底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」岩波文庫、岩波書店 1948(昭和23)年11月20日第1刷発行 1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行 1997(平成9)年9月5日第65刷発行 入力:(株)モモ 校正:かとうかおり 2003年2月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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