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悶悶日記(もんもんにっき)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-24 17:50:23 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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月 日。 郵便受箱に、生きている 月 日。 苦悩を売物にするな、と知人よりの書簡あり。 月 日。 工合いわるし。血痰しきり。ふるさとへ告げやれども、信じて 庭の隅、桃の花が咲いた。 月 日。 百五十万の遺産があったという。いまは、いくらあるか、かいもく、知れず。八年前、除籍された。実兄の情に 檀一雄氏来訪。檀氏より四十円を借りる。 月 日。 短篇集「晩年」の校正。この短篇集でお仕舞いになるのではないかしらと、ふと思う。それにきまっている。 月 日。 この一年間、私に 月 日。 姉の手紙。 「只今、金二十円送りましたから受け取って下さい。 月 日。 終日、うつら、うつら。不眠が、はじまった。二夜。今宵、ねむらなければ、三夜。 月 日。 あかつき、医師のもとへ行く細道。きっと田中氏の歌を思い出す。このみちを泣きつつわれの行きしこと、わが忘れなば誰か知るらむ。医師に強要して、モルヒネを用う。 ひるさがり眼がさめて、青葉のひかり、心もとなく、かなしかった。丈夫になろうと思いました。 月 日。 恥かしくて恥かしくてたまらぬことの、そのまんまんなかを、家人は、むぞうさに、言い刺した。飛びあがった。下駄はいて線路! 一瞬間、仁王立ち。 月 日。 五尺七寸の毛むくじゃら。 月 日。 山岸外史氏来訪。四面そ歌だね、と私が言うと、いや、二面そ歌くらいだ、と訂正した。美しく笑っていた。 月 日。 語らざれば、うれい無きに似たり、とか。ぜひとも、聞いてもらいたいことがあります。いや、もういいのです。ただ、――ゆうべ、一円五十銭のことで、三時間も家人と言い争いいたしました。残念でなりません。 月 日。 夜、ひとりで便所へ行けない。うしろに、あたまの小さい、白ゆかたを着た細長い十五六の男の児が立っている。いまの私にとって、うしろを振りむくことは、命がけだ。たしかに、あたまの小さい男がいる。山岸外史氏の言うには、それは、私の五、六代まえの人が、語るにしのびざる残忍を行うたからだ、と。そうかも知れない。 月 日。 小説かきあげた。こんなにうれしいものだったかしら。読みかえしてみたら、いいものだ。二三人の友人へ通知。これで、借銭をみんなかえせる。小説の題、「白猿狂乱。」 底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房 1989(平成元)年6月27日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房 1975(昭和50)年6月~1976(昭和51)年6月 初出:「文芸」 1936(昭和11)年6月1日発行 入力:土屋隆 校正:noriko saito 2005年3月17日作成 2006年7月2日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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