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鷲(わし)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-26 15:56:10 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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土佐の海岸にあった私の村には、もうその 大井の小路と云う小路には夜よる馬の首が飛ぶように走っていた。夜海岸で 高知市の北になった法華堂と云う山の方から飛んで来る陰火は、新しいおろしたての草履の裏に唾を吐いて、それで「法華堂の陰火よう」と、云って招くと陰火は見えていてもいなくても必ず傍へ来て燃えた。その陰火は法華堂のあたりで大事な手紙を無くして斬られた飛脚の魂で、今にその手紙を尋ねているので、「状がここにあるぞう」と、云って呼んでも来るのであった。 神の峰であったか陽貴山の山であったか、其処には陰火が山をぐるりととり巻くことがあって、それを見た者は必ず死んだ。陰火は到る処に燃えもすればふうわりふうわりと飛びもした。 狸も人をたぶらかした。村の老人が通っていると、狸が木の葉を身につけて人間に化けているので、「そんなことでは駄目だ、こういうふうにしろ」と、云って狸を欺して袋に入れ、殺して汁にたいたと云うこともあった。 しばてんが麦のかさうれ時に出て、夕方野に遊んでいる小供を伴れて往った。そのしばてんは小坊主になって人が通りかかると、「相撲とろか、相撲とろか」と、云っていどんだ。小坊主の癖に生意気だから投げ飛ばしてやろうと思って、相撲をとってみると 生霊がとり憑き、犬神がとり憑き、道を歩いていると七人 私達はその旗奪を数回やって休んでいたところで、 「あれが見えるか、あれが見えるか」 と、云うので眼をあげると小さな一つの手が東の方を指している。何だろうと思ってその方へ眼をやると、それは八番のあれの この旗奪の夜の怪異は、今から考えてみると実在の怪異であったか、それとも怪異の恐怖の中から創作したものであったか、それはどうもはっきりしないが、その後にあった一つの怪異は実在のもので、老媼茶話の中にでもありそうな話であるが、それは後になって人間の巧智の所産であることが判った。それは私が十二三のときのことであったが、村の人家の北側になった山の麓に清導寺と云う寺があって、其処の住職に対する批評を 「あんななまぐさ坊主は、法力がないから、あんな山の中にはおることができんそうじゃ」 「清導寺の坊さんは、法力がないと云うじゃないか」 「黒い牛のようなものが、夜よる本堂に出るということじゃ」 「あの山には、天狗がおるから、なまぐさ坊主はおれまい」 清導寺の上になった山の頂上には大きな岩が立っていて叩くとかんかんと鳴ると云うので、村の者はかんかん岩と云っていた。少年仲間の久馬と云うのが、 「あの坊さんは、ほんまに法力がないじゃろうか」 「ちっともないというよ」 「そうか」 「あんな法力のない坊主は、しようがない、 清導寺谷の下の方にさんでんと云う畑があった。 「今日、さんでんの上の方を鷲が飛びよったと云うぞ」 「ほう鷲が」 「そうよ、鷲が」 「鷲が此処な処におるじゃろうか」 「どうか知らんが、飛びよったと云うぞ」 「鷲は人を掴むと云うじゃないか」 「掴むとも、三之助は鷲に掴まれたじゃないか」 三之助とは芝居に出て来る少年のことであった。また、北隣の老人と隣の男はこんな話をしあった。 「ありゃ鷲じゃのうて、熊鷹と云うじゃないか」 「ありゃ、なしじゃよ」 「なしという鳥があるかよ」 「いや、はなしじゃよ」 冗談を云ったのは北隣の老人であった。その鷲の噂があってから数日して、私達をおびえさした事件が起った。それは昼間寝かしてあった清導寺の 「ありゃあ、どうしても鷲じゃ」 「さんでんの上を飛びよった鷲じゃよ」 「熊鷹でも小供位は掴む」 「小供が怖い、これから小供に気を 「ありゃあ、お寺の坊主の力がたらんからじゃ」 「力のある坊主を 「ありゃあ見せしめじゃ」 村は暫く寺の 山伏の獣の吠えるような怒声は一層私たちをはらはらさした。その私達のはらはらしている前を巡査は両手を後手に縛った山伏を引きたてて往ったが、その山伏の蒼白い口髯の濃い口元に血がにじんでいたので、鬼魅が悪くなって顔をそむけている間に、もう巡査は山伏を引きたてて入口の掘立門を出て往った。 「山伏が堀内さんに縛られた」 「山伏は何をしたろう」 私も小供心に山伏の縛られて往った原因を知りたかったが判らなかった。私は清導寺の 「あれは、山伏が寺を乗取るつもりで、小供を殺したものだよ」 と、云ったのではじめてその疑問が解けるとともに、これは怪談になる話だと思ったのであった。 底本:「日本の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社 1986(昭和61)年12月4日初版発行 底本の親本:「日本怪談全集」桃源社 1970(昭和45)年初版発行 入力:Hiroshi_O 校正:小林繁雄、門田裕志 2003年8月2日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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