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申陽洞記(しんようどうき)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-25 9:20:07 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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元の天暦年間のことであった。 ある日 山のうねりがあり、岩の並んでいる谷底があり、雑木の林があった。李生はどこまでもとその獲物を追っ駈けた。落ちかけた夕陽がひょろ長い赤松の幹に射しているのが見えた。獣は見えなくなってしまった。李生はその獲物の姿の隠れて往った谷の下の林の方を見て立った。 いつの間にか陽が入っていた。紫色に煙って見える遠山の空に一抹の夕映の色が残っていた。李生は驚いて急いで山をおりようとした。方角は判らないが、夕映から見当をつけて、南と思われる方へおりて往った。林の下はうっすらと暮れていた。鳥や獣の啼く物凄い声が谷々に木魂をかえした。山のうねりが来た。李生はそのうねりを登って往った。古廟の屋根が見えた。李生はそれを見ると、そこで夜を明かして朝になって家へ帰ろうと思いだした。彼はその廟を目がけて登って往った。 古廟は柱が傾き、 人の声とも獣の声とも判らない声が聞えてきた。李生は耳を傾けた。それは国王や大官の路を往く時に どうも不思議な事だと李生は思った。こうした深山の中で、しかも夜になって警蹕する者は何者であろう。大胆不敵な強盗か、それとも妖怪の類か、とても普通の貴族大官ではあるまい。もしそうだとすると、こうしておることは危険である。これはどこかへ身を隠して、それを見届けたうえで、それに対する手段を考えなければならないと思った。彼はちょっと考えた後で、弓を持ってそこの柱へすらすらと登って、欄間から梁の上へ往った。 警蹕の声がすぐ入口に聞えて、紅い二つの燈が見えてきた。その燈に続いて数人の怪しい人影が見えたが、やがてそれが 果して妖怪の類であった。李生は矢を抜いて弓に添え、冠を著た妖怪を 朝になった。冷たい霧が朝風に吹かれて切れ切れになって飛んで往った。李生は起きて神座の 五里ぐらいも往ったところで、大きな穴があった。深い深い底の見えない穴の口に、出たばかりの朝陽があたっていた。血の滴点はその穴まで往って消えていた。李生はその穴を覗き込んだ。そして、その後で後ろの方を見返った。足をやっていた土が崩れて、彼は穴の中へ陥ちてしまった。 李生は意識がめぐってきた。彼はまず自分の体がどこにあるかということを考えてみた。自分は仰向けになって、固いごつごつした石の上に横たわっている。それでは自分はべつにたいして体も痛めずに、あの穴の底へ陥ち込んだものだと思った。彼は眼を開けた。 恐ろしい不安がその後からきた。李生はどうしてこの穴から出て往ったものだろうと思いだした。彼は足の向いている方へと 大きな 「その方は何者だ、どうしてここへやってきた」 番兵の一人が驚いたように眼をきょろきょろとさした。 「私は、府城の中に住む医者でございますが、薬を取りにきて、あっちこっちと歩いているうちに、足を滑らして、陥ちて困っておるところでございます」 李生は 「では、お前は医者か、医者なら手創の療治ができるか」 李生はうっかりすると 「私は好い薬をもっております、手創が治るばかしでなしに、それを飲むと、不老不死が得られます」 「そうか、それは天が神医を与えてくだされたのじゃ、大王申陽侯が昨日遊びに往かれて、流矢に当って苦しんでおられる、お前の薬を頼みたい、こっちへきてくれ」 その番兵は李生を連れて石室の中へ入って往った。石室の中にも昨夜古廟で見た姿の者が、そこにもここにも眼を光らして腰を掛けていた。 「ここで、控えておってくれ、大王に伺うてくる」 番兵は奥の方へ入って往った。李生はそこにあった 間もなく番兵が引返してきた。 「大王が非常に 李生は番兵に随いて往った。そこに二重門があって、それを入ると錦繍の 「あれにいらるるが大王であらせられる、早くお前の持っておる霊薬を差しあげてくれ、お前のことをお聞きになって、大王も非常にお喜びになっておられる」 番兵はこう言って李生の顔を見た。そこで李生は大王の方へ向って 「お創を拝見いたします」 大王は返事の代りに唸り声をたてた。傍にいた女の一人が傍へ寄って創を捲いている布をそろそろと解いた。毛もくじゃらの臂に血の生々した創があった。李生は近々と寄って往ってその創のまわりに指を触れた。 「私の持っておる薬は、仙薬でございますから、病をなおすばかりでなく、年も取らなければ死にもいたしません、こんな創ぐらいは、一度に癒ってしまいます」 大王はまた唸り声を立てた。李生は腰の皮袋をはずしてその中から石綿に浸した薬液を取りだし、その小部分を 「これをさしあげます」 大王はいきなりそれを口へ持って往った。李生はほっとしたが、それでも部下の者がどんなことをするかも判らないので気を許さなかった。 いつの間に集まってきたのか、三十個ばかりの部下の者が、目白押しに入口の処へ集まって、李生のくるのを待ち兼ねているようにしていた。李生は気味悪く思いながら寄って往った。 「私にも霊薬をいただかしてくだされ」 「あなたは神様だ、どうかその霊薬をくだされ」 「どうぞ、それを分けてくだされ」 彼らは口々に言いながら手を出した。李生は喜んだ。彼は石綿を片端から撮みとって、漏れなく皆の手へ渡してやった。 榻の上では大王が悶絶をはじめた。李生は飛んで往って榻の後ろの壁に懸けた二振の刀を執って、それを抜きながら振り返った。部下の者も皆悶絶をはじめてのた打っていた。 大王はもう動かなかった。李生はその刀を大王の首へ当てた。大王の首はころりと落ちた。李生は部下の方へ進んで往った。部下も片端から李生の刀を受けた。それが三十六個もあった。 三人の女は榻の傍へつっ伏して震えていた。李生はそれも妖怪であろうと思ったので、刀を持ってそれに迫って往った。 「助けてください、私達は怪しい者ではありません、ここへ連れられてきた者でございます」 一人の女が一生懸命の声を出して叫んだ。 「怪しい者ではありません、助けてください」 他の一人の女も叫んだ。李生は刀を控えた。 「お前達は、どこからきた者だ」 「私は府城からきた者でございます」 二ばん目に叫んだ女が言った。李生は数ヶ月前にいなくなった豪家の 「では、銭家の者か」 「そうでございます、どうか助けて、私を家へ送ってくださいますなら、どんなお礼でもいたします」 女は涙を流して言った。 「もう、心配することはない、皆連れて往ってあげる」 五六人の髭の長い老人が入ってきた。その老人の中に一人白い 「私達は 白い衣服の老人は、袂から黄金や 「あなた達は、神通力がありながら、何故こんな者どもに住居を取られたのです」 李生は不審をした。 「それは、私達は五百歳でございますが、この猿は、八百歳でございましたから、とても 李生はその老人達に路を訊いて帰ろうと思った。 「お礼などはいらない、その代り、帰る路を教えておくれ」 「それは、訳のないことでございます、眼をおつむりになるがよろしゅうございます」 李生と三人の女は、老人の言葉に従って眼をつむった。恐ろしい風の音と雨の音が聞えた。そして、その声が止んだので眼を開けた。自分達の立っている前を一匹の大きな白鼠が数疋の鼠を連れて歩いていた。李生達はその白鼠を見ていた。 鼠は見付の丘へ往って横穴を掘りはじめた。窓のような穴がすぐ開いた。李生達はその穴の処へ往った。穴の外には別の世界があった。李生達はその穴を抜けて往った。そこには見覚えのある山路があった。 李生は銭家へ女を送って往った。銭翁は大いに喜んで李生を婿にした。他の二人の女もいっしょにいたいと言いだしたので、李生はそれも置くことにした。 昨日まで無一物の旅の青年は、一度に三婦人を娶って富貴の人となった。李生はその後思いだして穴の出口のあった処へ往ってみたが、草木が茂っていて判らなかった。 底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社 1987(昭和62)年5月6日初版発行 底本の親本:「支那怪談全集」桃源社 1970(昭和45)年11月30日発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:Hiroshi_O 校正:門田裕志、小林繁雄 2003年8月3日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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