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庭(にわ)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-22 9:07:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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東京の家は爆弾でこわされ、 しかし、この本州の北端の町にも、 そうして、ほどなくあの、ラジオの御放送である。 長兄はその翌る日から、庭の草むしりをはじめた。私も手伝った。 「わかい頃には、」と兄は草をむしりながら、「庭に草のぼうぼうと それでは私なども、まだこれでも、若いのであろうか。草ぼうぼうの廃園は、きらいでない。 「しかし、これくらいの庭でも、」と兄は、ひとりごとのように低く言いつづける。「いつも 「やっかいなものですね。」と 兄は 「昔は出来たのだが、いまは人手も無いし、何せ爆弾騒ぎで、庭師どころじゃなかった。この庭もこれで、 「そうでしょうね。」弟には、庭の趣味があまりない。何せ草ぼうぼうの廃園なんかを、美しいと思って 兄はそれからこの庭の何流に属しているのか、その流儀はどこから起って、そうしてどこに伝って、それからどうして津軽の国にはいって来たかを説明して聞かせて、自然に話は 「どうして、お前たちは、利休の事を書かないのだろう。いい小説が出来ると思うのだが。」 「はあ。」と私は、あいまいの返辞をする。居候の弟も、話が小説の事になると、いくらか専門家の気むずかしさを見せる。 「あれは、なかなかの人物だよ。」と兄は、かまわず話をつづける。「さすがの 「はあ。」と弟は、いよいよあいまいな返辞をする。 「不勉強の先生だからな。」と兄は、私が何も知らないと見きわめをつけてしまったらしく、顔をしかめてそう言った。顔をしかめた時の兄の顔は、ぎょっとするほどこわい。兄は、私をひどく不勉強の、ちっとも本を読まない男だと思っているらしく、そうして、それが兄にとって何よりも不満な点のようであった。 これは、しくじったと居候はまごつき、 「しかし、私は、どうも利休をあまり、好きでないんです。」と笑いながら言う。 「複雑な男だからな。」 「そうです。わからないところがあるんです。太閤を軽蔑しているようでいながら、思い切って太閤から離れる事も出来なかったというところに、何か、濁りがあるように思われるのです。」 「そりゃ、太閤に魅力があったからさ。」といつのまにやら 「でも、やっぱり利休は秀吉の家来でしょう? まあ、茶坊主でしょう? 勝負はもう、ついているじゃありませんか。」私は、やはり笑いながら言う。 けれども兄は少しも笑わず、 「太閤と利休の関係は、そんなものじゃないよ。利休は、ほとんど諸侯をしのぐ実力を持っていたし、また、当時のまあインテリ大名とでもいうべきものは、無学の太閤より風雅の利休を慕っていたのだ。だから太閤も、やきもきせざるを得なかったのだ。」 男ってへんなものだ、と私は黙って草をむしりながら考える。大政治家の秀吉が、風流の点で利休に負けたって、笑ってすませないものかしら。男というものは、そんなに、何もかも勝ちつくさなければ気がすまぬものかしら。また利休だって、自分の奉公している主人に対して、何もそう一本まいらせなくともいいじゃないか。どうせ太閤などには、風流の虚無などわかりっこないのだから、 「人を感激させてくれるような美しい場面がありませんね。」私はまだ若いせいか、そんな場面の無い小説を書くのは、どうも、おっくうなのである。 兄は笑った。相変らずあまい、とでも思ったようである。 「それは無い。お前には、書けそうも無いな。おとなの世界を、もっと研究しなさい。なにせ、不勉強な先生だから。」 兄は、あきらめたように立ち上り、庭を眺める。私も立って庭を眺める。 「綺麗になりましたね。」 「ああ。」 私は利休は、ごめんだ。兄の居候になっていながら、兄を一本まいらせようなんて事はしたくない。張り合うなんて、恥ずべき事だ。居候でなくったって、私はいままで兄と競争しようと思った事はいちども無い。勝負はもう、生れた時から、ついているのだ。 兄は、このごろ、ひどく痩せた。病気なのである。それでも、代議士に出るとか、民選の知事になるとかの いろいろの客が来る。兄はいちいちその人たちを二階の応接間にあげて話して、疲れたとは言わない。きのうは、 「こんな時代ですから、 と、東京でも有名なその女師匠に、全くの 「大きい!」と大向うから声がかかりそうな有様であった。 兄がいま尊敬している文人は、日本では 兄は、けさは早く起きて、庭の草むしりをはじめているようだ。野蛮人の弟は、きのうの新内で、かぜをひいたらしく、離れの奥の間で 底本:「太宰治全集8」ちくま文庫、筑摩書房 1989(平成元)年4月25日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房 1975(昭和50)年6月~1976(昭和51)年6月 入力:柴田卓治 校正:もりみつじゅんじ 2000年2月1日公開 2005年11月4日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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