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子規の追憶(しきのついおく)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-3 8:35:08 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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一 自然科学に関する話題にも子規はかなりの興味を 写生文を 『 とにかく、文学者と称する階級の中で、科学的な事柄に興味を有ち得る人と有ち得ない人とを区別する事が出来るとしたら子規はその前者に属する方であったらしい。この事は子規という人とその作品を研究する際に考慮に加えてもいいことではないかと思う。 二 学芸の純粋な進展に対して社会的の拘束が与える障害について不満の意を洩らすのを聞かされた事も一度や二度ではなかったように記憶する。例えば美術や音楽の方面においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったようなことについて、具体的の実例をあげていわゆる官僚的元老の横暴を語るのであったが、それがただ冷静な客観的の噂話でなくて、かなり興奮した主観的な 子規は世の中をうまく渡って行く芸術家や学者に対する反感を抱くと同時に、また自分に親しい芸術家や学者が世の中をうまく渡る事が出来なくて不遇に苦しんでいるのを 三 ある時西洋の小説の話から始まってゾラの『ナナ』の筋も私に話して聞かせた。それから、何という表題の書物であったか、若い僧侶が古い壁画か何かの裸体画を見て春の目覚めを感じるという場面を非常にリアルな表現をもって話して聞かせた事があった。その時の病子規は私には非常に若々しく水々しい人のように感ぜられた。 私は『仰臥漫録』を ほとんど腐朽に瀕した肉体を抱えてあれだけの戦闘と事業を遂行した巨人のヴァイタルフォースの 四 子規の家から 脚腰の立たない横に寝たきりの子規氏の頭脳の中にかなり明確に保存されていた根岸の地理の一つの映像としてこれも面白いものの一つであろうと思う。この辺も区劃整理で昔の形が消えてしまうかどうか知りたいものである。 今久し振りにこの図を取出して見ていると三十年前の子規庵の光景がありありと思い出される。 (昭和三年九月『日本及日本人』) 底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店 1996(平成8)年12月5日発行 入力:Nana ohbe 校正:松永正敏 2004年3月24日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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