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小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」(こいずみやくもひこうがほん「ようましわ」)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-10-2 10:16:53 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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十余年前に それからずっと後に同じ著者の「怪談」を読んだときもこれと全く同じような印象を受けたのであった。 今度 八雲氏の夫人が古本屋から掘り出して来たという「狂歌百物語」の中から気に入った四十八首を英訳したのが「ゴブリン・ポエトリー」という題で既刊の著書中に採録されている。それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文のテキストと並行した なんといってもこの本でいちばんおもしろいものはやはりこの原稿の複製写真である。オリジナルは児童用の粗末な 書物の大きさは三二×四三・五センチメートルで、用紙は これもいかにも八雲氏の熱愛した固有日本の夢を象徴するもののように見えておもしろい。このような蒲団地は、今日ではもうたぶんデパートはもちろんどこの呉服屋にも見つからないであろう。それをわざわざ調製したのだそうである。小山書店主人のなみなみならぬ熱心な努力が、これらの装幀にも現われているようである。この異彩ある珍書は著者、解説者、装幀意匠者、製紙工、染織工、印刷工、製本工の共同制作によってできあがった一つの総合芸術品としても愛書家の秘蔵に値するものであろう。ただ英文活字に若干遺憾の点があるが、これもある意味ではこうした限定版の歴史的な目印になってかえっておもしろいかもしれないのである。 複製原稿で最もおもしろいと思うのは、詩稿のわきに描き添えられたいろいろの化け物のスケッチであろう。それが実にうまい絵である。そうして、それはやはり日本の化け物のようでもあるが、その中のあるものたとえば「 その他にもたとえば「雪女郎」の絵のあるページの片すみに「マツオオリヒシグ」としるしたり、また「 「船幽霊」の歌の上に 小泉八雲というきわめて独自な詩人と彼の愛したわが日本の国土とを結びつけた不可思議な連鎖のうちには、おそらくわれわれ日本人には容易に理解しにくいような、あるいは到底思いもつかないような、しかしこの人にとってはきわめて必然であったような特殊な観点から来る深い認識があったのではないかと想像される。それを追跡し分析し研究することはわれわれならびに未来の日本人にとってきわめて興味あり有意義であるのはもちろんであるが、そのような研究に意外な光明を投げるような発見の糸口があるいはかえってこうした草稿の断片の中に見いだされないとも限らないであろう。 たとえば「怪談」の中にも現われまたこの百物語の数々の化け物の中から特に選び出される光栄をもったような化け物どもが、どういう種類の化け物であって、そのいかなる点がこの人にアッピールしたか、またそれがどういう点で過去数千年の日本民族の精神生活と密接につながっているか。こんな事を考えてみるだけでもそこにいろいろなまじめな興味ある問題を示唆されるのであるが、その示唆の (昭和九年十月、帝国大学新聞) 底本:「寺田寅彦全集 第十七巻」岩波書店 1962(昭和37)年2月7日第1刷発行 入力:加藤恭子 校正:かとうかおり 2003年3月6日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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