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春の枯葉(はるのかれは)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-22 9:22:25 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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(節子)(変った声で)でも、それが本当だったら?
(奥田)(どぎまぎして)え? 何がですか?
(節子) 野中のその空想が。
(奥田) おくさん! (怒ったように)何をおっしゃるのです。
(節子)(声を挙げて泣き)わたくしは今まで何一つ悪い事をした覚えがありません。それなのに、なぜみなさんがわたくしをこんなにいじめるのでしょう。わたくしは自身の楽しみは一つもせずに、野中の家のために努めて来ました。家の名誉を大事に守るというのは悪い事ですか? 教えて下さい。あすの生活の不安の無いように、辛抱してむだ
(奥田) おくさん。善悪の彼岸という言葉がありますね。善と悪との向う岸です。倫理には、正しい事と正しくない事と、それからもう一つ何かあるんじゃないでしょうかね。おくさんのように、ただもう、物事を正、不正と二つにわけようとしても、わけ切れるものではないんじゃないですか?
(節子) よくわかりませんけれど、それでは、わたくしが何か間違いを起しても?
(奥田)(笑って)それあいけません。どだい、不自然ですよ。それこそ、おくさんの空想の領域です。おくさんは、野中先生をずいぶん大事にしていらっしゃる。それがまた、おくさんの生き 遠くから、はる、こうろうの花のえん、の合唱が聞える。学童たちの声にまじって、菊代らしき女の声もまじる。 間。 (節子)(冷静になり、顔を挙げて、はっきり)そうお願い致します。
(奥田)(かえってまごつき)なんですか?
(節子)(それにかまわず、遠くの歌声に耳を傾け)ああやって歌をうたって遊ぶのが、都会ふうで、そうして文化的とかいうもので、日本はこれから、男も女もみんな、菊代さんのようにならなければならないのでしょうか。わたくしのような、旧式な田舎女は、もう、だめなのでしょうか。わたくしには、やっぱりどうしても、わかりませんわ。なぜ、人間は、都会ふうでなければいけないのです。なぜ、田舎くさいのは、だめなんです。
(奥田) 人間がだめになったんですよ。張り合いが無くなったんですよ。大理想も大思潮も、タカが知れてる。そんな時代になったんですよ。僕は、いまでは、エゴイストです。いつのまにやら、そうなって来ました。菊代の事は、菊代自身が処理するでしょう。僕たち二十代の者は、或る点では、あなたたちよりもずっと
(節子)(しずかに)それは、どんな意味ですの?
(奥田) 妹は妹、僕は僕、という事です。いや、人は人、僕は僕、と言ってもいいかも知れない。おくさん、あんまり他人の事は気にしないほうがいいですよ。
(節子) でも、菊代さんは、わたくしどもをいじめます。野中をそそのかして、わたくしどもの家庭を、……。
(奥田)(笑って)引越しますよ、すぐに。
(節子)(にくしみを含めて)たすかりますわ。 歌声すこしずつ近くなる。 風吹く。枯葉舞う。 (奥田) 寒くなりましたね。(寝ている野中のほうを
(節子) 悪いお酒じゃないんですか? 頭が痛い痛いと言っていましたけど。
(奥田) だいじょうぶでしょう。あれと同じ酒を、漁師たちが朝から飲んでいて、それでなんとも無いようですから。
(節子) でも、あの人たちと野中とでは、からだがまるで違いますもの。
(奥田) 試験台にはなりませんか。(笑う)どれ、僕が背負って行ってやろうかな?
(節子)(それをさえぎって、鋭く)いいえ。わたくしが致します。もう、お
(奥田) 他人は他人、 風さらに強く吹く。 歌声いよいよ近づく。 (節子)(奥田を見送り、それから、しゃがんで野中の肩をゆすぶる)もし、もし。 風。枯葉。歌声。
――幕。 底本:「太宰治全集8」ちくま文庫、筑摩書房 1989(平成元)年4月25日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房 1975(昭和50)年6月から1976(昭和51)年6月 入力:柴田卓治 校正:土屋隆 2005年1月15日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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