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断橋奇聞(だんきょうきぶん)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-26 14:58:18 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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英雄自ら是れ風雲の客 老婆はその詩を見て世高を秀英の許へやってもいいと思った。老婆は秀英にその意を含めた。しかし、秀英にはどうして来る人を迎えていいか判らなかった。児女の 若し武陵 桃花流水門前に 「今晩、遅く皆さんが寝静まった時に、花園の中の、あの石のある処へいらして、そこの樹へ 「では 「いいでしょう、そんなことは、男の方ですから」 そこで話ができたので老婆は帰ろうとした。秀英はそこへ 「これをどうか、あの方に、ね」 老婆は詩と繍鞋児を袂へ入れ荷物を持って帰ってきた。 老婆の店に待っていた世高は、両手で拳をこしらえて耐えなければ、気でも違いそうに思われるような喜びに包まれた。彼は一度家へ帰って、夜になるのを待ち、新しい 老婆は時刻をはかって世高を裏門口へ 微な物音がして索の端が劉家の牆の上から落ちてきた。それは鞦韆の索であった。老婆は無言で世高を促した。 世高はその索に手をやってちょっと引き 世高は牆の上からそこに枝を張っている老樹の枝に移って、そろそろと下の方へおりて往った。おりてゆくうちにその枝が折れてしまった。世高はそのまま下へ墜ちたのであった。 鞦韆の索を投げて世高の来るのを待っていた秀英は、月の光に世高が牆の上にあがってきて、それから老樹の枝に移ったのを見て喜んだが、喜ぶまもなく世高が墜ちたので、気を顛倒さして走って往った。 世高は 「もし、もし、お怪我をなされたのではありませんか」 世高は返事もしなければ動きもしなかった。耳を立てても呼吸もしなかった。秀英は慌てて世高の体を彼方此方と撫でたが、体は依然として動かなかった。 暗い谷底につき落されたようになった秀英の頭に、世高の屍から起る両親の譴責が浮んできた。それに自分のために世高が死んでいるのに、自分独りが生きてはいられないと思った。彼女は鞦韆の索を枝に結えなおして泣いた。 春嬌はその夫人の声ではじめて眼を覚ました。夫人は春嬌にこごとを言ってから秀英の 夫人は下へおりて往った。花園の中の棲雲石の上には若い男が横たわっており、老樹の枝には秀英が 「早く、これを、これを」 春嬌もそれとみて傍へ走って往ったが、どうしていいか判らなかった。夫人は春嬌を叱りとばしてその索を解かし、秀英を下へおろして体を撫でたり、口に 夫人は泣きながら自分たちの寝室の中へ入って往った。そこには夫の劉万戸がまだ寝ていた。劉万戸は夫人から凶変を聞くと、顔色を変えてとび起き、そそくさと花園へ駈けつけた。 花園には若い男と自分の 「春嬌、きさまが知っているだろう、さあ言ってみろ」 春嬌はおどおどしていたが、黙っている場合でないと思った。 「私は、私は、すこしも存じません、それは施十娘がしたことでございます」 劉万戸は後になってつまらんことを聞いてもしかたがないから、早く死骸の始末をしようと思いだした。それにしても名も素性も判らない男の死骸の始末には困ったのであった。彼は夫人を見て言った。 「これの死骸はいいとして、その男の方はどうしたものだろう」 劉万戸はそこで施十娘のことを思いだした。 「いずれにしても、あの婆を呼んでこい、施十娘を呼んでこい」 劉万戸の命令は春嬌の口から家人へ伝えられた。二人の家人は走って施十娘の店へ往った。 夜の内に帰るはずの文世高が帰らないので、朝早く起きて裏門口へ容子を見に往ったりしていた老婆は、劉家の使に接して心が顫えた。しかし、病気でもないのに往かないわけにゆかないので、おそるおそる使の者に随いて往った。 使の者は老婆を花園の方へ導いた。そこには夫人が泣きながら立っていた。 「お婆さん、お前さんは、よくもうちの 老婆は文世高の忍び込んだことが顕われたと思った。 「奥様、私は何も存じません、ただ文世高とお嬢さんが、想いあって、詩のやりとりをしておったことは知っております」 「お婆さん見てやってくださいよ、うちの児はこんな姿になりましたよ」 棲雲石のそばには二つの死骸が見えて劉万戸が立っていた。老婆はふらふらその傍へ往った。血の気を失った文世高の顔、秀英の顔。老婆は心から悲しくなって泣きだした。その老婆の耳へ劉万戸の声が聞えてきた。 「佳いことをしでかしてくれて、泣いてもらうにはおよばないよ、だが、しかし、もう、なんと言ってもおっつかない、それよりは他へ知れないように、この二つの死骸の始末をしなくてはいけない、 老婆はもう泣くのをやめていた。 「それは、わけはありません、私の 劉万戸は夫人と相談して施十娘に三十両の銀子をわたした。施十娘はその金を持って姪の許へ往って耳うちした。 そこで棺屋の李夫は、急いで大きな棺をつくり、二三人の者にそれを そして、棺は家の内へ運ばれたが、ひとまず やがて棺桶は持ちだされて、 そこには月の光があって、荒涼とした四辺の風物を見せていた。埋葬が終ると李夫は皆にすこしずつの銭をやった。 「おれは、跡をきれいにしてけえるから、おめえだちはさきへけえっとれ」 棺舁の姿が見えなくなると、李夫は 土を除くと、鋤の頭で棺の一方をとんとんと叩いた。すると 李夫は片膝をついて 唸り声をたてたのは世高であった。彼はこの時になって体の痛みを感ずるとともに、意識がかえってきたのであった。彼はそうして眼を開けた。月の光のほのかに射した狭い箱のようなものの中に、寝かされている自分に気が注いた。彼は体の痛みをこらえて自分とぴったり並んでいるものを見た。それは若い女であった。箱の上のほうには樹木の枝の動いているのが見えた。 そこはどうしても野の中である。世高はそこで自分が樹から墜ちたことを思いだした。女の顔は秀英であった。彼は自分が仮死したため、女も自分の後を追ったので、二人いっしょに葬られたのではないかと思いだした。彼は苦しい体を起して立った。それは確かに 世高は不思議に蘇生したことはうれしかったが、秀英が死んでいることを思うと生きているのが苦しかった。彼は蹲んで秀英の体を抱きあげてその顔を覗きこんだ。彼はそうしてその死因をたしかめようとした。その秀英の 女はやっと眼を見ひらいた。秀英は蘇生したのであった。二人は手を取りあって泣いた。 世高と秀英の二人は機の熟するまで 世高の両親はとうに没くなって、他に そうして二人がいるうちに 劉万戸はそれを好まなかったが、辞することもできないので、夫人を伴れて京師へ向ったところで、張士誠という乱賊が蘇州に拠って その時世高と秀英の二人も、やはり張士誠の軍士の城内に侵入するのを避けて、群集に交って呉門まで逃げて往ったが、一軒の宿を見つけて入ろうとしたところで、劉万戸に似た老人がその入口に立っていた。秀英がそれを見て世高に囁いた。 「あれは、お父様ですよ、どうしてここにいらっしゃるのでしょう」 そこで世高は劉万戸の前へ往った。 「先生は杭州の方ではございませんか」 それは確かに劉万戸であった。世高はひっかえしてそれを秀英に囁いた。そして、二人は別室へ入ったが、秀英は母に遇いたいので、世高の止めるのも聞かずに、その夜両親の室の前へ往って泣いていた。 劉万戸夫婦は女の泣声を聞きつけて、秀英の声に似ていると言っていたが、とうとう起きてきて扉を開けた。そして、夫人は秀英の姿を見てもしや 劉万戸は人をやって、 そして、皆でそこに滞在しているうちに、張士誠の軍が敗れて、路がやっと通ずるようになったので、劉万戸は急に出発することになった。 世高は秀英といっしょに劉万戸に随いて上京しようとした。車に乗る時になって、劉万戸は秀英ばかりを乗せて、世高が乗ろうとすると遮った。 「お前のような者は、だめだ」 秀英は車の上から手を出して世高に取りついて泣いた。世高も決して離れまいとした。 「俺の家は、代々無位無官の者を婿にしたためしがない、女がほしいなら、読書して、高科にのぼるがいい」 劉万戸はこう言って世高を恥かしめてから車を出した。世高はそこに立って男泣きに泣いていたが、そのまま女と別れることができないので、その車の往った路と思われる路を通って、京師へのぼって往った。 劉万戸は大いに用いられて そのうちに旅費もなくなってひどく困ってきた。それはもう歳の暮で、街には雪が降っていた。世高は何の 世高はすぐ老婆が自分を死んだものとして恐れているということを知ったので、後から追っかけて往った。 「施十娘、施十娘、私は世高だよ、私は生きているのだよ、恐れることはないよ、私は理由があって、生きているのだよ」 そのとたんに老婆は転んで酒壷を前へほうりだした。世高はその傍へ寄った。 「施十娘、私は生きかえっているのだよ、決して死んでいはしないよ、恐れることはないよ」 そう言って老婆を抱き起し、それから酒壷も拾ってやりながら、自分と秀英の蘇生したことを話した。 「私は、後の祟りが恐ろしいので、その晩、李夫と二人で逃げだして、此方に女が縁づいておりますから、それをたよってきて、世話になっておりますよ」 世高はそれから老婆に伴れられて、老婆の 旅費に窮している世高は、そこで世話になって 一方劉万戸の方では、秀英を高位高官の者からもらいにくるので、そのつど婚姻をさせようとしたが、秀英が頑として応じない。しかたなしにそのままにしていたところで、文世高の名が聞えてきた。劉万戸は自分に明のなかったのをひそかに恥じていた。 世高はそこで施十娘を頼んで劉家へ再縁を言い入れた。劉家では喜んで承諾したので、すぐ婚姻の式をあげた。 世高は施十娘一家の者にも厚く報いて、親類として交際していたが、そのうちに世の中がますます乱れて、蘇州の家産も滅んでしまったので、夫婦で西湖へ帰って、劉家の旧宅に隠居して一生を終ったのであった。 底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社 1987(昭和62)年5月6日初版発行 底本の親本:「支那怪談全集」桃源社 1970(昭和45)年発行 入力:Hiroshi_O 校正:noriko saito 2004年12月14日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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